第18話 人の噂も三千六百五十日?
私とアーレス様と女王陛下と剣の守護者様の四人が、魔術研究所の正面玄関前のフロアにいた。
本当はそこに、私のご主人様のテオドール様も一緒にいたのだけど……
「テオドール様がいない?」
私が混乱していると、アーレス様が涙を啜りながら声をかけてきた。
「テオドール伯爵は、おそらくお兄様を見たからいなくなったのだと思いますわ」
「え?」
どうしてテオドール様が剣の守護者様を見たらいなくなるのか、関連性が分からずに戸惑ってしまう。
「マリアさんがご一緒に男性は、ピストリークス伯爵よね?」
女王陛下が私に声をかけてきた。
「はい、そうです」
すると、剣の守護者様が乱暴な口調で、女王陛下に声をかけた。
「なんだ? あの黒い魔術師はピストリークス家のやつか?」
「ソル、そうみたいよ」
二人のやりとりをみながら、私は内心複雑だった。
(大好きだった剣の守護者様が乱暴な口調……品行方正な彼に憧れていたのに……夢が崩れていく)
だけど、それ以上にテオドール様のことが今の私の心の中を支配していた。
「ピストリーク伯爵、あの祝い事の場にいたのよね」
女王陛下は口に手を当てて、考え込みはじめた。
(祝い事の場、もしかしてテオドール様のお父様が摘発されたという? その場にテオドール様もいたの?)
女王陛下が口を開いた。
「あの時、姫だった頃の私に声をかけてきたご令嬢が、確かテオドール伯爵のお姉さまのはず」
「ああ、思い出した。姫のあんたに、無礼な口をきいてきた女だろ?」
「ええ、まあ、そうね……マリアさんも事件のことはご存じかしら?」
女王陛下が私に声をかけてきた。
「はい、街の人たちが噂をしている程度の内容ですが……」
アーレス様が話に入ってくる。
「あなた……アリアではなくマリアというの? まあ、どちらでも良いわ。その時の祝いの場で、テオドール伯爵の姉が、姫様時代の女王陛下に暴言を吐いたのですわ」
「姫様時代の女王陛下に暴言を?」
「ええ。それで、お兄様と、お義姉様の元婚約者が、テオドール伯爵の姉に対して憤慨しましたの。ちなみに事件の全容が明らかになったのは、テオドール伯爵の姉が、女王陛下の元婚約者に恋をしてしまって、べらべら情報を漏洩してしまったからなのですけど……」
女王陛下の元婚約者に恋、というアーレス様の発言。それを聞いた時に、女王陛下が苦笑していた。
気にせずに、アーレス様は続ける。
「その場にいて、父と姉が連行される姿を見たテオドール伯爵は、大衆のいる場に出ることが出来なくなってしまったのです。おそらく、剣の守護者である私のお兄様の顔も見たくないのだと思います」
(まだお若いテオドール様にとっては、とてもショックな出来事だったに違いないわ)
彼に想いを馳せると、私の胸は痛んだ。
剣の守護者様が、アーレス様に向かって話す。
「俺は、あの時、特段何もしていないんだがな」
その時、その場に別の男性の声が聴こえた。
「残念ながら、坊ちゃんが剣の守護者様を嫌いな理由って、それだけじゃないんですよね~~」
意味ありげな発言をして現れたのは……ピストリークス伯爵家の執事・オルガノさん、その人だったのでした。
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