灰銀のレイド ~自称世界最高、なんとなく世界を滅ぼします。方法はハーレムで~

ミツメ@物書き

第1話『最後の仕事 その一』


「俺様、この組織抜ける」

「は?」


 煌びやかな内装の部屋でソファに座る青年がそう言った。

 息を飲むほど端正な顔をした青年だ。男性的な精悍さと女性的な色気を持つ、不思議な美しさだ。それは魔貌と称されている。

 彼は隣に座る小柄なメイドに左手の爪の手入れをさせており、悠々とソファでくつろいでいた。そして

 そんな彼を目の前に、もう一人の神経質そうな青年は目を剥いて驚いていた。


「聞き間違いだろうか。もう一度言ってくれ」

「ここ辞めて、北に行く」

「な、なぜこんな急に……?」

「俺様がいなくともやっていけると判断したのでな。もとより予定の内に入っていた。それにお前を含め、信頼でき、有能な人材が育っている。この一か月、ほとんど手を貸さなかったがしっかりとやれていて実務面も問題ないと確信した」


 メイド、アストラエアが右手に移動する。こちらは小指に指輪がはめられている。


「……あなたのことだ。簡単に言葉を取り消すことはない」

「よぉ分かっているじゃないか」

「だがなぜ北に行くのか。北には血と剣しかない」

「それに用がある。執務ばかりでは身体がなまるのでな、たまには体を動かしたのだよ」

「本当の目的を言うつもりはないということか」


 神経質そうな青年、ダグラスは重たいため息をつく。

 レイドは彼を一瞥すると、つまらなそうに口を開いた。


「んじゃダグラス、最後の仕事にとりかかろうか」

「あぁ」


 青年、ダグラスはレイドから視線を外し、に向いた。

 

「「「……」」」


 レイド、アスト、ダグラスの三人と違い、この三人はいずれも中年から上の年齢だ。本来は年上目上として敬うべき立場だが圧倒的に見下ろされている。明らかな上下関係がその場にはあった。


「ダグラスくん、このままでは話すことはできない。ギャグボールを外してあげたまえ」


 彼自身はしたくないのか、部屋の脇に立っていた(これまた若い)執事服の男たちに顔を傾けて指示を出す。

 まもなくして口から玉が取り外された。


「お、おい! 何を考えてこんなことしてる! そもそもお前は誰だ! がふ!」


 口を開いた真ん中の男の顔にダグラスの蹴りが入る。

 それを見た他二人は現状を理解した。彼らは気分次第で自分たちを殺すと。


「……お前、裏の人間だな」

「ご名答。新進気鋭のスーパー超新星犯罪組織『シルバー』の頭を張ってるレイド様だ」

「もうやめるがな」

「お前がレイド……!」

「まさか実在し、こんな若い男とは!」


 三人は驚愕に目を見開く。


「うむ、いい反応だ。お前らがここに呼ばれた意味は分かっているだろう」


 言葉は向けているものの、レイドの視線はアストが手入れした爪に向けられている。


「俺が『レガルテ』のリーダーだからだろう」

「さすが先輩方は理解が早い。麻薬密売組織『レガルテ』のリーダー、レオナルド。暗殺専門組織『アマンガード』のリーダー、ホメロス。人身売買組織『カナリア園』のリーダー、ハクーツク。泣く子も黙る、西大陸屈指の犯罪者ども。顔合わせは初めてか? これから同僚になるのだから挨拶はしておけ」


 レイドの言葉にぎょっと三人は視線を交わす。

 彼の言っていることは不可解だが、無能ではない彼らは即座に話を合わせる。


「何が目的だ? 金か? 組織か?」

「全部だ。お前らがやっていた悪事を俺様とダグラスの下で管理したいのだよ。俺様は悪いことが嫌いでな、しかし利用はできる。理解したか?」

「ふざけるな……。すでに捜索は始まっている。遅かれ早かれお前は殺されるだろう……」

「無理だ。もうお前ら以外は俺様に従っている。言っただろう? 最後だと。あとはお前らの了承を頂ければ終わりなのだ」

「な、なに?」


 ダグラスが紙を数枚落とす。

 そこには彼らの組織に属する幹部たちの血判が押されていた。


「いつの間に!?」

「利があれば悪人も善行を容認するんだな。知らんかった」

「こたえ、がふっ!」

「質問して回答が貰える立場だと思っているのか? お前らは彼の言葉に従うだけでいい」


 カランカランとナイフが目の前に落とされる。そして彼らを縛っていた縄が解かれた。三人はおずおずと顔を見合わせ、左のホメロスが手に取る。


「シッ!」


 そして素早い動きでレイドの隣にいたアストに向かっていった。

 人質に取ろうとしたのだろう。彼に勝てない。レイドの力量をこの一瞬で推し量れたのは流石といえる。


(仮定として将軍級の実力があるとしよう。だがこの距離で、しかも座っている状態から対応はできまい!)


「そしてこの最強の暗殺者ホメロスが動くのだ!」


 将軍級。それはこの国で最高峰の武力を持つことを意味する。

 ──しかしそれでもまだ足りない。


 バチンッ!! と何かが弾ける音が聞こえた。

 それはホメロスが弾けた音だった。

 彼が一歩踏み出した瞬間、まるで風船のようにその場で弾けたのだ。

 血も、衣類も残らない。ただナイフだけが音を立てて落ちた。


「「──」」


 絶句する残り二人。何が起きたか全く理解できなかった。

 ただおぞましい何かが起き、それがすぐにでも自分に向く可能性があることは理解した。

 ここで初めてレイドが視線を向ける。ゆっくりと、恐れを刻みつけるように。


「最初に話しておかなかった俺様にも落ち度はあるが、俺様と関わるにあたって犯してはいけない禁忌がいくつかある。今のはその一つ、『俺様の女に手を出そうとした』、だ。破れば即、死。言い訳は聞かん」


 レイドはアストを抱き寄せる。あまり表情を動かさない彼女だが、頬を赤く染め、彼の胸に体重を預ける。


「なんか説明書とかは……」

「ない。空気を読んで対応しろ。運が良ければ見逃してもらえる」

「お前も最初は俺様に歯向かってきたもんな。あの時は有能な奴が欲しいから許したが、今ならすぐに首チョンだぞ。がははははは!!」


 レイドが首に手刀を立てて大笑いする。ダグラスは苦笑いだ。

 『彼に歯向かってはいけない』。二人は胸に刻み込んだ。


「そういうことだ。書くなら早めにしたほうがいい。彼は寛大だが聖者ではない。殺すときは早いぞ」

「「……っ!!」」


 二人は急いで指をナイフで切った。

 そして即座に血判を押す。仄かに光る契約紙は滞りなく完了した証だ。

 レイドはそれを確認するとうなづいた。








「では死んでもらうか」



「「!?」」

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灰銀のレイド ~自称世界最高、なんとなく世界を滅ぼします。方法はハーレムで~ ミツメ@物書き @huzikawa369

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