第24話 王国の真実
「ど、どうして私が『死に戻り』しているってわかったんですの?」
『死に戻り』していることは私以外誰も知らないはず…。なのに何故わかった?
いくら観察眼が鋭いと言おうともさすがにこんな奇想天外なことを言い当てられるわけがない。もしそんなことが出来たというのならばそれは最早人間と呼んでいい存在ではないだろう。
伯爵という存在が途端に恐怖でしかなくたってしまった。
「 どうしてわかったのか、か。それはお前同様俺も『死に戻り』を繰り返しているからだ」
「はっ、えっ!?、えぇ!?」
それは予想だにしていない答えだった。
『死に戻り』をしているのは私だけではない?
まさかの真実に頭の中が真っ白になった。
「最初は俺も戸惑ったさ。苦労して起こし成功させたクーデターがすべてなかったことになっていたんだからな。さすがの俺も今のお前のように一体何が起きたのか理解出来ずに困惑したさ。とりあえず事態を把握しようとした。ところがそんなことを考えている暇もなく処刑されてしまった。誰かさんがいらんことを国王に告げ口してくれたおかげでな」
ドキッ!?心臓が飛び跳ねた。
もしかして怒ってる…?否、絶対に怒ってるよね、その言い方…。
今彼はどんな顔をしている?恐怖から伯爵の顔を見られず、思わず目を逸らした。
「だがそのおかげで何が起こっているのか理解することが出来た。何故なら告げ口した誰かさんはまるで実際に見てきたかのように俺が起こしたクーデターの内容を事細かに話したそうだ。まるで予言者のようにな。しかもその内容は確かに俺が起こした内容とまったく同じものだった。不思議だよな、実際にクーデターが起きたはそれから2年後のことなのに…。そのとき思ったんだよ、こいつは未来を知っている、とな」
怯える私にさらにプレッシャーをかけるように静かに語ると一歩足を前に踏み出した。私との距離が一歩縮まった。
足音にビクリと体を跳ねさせると、私は彼から距離を取るために一歩後ろへ下がった。
しかしフィードル伯爵はお構いなしとばかりにまた一歩足を踏み出した。それに応じて私もまた一歩後ろへ下がった。
こんなことを数歩繰り返していると、背中が木の幹にぶつかった。これ以上後ろへ下がることは出来ない。私は逃げ道を失った。
すると逃げ場のなくなった私に伯爵は片手を伸ばした。そしてまるで壁ドンをするかのように私の顔のすぐ横にその手を突いた。
「!?」
傍目にはロマンチックな光景に見えるかもしれないが、私には嫌な予感しかしていなかった。
もしかしてここで殺されるのか?いろんな感情が頭の中をグルグルと駆け巡った。
すぐにでも逃げ出したかったのだが足はまったく動かかなかった。
見つめられる冷たい視線に冷や汗が止まらなかった。
「俺もまた誰かさんと同じようにこの国でこの後起こる未来を知っていた。そして処刑されると再び今日と言う同じ日に戻っていた。その時俺は確信したんだ。俺は『死に戻り』をしているんだと…。そしてこれをしているのは俺だけではないということもな。これがどうして俺が『死に戻り』を知っていたのかという質問への回答だ。異議はあるか?」
向けられた鋭い視線に黙って首を横に振った。
私の様子を確認した伯爵は手を退けると私に背中を向け元居た場所へとゆっくり歩きだした。
話はまだ終わっていないように感じたので黙って伯爵の後ろに続いた。
しかしたった一回の出来事からそこまでのことを瞬時に考察したのかと思うと、伯爵の地頭の良さを改めて思い知ることとなった。さすがは天才と呼ばれるだけのことはある。
「しかし、お前も当然そのことを分かっていると思っていたんだが、呑気に今まで通り自由気ままな生活を謳歌しだしたときには正直呆れたぞ。コイツ、『死に戻り』を終わらる気がないのかってな」
足を止めた伯爵は振り向きざまに言葉通り呆れが込められた視線を私に向けた。
あれ?もしかして私、馬鹿にされてる?
関心して尊敬の眼差しさえ向けようとしていたところに掛けられた皮肉に少しムッとなった。
「そんなこと言われても知らないわよ!私は貴方とは違って賢くないんですから、何をしたらいいかなんてすぐに思いつかなかったんだから!それに気付いていたのなのならもっと早く言ってくだされば良かったのに!」
強く抗議した。
「今まで何のためにあんな思いを何回も経験しなくちゃいけなかったのよ!」
もしこのことをもっと前に知っていればあんな嫌な経験をせずに済んだはずだ。
これでは完全に無駄死にではないか。ガックシと肩を落とした。
「まぁそんなことを言うな。あれはあれで必要なことだったんだ」
「はい?どういうこと?」
口を尖らせていじける私を諭すように伯爵は声をかけてきた。
「お前が何度も『死に戻り』を繰り返したおかげで色々と確認することが出来た、ということだ」
「確認?一体何の確認していたんですの?」
「どうしてこの『死に戻り』が起こっているのか、そしてそれを終わらせるための方法だ」
「えっ!?終わらせる方法!?」
核心とも言える内容に思わず伯爵の元に詰め寄った。
「それで、方法はわかったんですの?」
「あぁ、大方の検討はついた」
「本当ですの!?」
あまりにも急転直下過ぎる出来事に興奮せずにはいられなかった。
やっとあの『死に戻り』から解放される…。喜びと安堵の気持ちで一杯になった。
「一体何をすればいいんですの!?」
一刻も早く終わらせたい。逸る気持ちを抑え消えなかった。
「順を追って説明するからまずは落ち着け」
そんな私を伯爵は制止した。
そこで初めてすぐ目の前に伯爵の顔があることに気が付いた。興奮のあまり彼に体をぶつける様な形になっていた。それはまるで私の方から彼に抱き着きに行っているようだった。
「!?」
途端に恥ずかしくなりその場から飛び退いた。
私が落ち着いたのを確認すると伯爵は説明を始めた。
「まずは『死に戻り』についてだ。『死に戻り』というぐらいだから当然死なないとそれは起こらない、ということはわかるな?」
「もちろんですわ」
それくらいはさすがにわかる。少し馬鹿にし過ぎではないだろうか?
「最初の世界でお前は俺によって処刑された。それによってお前は『死に戻り』をした。間違いないな」
「えぇ、そうですわ」
「では聞こう。俺は何故最初の世界から『死に戻り』することになったと思う?」
「えっ?」
言われて初めて気が付いた。王族全員が処刑されクーデターは成功したはずだ。なのに彼が『死に戻り』っているということは彼は最初の世界で死んだということになる。彼の身に一体何が起こったのだろう?
「変な物でも食べたとか?」
「違うな」
「……貴方を巡って女同士のいざこざが起き、思い通りにならなかったある令嬢が自暴自棄になって貴方を巻き沿いに自殺を図ったとか?」
「お前が意外と物語を作る素質があるということはわかったがまったく違うな」
「じゃあ、新しく貴方が王に就いたけれど、それに納得がいかなかった誰かに闇討ちにあったとか?」
「今のところ一番まともな答えだが、それも違うな」
どうやらどちれもこれも的外れだったようだ。
「じゃあ、一体何が起きたっていうの?」
考えることを放棄して早々と答えを聞くことにした。私は自慢ではないが粘り強さというものがまったくないのだ!
「それを話すに当たって、お前はこの国にかけれた『呪い』を知っているか?」
「『呪い』?何のことですの?」
そんなものがあるなんてお父様から一度も聞いたことはない。
首を横に振って知らないことをアピールした。
「だろうな」
伯爵は当然だと言わんばかりの反応をした。
「一体その『呪い』が何だと言うんですの?」
「まずは最初の世界、お前たち王族が全員処刑された後に起こった出来事について話そう」
そう言うと静かに伯爵は話始めた。
◆◆◆
ベラス一族が処刑された後、フィードル伯爵が新たな国の指揮を執ることになった。旧王国の解体に合わせて王城の一斉捜索が行われた。
城内の資料室には大量の書物が調査・研究もされず埃の被った状態で放置されていた。
学者達により資料の調査が行われると、この国に関わるとんでもない事実が記された書物が発見された。
『ベラス一族の血が途絶えたとき、この国もまた途絶えることになるだろう』
最初はわけがわからず、ただベラス一族を神格化するために作られた創作物だと思われた。しかし数カ月後、国内のあちこちで突如天変地異が相次いで発生した。
大きな地震が何度も起こる。
熱波と大寒波に襲われる。
旱魃が起こったかと思えば大雨が降り大洪水が起こる。
夏なのに大雪が降る。
この国には存在しないとされていたはずの不治の病が突如として大流行する。
新国家は早くも国家の体をなさなくなってしまった。
国内で無事なところはなく、避難した先でもまた新たな被害を受ける。国民は皆疲弊していた。
堪らず国から逃げ出そうとする者も大勢いた。しかし不治の病が大流行していたため国境は封鎖され国を逃げ出すことは出来なかった。
閉じ込められた旧王国の国民はただ災いに耐えるしかなかった。
しかし終焉の時は直ぐにやって来た。
疲弊しきっていたところをダメ押しとばかりに大嵐が発生した。嵐は国を縦横無尽に動き回り壊滅的な被害を与えた。
それでも病の流入を恐れた周辺国はどこも援助の手を差し伸べることはなかった。
救助も出来ず支援の手も入らない。備蓄もついに底をつく。そこはまさに地獄だった。精神的にも肉体的にも限界を迎えるのにそう時間はかからなかった。
こうして旧ベラス王国はひっそりと滅亡した。
◆◆◆
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