第23話 天国から地獄
王城の裏には広大な森が広がっている。森の中には城の水源にも使われいる大きな湖がある。湖の周りには散策路が整備されており、王族の散歩コースとして使われていた。
その散策路のスタート地点に当たる場所に、初代国王ベラス1世の銅像が建っている。
城から抜け出し歩くこと数分。森の中に入るとすぐに湖が見えてきた。
ポケットから懐中時計意を取り出すと、時刻はちょうど1時になろうとしていた。
月明かりが水面に反射してキラキラと光り水面を背景に湖畔に立つ銅像のシルエットが黒く浮かび上がってた。
銅像の前に到着する。しかしそこには誰の姿もなかった。
あれ?誰もいない……。
もう一度時計を確認する。時刻は1時を少し過ぎていた。
もしかして1秒でも遅れたらいけなかったのだろうか?
もう彼は帰ってしまったとか?
いやいや、さすがにそれはないだろう。しかし何かと細かそうな性格に見えないこともない。もしかしたら本当にその可能性もあるかもしれない。
『5分前行動は基本だ。遅れるなんて論外だ』
そんなこと言うフィードル伯爵の姿が簡単に想像出来た。
だとしたら彼と付き合うなんて無理だ。ストレス以外の何者でもない。自堕落で時間にルーズな私には到底無理な話だ。
ブルっと思わず身震いをしたときだった。
「やっと来たか」
振り返るとそこにはこの世のものとは思えない美男子の姿があった。
二重瞼にくっきりとした瞳、小鼻ながらシュッと通った鼻筋、薄い唇、雪のように白くきめ細かい肌、目元にあるほくろがよりセクシーさを引き立てる。180センチを超える長身にさらさらとした清潔感のある髪、服の上からでもわかる引き締まった体。改めて見ると非の打ちどころがないほどすべてが完璧だった。
月明かりに照らされ超絶イケメンはいつもの何倍も妖艶さが増していた。
「…お、お待たせして申し訳ありません」
見惚れすぎて一瞬言葉を失ってしまっていた。
「それで、今宵はどのような御用でしたでしょうか?」
胸の高鳴りを押さえつつ、冷静を装った。
「あぁ、実はずっとお前にずっと言いたいことがあってな」
何やら少しもったいぶった言い方をした。
以前彼は幼い時に私たちは会ったことがあると言っていた。
もしかしてその時に一目惚れでもされてしまったのだろうか?
アリエルだって言っていた。私は見た目は可愛いらしいのだ!
月明かりに照らされ、ますます妖艶さを増したイケメンは私の目の前で立ち止まるとそのまま少し体を前に少し倒した。私の顔と彼の顔はほぼ同じ高さとなった。
あと少し首を動かせば、お互いの顔のパーツが触れ合う。そんな近さだった。
誕生日パーティのときのデジャヴだ。
もしかして本当はあのとき彼は私の唇を奪おうしていたんじゃないか?しかし怖気づいて出来なかった。そこでリベンジをするためにこんな人気のない場所にまで私を呼びつけたのではないだろうか。
ドキンドキンと心臓の鼓動が速くなる。
彼の顔がゆっくり横を向く。口が私の耳元に近づく。
これって、やっぱり!
私はゆっくり目を閉じた。
そして、
「お前は今、何回目の死に戻りだ?」
「はっ?」
閉じた目を開けた。
目の前には相変わらず整った美貌が大接近していた。しかし今はそんなことはどうでもよかった。
「今、……何と、おっしゃいました?」
「『お前は今、何回目の死に戻りだ?』と言ったんだ」
「えっと……、何をおっしゃっているのですか?」
別の意味で心臓が止まりかけた。冷静さを装おうとするのだが、どうしても目が泳いでしまい明らかに動揺しているということを隠しきれていなかった。
「お前こそ何を言っている。お前は今まで何度も死を経験しているはずだ。そしてその度、16歳の誕生日の朝に戻ってきている。違うか?」
「は、伯爵様は物語を創作する才能もお持ちなのですね」
引きつった笑顔を浮かべ、なんとか口にした。
苦しすぎるが、これが今出来る精一杯だった。
「そうか。なら、一度俺の考えた物語を聞いてもらおうか」
少し愉快そうに口元を緩めると、
1回目の死。クーデターから逃げ3日3晩森の中を彷徨い歩いたものの拘束。その後ギロチンにかけらて処刑される。
2回目の死。メイドと伯爵がクーデターを起こす計画があると触れ回り処刑させたがそれに怒った民衆のクーデターに会い処刑される。
3回目の死。突如起きたクーデターにより押し入った兵士によってわけもわからないまま剣で切り殺される。
4回目の死。誕生パーティで欠伸をしたことが原因で幽閉され、知らぬ間に起こったクーデターで処刑される。
5回目の死。3回目と同じく突然起きたクーデターでメイドをかばって切り殺される。
6回目の死。自らの行いによりメイドが処刑。その弟により殺される。
7回目の死。買い物帰りに貧民街に立ち入り、そこで負傷。そのときの怪我が原因で死亡。
「8回目の死は『真実を受け入れられないわからずやの馬鹿王女はこの場で切り殺した』とでもしようか?」
全身がガクガクと震えた。
鳥肌が立ち、冷や汗と脂汗が一気に噴出した。
「……どうして?」
どうして彼がそのことを知っているの?
彼の話はすべて私が経験してきた真実だった。
「改めてもう一度聞く。お前は今まで何度も『死に戻り』を経験している。違うか?」
冷たく鋭い視線が私を見つめた。
蛇に睨まれた蛙のようになった私は無言で彼の言葉に頷いた。
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