第44話 清拭
持ってきた手桶の湯で、ギルベルトが、クラウスの肌を拭う。クラウスの両手は縛られたままで、これでは、行水もままならない。
足の戒めは、ギルベルトと一緒の時には、解かれていた。だが、どこへ行くにも、必ず彼の監視の下でだった。
そんな待遇とは裏腹に、クラウスの肌を拭っていくギルベルトの手は、とても優しい。
明かりはつけず、月明かりの下で、クラウスは全裸にされていた。両手の戒め以外、身に着けるものはない。肩、背、胸、腹、そして……。
恥ずかしさも衒いも、もはやなくなっていた。子どものように素直に、ギルベルトの世話を受けている。
もしくは、愛撫を。
清拭が終わると、ギルベルトは、クラウスを抱きしめた。全裸の彼を、服を着たままの自身に密着させる。
腕の力を緩め、目尻に接吻をした。鼻に、頬に、唇に。
縛られたままの両手が、胸を突き飛ばした。
ギルベルトは苦笑した。
「これは、裏切りなんかじゃないだろ? 彼は結婚する。正しい場所へ戻るんだ。もう、お前とは会うこともあるまい」
意地悪い声だ。クラウスの体から、力が抜けた。
少し離れ、首筋からキスを再開する。首筋のあざは、ギルベルトがつけたものだけになっていた。軽くなめ、また吸って、あざを更新する。
……。
行為の後、体を清める際に、ギルベルトはクラウスの両手の拘束を外した。ぼんやりと横たわったまま、クラウスは、そのことに気づきもしない。
ギルベルトは、部屋を出ていこうとした。
耳元に、空気を切る鋭い音がした。続いて、陶器が壁に当たって砕ける音……。
部屋の中には、もはや、投げつけられるものは、何も残っていなかった筈だ。だが、クラウスには、冷たい水を残してきた。
そのコップが、投げつけられたのだ。
砕け散った破片が、顔をかすった。頬が切れ、ゆっくりと血が流れる。
ギルベルトは立ち止まった。
「明日からお前も、俺たちの会合に参加するといい」
まるで何事もなかったかのように、彼は言った。
「俺は、ミリィにひどく叱られたよ。ロッシやヨハン、マイヤーにも。彼らは、お前を仲間に加えたいそうだ」
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