VR時代の寿限無

宇多川 流

VR時代の寿限無

『あなたの能力は〈あらゆるものをカード化〉です』

 そう言われたときは、正直、このゲームやめようかと思った。

 このVRゲームは、そのままの自分でモンスターを退治しながら仮想現実の異世界を旅する剣と魔法のRPG――という触れ込みだけれど、最初にひとつだけ、現実にはない自分だけの特殊能力を授かることになっている。〈生命力が尽きても一度だけ復活できる〉とか、〈十歩歩くごとに金貨一枚湧く〉とか、〈弓を装備で攻撃力二倍〉とか。

 それに比べるとなんて外れの能力だ。

 でも、偶然ゲーム内の廃墟の村で色々な道具が落ちているのを見つけたとき、わたしは気がついた。

 このゲーム、脳への刺激でリアルな感覚を再現してるので普通に重さも感じるし、腕力も本人のままだ。でも、カードにすれば大量に持ち歩ける。

 そして、この能力があれば「荷物持ち」として重宝されるかも。

 絶対世界一の荷物持ちになってやる。わたしはそう誓った。


 二〇人ほどで構成する冒険者ギルドに入り、ようやく馴染んできたころ。

「さすがに、カードであっても重くなってきたんじゃない?」

 先輩冒険者のことばに、わたしは同意せざるを得なかった。

 元のアイテムよりは格段に軽いとはいえ、一応カード並みの重さはある。それが何枚かなら気にならないけど、もう何百枚とかになっているし、分類のために使っているアルバムに似たカードホルダー分の重さもある。

「そうですね……このカードホルダーをカードにする、は可能かもしれません」

「なるほど、それならさらに軽くできるわね」

 わたしは前から考えていたことをこの機会にやってみることにした。一応、失敗してもいいようにあまりレアじゃないアイテムが保存しているホルダーで。

 すると、しっかり特殊能力は発揮されてカードホルダーがカードになる。

 よし、これでさらにたくさんの荷物が持てるぞ。世界一の荷物持ちの座はやはりわたしのものだ。


 さらに一年ほどたち、カードの数もさらに増え、わたしたちのギルドも大きくなっていた。

 そこで挑んだ、大物モンスター退治クエスト。現われたのは猛毒の息を吹きつけるという毒竜だ。

「確か、〈浄化の宝玉〉で毒霧を無効化できるはずだ。あと、一応解毒薬を!」

 言われて、わたしはカードホルダーからカードを出してカードホルダーに戻し、そこからさらに一枚抜いてカードホルダーに戻し――

 一応分類はしてあるものの、なかなか目的のものに辿り着かない。そうこうしているうちに毒竜が息を吹きかけてくる。前衛の何人かが毒に冒されたようだ。

「なんだか、落語のひとつを思い出したわ」

 地面に積んだカードホルダーの最上段をまさぐるわたしの耳に、誰かがつぶやくのが届いた。


 わたしの能力は〈あらゆるものをカード化〉する能力なのだから、モンスターも人物も建造物もカード化できるチート能力である――ということに気がついたのは、さらに一年のプレイ時間を経た後だった。




    〈了〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

VR時代の寿限無 宇多川 流 @Lui_Utakawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ