しばらく前にトマト・ジャガイモ問題なるものを知りました。ジャガイモ警察なるものもあるとか。それなりにネット創作界隈に長くいるので言語関係の議論も何度も見ましたが、何故トマトやジャガイモだけ?
と、調べてみると。
【定番議論】ファンタジーを描く時、食物や単位やマナーや言葉…の何を現実世界と共通させ、何を創造すべきか? - Togetter
https://togetter.com/li/887490
へぇ。『マヴァール年代記』は読みました。あの小説の文章は理想系の一つです。確かに1巻文庫版あとがきに「マヴァールが、数十万の大軍を動かすには、相応の農業生産力が必要で、ジャガイモがとれるという設定がどうしても必要だったからです」と記述があります。
⬛疑問1。「中世ヨーロッパ風異世界ファンタジー」は「中世ヨーロッパに似た異世界(異星)を舞台にしたファンタジー」であり、地球上の中世までと同じ歴史を辿った訳でもなく、地理も気候も土壌も違うので中世ヨーロッパと同じ経緯でジャガイモ等に辿り着く必要がありません。
『マヴァール年代記』の件のあとがきにも「ハンガリーそのものだとすれば」と前置きがあり、別巻のあとがきで明言されているのを見るまでもなく架空の国だというのは明白です。
⬛疑問2。特殊な設定がない限り異世界で話されるのは異世界の言語であり、トマトを「トマト」、ジャガイモを「ジャガイモ」と現地で呼んでいるとは限りません。読者は日本人を想定しているのですべては異世界の言語の翻訳です。異世界のトマトっぽい野菜をトマト、ジャガイモっぽい野菜をジャガイモと呼んでいるだけです。
※うちはこれを採用。どこかで見かけたと思ったら、神坂一先生も言っておられましたね(『えんさいくろぺでぃあスレイヤーズ』第七章)。多くのファンタジーがそうなのでは。
⬛疑問3。まとめにも同じ疑問を抱いているかたがいらっしゃいますが、異世界で生産された作物が地球産の物とまったく同じになるわけがないですね。
これを突き詰めると、何で異世界に人、犬、猫等は共通して存在するんだ、あれは厳密には異星人に猫っぽいものだ犬っぽいものだ、というのも見覚えのある議論だったりしますが。
2に関して、翻訳ということにしないとダメになる物が沢山ありますね。ドアやコップ、テーブル等の横文字、漢字、そもそも日本語はダメだ、異世界の言語で書け、というのが何度も見た定番のオチ。
長々書きましたが、そもそも中世ヨーロッパ風ファンタジーは中世ヨーロッパを舞台にした歴史小説じゃないのに、なんで異世界にトマトやジャガイモの由来だけ現実を持ち込むんだ?
で終わる気が。
世界観を演出するため単位やことわざ、一部の食材、料理などを言い換えはよくありますが、この辺は表現と伝達性のせめぎ合い。由来を気にするならメートル法は言い換えますし、そういう小説も少なからずありますが、逐一注釈でも入れないと読者視点ではわかりにくい。翻訳説を採用するならメートルもありだと思いますけどね。
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tumblrに書いてきた記事です。最近連載している小説のスタンスに関わるのでここにも。『原罪領域』は完全に翻訳説。世界観のために言い換えを進めすぎるとライトノベルっていう雰囲気ではなくなるという、文章面の理由もあったりします。