第6話「犠牲と決意」

6-1: 「成長の証と絶望の棘」


 緊張感が頂点に達した瞬間、ミラのりんとした声が静寂を切り裂いた。


「リバンス、ルーン。グレンは二人で対処して。私はほかの者たちを相手するわ」


 二人が頷くや否や、戦いの火蓋が切って落とされた。


 グレンの動きは、かつてリバンスが知る彼の姿とは似ても似つかなかった。まるで影そのものが実体化したかのような、不自然な速さで襲いかかってくる。


「リバアァァァァァァァァァアンス!」


 グレンの叫び声には異様な興奮が滲んでいた。その目は血走り、まるで理性の欠片も失ったかのようだ。


 グレンの腕が伸び、その手から漆黒の刃が形成される。リバンスは咄嗟にその刃の鋭さをコピーし、自身の剣に纏わせた。二つの刃がぶつかり合い、火花が散る。


「ぶち殺してやるよ!」グレンの口元が歪む。


 グレンの体から黒い霧のようなものが立ち昇り、彼の周囲に渦を巻き始めた。その様は、まるで闇そのものが具現化したかのようだ。


「リバンス、これが俺の新しい力だ。犠牲魔法サクリファイシャルマジック!」


供犠召喚サクリフィシャルサモニング


 その言葉と共に、グレンの左手の指が3本、黒く変色し崩れ落ちた。直後、その崩れた指から黒い塊が膨らみ、巨大な鉤爪を持つ獣のような姿に成長した。


「な...何てことを」リバンスは言葉を失う。


 しかし、ルーンが即座に対応した。「リバンス、下がって!」


 ルーンの杖から蒸気が放たれる。


 火と水の融合による水蒸気。それに雷の魔力を融合させた雷雲だ。その渦は獣を包み込み、一瞬にして蒸発させた。


「ちっ...」グレンは舌打ちしながら、胸の中心にある赤黒い器官から黒い霧を噴出させ、失われた指を再生させる。


「再生能力...!」リバンスは驚きながらも次の一手にでる。


 リバンスは先ほど見たルーンの雷雲をコピー。さらにグレンが出した魔物の「生物」という要素をコピー。それらを脳内で融合させ、意思を持った雷雲をペーストした。


 それを見て驚きを隠せないルーン。


「な、なにが起きてるの!?」と動揺するルーンに対して、リバンスは少し得意気に説明する。


「修行のおかげでね、直近で見たものを遡ってコピーするのと、脳内でコピーしたものを組み合わせて融合させることができるようになったんだ。あれは意志を持った雷雲。『雷霆獣サンダービースト』とでも名付けようかな!」


「いよいよチートが過ぎる能力になってきたわね」とルーンは若干引き気味だ。


「無駄話する余裕はねえぞぉ!!!」


 グレンの咆哮が響き渡る。彼は片腕を犠牲に黒く輝く大きな斧を形成した。それをリバンスたちに向かって一振りすると、地面から出たどす黒い棘がリバンスたちに向かって進んでいく。


 その光景は、まるで大地そのものが敵に回ったかのような戦慄を誘うものだった。


 ルーンの瞳が凛と輝いた。「リバンス、私に任せて!」


 彼女の杖が空を掻き切る。「融合魔法、空重の壁エアグラビティウォール!」


 空気と重力の魔力が絡み合い、まるで目に見えない鋼鉄の壁のような障壁が形成される。グレンの黒い棘がその壁に阻まれ、砕け散った。


 リバンスは咄嗟の判断で雷霆獣サンダービーストに襲撃の指示を出す。「行けっ!」


 轟音と共に雷霆獣サンダービーストが突進する。それを見たグレンが身構えた瞬間、リバンスの瞳が鋭く光る。


複写再現コピー&ペースト!」


 リバンスは瞬時にグレンの周囲の空気に、地面の「硬性」をペーストした。まるで空気が固まったかのように、グレンの動きが封じられる。


「ぐがっ!」


 動きを封じられたグレンに、雷霆獣サンダービーストが激突。閃光と爆発。そしてグレンの全身に電撃が走る。


「ぐああああっ!」


 グレンの悲鳴が木霊する中、その体は黒焦げになって地面に倒れ込んだ。しかし、すぐに胸の赤黒い器官から黒い霧が噴出し、焼けた皮膚が再生していく。


 グレンの全身が再生し終わると、その目に狂気の色が濃くなる。


「うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇうぜぇ!」


 グレンは自らの両腕を掻き毟り、黒い霧を引き出す。


犠牲魔法サクリファイシャルマジック闇の双剣ダークツインブレード!」


 霧が凝縮し、両腕から漆黒の剣が生え出る。その刃は光を吸い込むかのように、不気味に輝いている。


「喰らえ!」


 グレンの動きが一瞬で加速する。リバンスの目にはほとんど残像でしかとらえられない。


「くっ!」


 リバンスは咄嗟に風の「速さ」をコピーし、自身の動きにペースト。かろうじてグレンの斬撃を回避する。


「リバンス、私が援護するわ!」ルーンの声が響く。


「融合魔法、光霧の結界ライトミストバリア!」


 光と霧が融合した薄い膜がリバンスを包み込む。グレンの剣がその膜に触れると、かすかに減速する。


「これなら...!」


 リバンスはその隙を突いて反撃。しかし、グレンの動きはまだ速い。両者の剣が激しくぶつかり合い、火花が散る。


「はぁっ!」


 リバンスの剣がついにグレンの防御を破る。鋭い刃がグレンの体を縦に貫く。


「ぐあっ!」


 グレンの体が真っ二つに裂ける。しかし、その断面から黒い霧が噴き出し、瞬く間に元の姿に戻っていく。


「はぁ...はぁ...」


 グレンの呼吸が荒い。明らかに消耗し切っている。


「もう終わりだ、グレン」リバンスが剣を構える。


 しかし、グレンの口元に不敵な笑みが浮かぶ。


「終わり...だと?」


 グレンの体が再び膨張し始める。両手足が黒く変色していく。


「これが...最後の切り札だ...」


 グレンの四肢が溶け崩れ、巨大な塊へと変貌していく。


供犠の大槌サクリファイスハンマー!」


 巨大な鉄槌のような塊が形成され、リバンスとルーンに向かって襲いかかる。


 二人は咄嗟に防御の構えをとるも、その圧倒的な質量に押し潰されそうになる。


「しねしねしねぇ!!!」グレンの狂気の叫びが響き渡る。


 ルーンの瞳に閃きが宿る。「リバンス!私が融合魔法で時空の歪みを作り出すわ。その隙にグレンの心臓部を狙って!」


 彼女の杖が光り、空間が歪む。一瞬、リバンスの姿が消える。


 その隙に、リバンスは風の「質量」をコピーし、自身にペースト。瞬く間にグレンに接近し、剣を心臓部に突き刺す。


「ぐあっ!」


 グレンの動きが止まる。巨大な鉄槌が消え失せる。


「リバンス、離れて!」ルーンの警告に、リバンスは跳び退く。


 次の瞬間、グレンの心臓部から大量の黒い霧が噴出し、その体は崩れ始める。


「くそがよぉ...」


 リバンスとルーンは安堵の表情を浮かべるも、すぐに「ミラは無事か!」と辺りを見回す。


 そこには、すでに残りの敵を片付け終えたミラの姿があった。彼女は倒れた敵の上に座り、微笑みながらこちらを見ていた。


「さ、さすがだね。あの人数を一人で」リバンスは驚きと安心の表情を見せる。


「こっちも終わったわよ、ミラ!」ルーンが嬉しそうに伝える。


 三人が安心の表情を浮かべた瞬間、背後で微かな声が聞こえた。


命奪いの棘ライフスティールスパイク...」


 その言葉と共に、ミラが倒した敵たちの体から黒く鋭い棘が無数に伸び、ミラを貫く。


「ミラ!」


 リバンスとルーンの悲鳴が響く。血を吐くミラの姿に、二人は言葉を失う。


「は...はは...ざまぁみやがれ...」


 崩れゆくグレンの声が聞こえる。


「おめぇは一人じゃなにもできない。大事なものも守れない『無能』なんだよ...」


 その言葉と共に、グレンの体は完全に崩れ落ち、風に舞う塵となって消えていった。


 リバンスは悔しさと怒りを抑えきれない。「お前は最後までクズだったのか。なにがお前をこうまで復讐に駆り立てたんだ...」


 ルーンは叫びながらミラに駆け寄る。「ミラ!!!」


 息も絶え絶えのミラは、微かな笑顔でルーンを見つめる。


「ああ...油断しちゃったわね。ここ数週間...あなたの成長を間近で見ることができて...とても幸せだったわ」


「なにを別れみたいなこと言ってるの!あなたは死なないわ!」


 ルーンは必死に回復魔法をかけるが、ミラは静かに首を横に振る。


「もういいわ、ルーン。この闇魔法は...闇以外のすべてを拒絶するの。だから、どんな治癒魔法も効かないのよ」


 ミラはリバンスを呼び寄せる。「リバンス...こっちに来て」


 リバンスが近づくと、ミラは優しく微笑んだ。


「あなたも...この短い間で大きく成長したわ。ルーンを...よろしくね」


 リバンスは涙を堪えながら頷く。咄嗟に、自身の無事な「身体状態」をコピーし、ミラにペーストしようとするが、何度試しても失敗する。


 ミラは優しく微笑む。「闇魔法は...すべてを飲み込んでしまうの。大丈夫よ...もう十分生きたわ」


 ミラの呼吸が弱まっていく。「最後に...お願いがあるわ。私の家の庭に石板があったでしょう?あそこに融合魔法で太陽の光と噴水から出る魔力を合わせて注いでほしいの。そうすればこの村を守る魔法は維持されるから...」


「いや、いやよ...!」ルーンが泣き叫ぶ。


 リバンスはミラの手を強く握り、涙を流す。


「安心して...」ミラの声が次第に弱まっていく。「あなたたちなら...きっと...」


 そして、静かに目を閉じた。


 悲痛な叫び声がグリーンリーフ村に響き渡る。戦いの代償は、あまりにも大きかった。


 リバンスとルーンは、しばらくの間、言葉もなく、ただミラの冷たくなっていく手を握り続けた。村の空気が重く沈む中、二人の心には深い悲しみと、これからの使命への覚悟が芽生えていた。


「ルーン...」リバンスが静かに呼びかける。「ミラさんの最後の願い、叶えなきゃいけない」


 ルーンは涙を拭いながら、震える声で答えた。「ええ...そうね。ミラの意志を...この村に」


 二人は力を合わせ、ミラの体を丁寧に抱き上げた。村人たちが恐る恐る近づいてくる中、リバンスとルーンはミラの家へと向かう。


 庭に着くと、初日に見かけた魔法が描かれた石板が淡く光っていた。


「リバンス、私が融合魔法を使うから、あなたは太陽の光をコピーして」ルーンが決意を込めて言う。


 リバンスは頷き、空を見上げた。朝日が雲間から差し込み、その光をコピーする。


 ルーンは杖を掲げ、噴水から湧き出る魔力を感じ取る。「融合魔法...光泉の守護ライトフォンテーンプロテクト!」


 リバンスがコピーした光と、ルーンが集めた魔力が一つになり、まばゆい光となって石板に注がれる。


 魔法陣が輝き始め、その光が村全体を包み込んでいく。


「これで...ミラの遺志は...」ルーンの声が震える。


 リバンスは彼女の肩に手を置いた。「ああ、きっとミラさんも喜んでいるはずだ」


 二人の前に広がるグリーンリーフ村は、かすかな光に包まれ、より一層美しく輝いて見えた。


 悲しみの中にも、新たな決意が芽生える。これからの旅路は、きっと困難に満ちたものになるだろう。しかし、二人の心には、ミラから受け継いだ強さと優しさが宿っていた。


「行こう、ルーン」リバンスが静かに言う。


 ルーンは涙を拭い、頷いた。「ええ...ドミナージュだけは絶対に...」


 二人は村の出口に立ち、遠くを見つめる。その瞳には、未来への希望と、乗り越えるべき試練への覚悟が宿っていた。



6-2: 「故郷への帰還」


 洞窟を出た二人の周りに、重い空気がただよっていた。リバンスは、ミラとの出会いからわずかな時間しか経っていないにもかかわらず、胸に深い悲しみを感じていた。その傍らで、幼少期からミラと親交しんこうのあったルーンの憔悴しょうすいし切った表情を見れば、その悲しみがいかにはかり知れないものかが痛いほど伝わってきた。


 しばらくの沈黙の後、リバンスがくちを開いた。


「ルーン...アーカルムに行く前に、妹の所へ寄りたいんだ。しばらく顔を出せないかもしれないし」


 ルーンは小さく頷いた。「そうね。家族のもとへ帰るのは大切だわ」


 リバンスはかすかに微笑ほほえんだ。「病気していて、家で母と安静にしている。俺が旅する理由は妹の治療費を稼ぐためなんだ」


「そうだったの...」ルーンの声には同情のいろにじんでいた。「妹さんの名前は?」


「ルミアっていうんだ。俺より7歳下でね」


「ルミア...素敵な名前ね」ルーンは優しく微笑んだ。「どこに住んでいるの?」


「アンバーリッジ村という場所さ。アーカルムへの直行馬車も出ているから、そこまで遠回りにはならないと思う」


 ルーンは頷いた。「わかったわ。一緒に行きましょう」


 二人はアンバーリッジ村へ向かう馬車に乗り込んだ。


 られる車内で、リバンスはルミアについて語り始めた。


「ルミアは、幼い頃から体が弱くてね。病気の治療法もなかなか見つからなくて...」


 リバンスの声には、苦悩くのう愛情あいじょうにじみ出ていた。


 馬車がアンバーリッジ村に到着すると、二人は急いでリバンスの家に向かった。途中、村人たちの視線を感じる。どうやら、久しぶりに見たリバンスの姿に驚いているようだった。


 家に着くと、母が出迎えてくれた。


「リバンス!」母は息子の成長した姿に目をうるませた。


「ただいま、母さん」リバンスはれくさそうに笑った。


 母はルーンの存在に気づき、少し戸惑とまどいながらも温かく迎え入れた。


 リバンスは母に尋ねた。「仕送りは足りてる?ルミアの具合は?」


 母は安心あんしんさせるように微笑んだ。「ええ、おかげさまで十分よ。それに最近、薬の値段が少し下がったの。しばらくは大丈夫よ」


 その言葉にリバンスはほっとした表情を浮かべた。


 ルミアの部屋に入ると、か細い少女がよこたわっていた。しかし、リバンスを見るなり、その顔に大きな笑顔が広がった。


「お兄ちゃん!」


「ルミア...元気にしてたか?」リバンスは妹の手を優しく握った。


 ルーンは静かにその光景を見守っていた。彼女の目には、兄妹の絆を見て感動している様子が浮かんでいた。


 リバンスはルーンをルミアに紹介した。ルミアは好奇心旺盛な目でルーンを見つめ、たくさんの質問を投げかけた。ルーンは優しく、丁寧に答えていく。


 その日の夕方、リバンスは母と家の修繕を手伝い、ルーンはルミアと一緒に庭で過ごした。ルミアは、ルーンに魔法のことや、外の世界のことを熱心に尋ねていた。


 夜になり、家族で夕食を囲んだ後、リバンスとルーンは村の小高い丘に座り、星空を見上げていた。


「ルミアちゃん、とても優しそうな可愛い子ね。あなたににているわ」ルーンがやわらかな声で言った。


 リバンスは思わず顔を赤らめ、視線をそらした。「そ、そうかな...」


 ルーンは微笑ほほえみながらリバンスの横顔よこがおを見つめた。月明かりに照らされた二人の姿が、丘の上に優しい影を落としている。


「リバンス...」


「ん?」


「ありがとう。一緒に来てくれて」


 リバンスはルーンの方を見た。彼女のひとみに星空が映り込み、きらきらと輝いていた。二人の視線が重なり、言葉にできない何かが流れる。


 しかし、すぐにリバンスは我に返ったように咳払せきばらいをした。「あ、ああ。俺こそ、付き合ってくれてありがとう」


 その言葉の後、二人の間に微妙な空気が流れた。


「そろそろ、戻ろうか」リバンスが言った。


 ルーンは小さく頷き、二人は無言で家路についた。


 翌朝、二人は家族に別れを告げてアーカルムへ向かう準備を始めた。


 ルミアはリバンスに「また帰ってきてね」と笑顔で言い、リバンスも「必ず戻ってくる」と約束した。

 新たな旅立ちの時、リバンスの胸には家族への思いと、これから待ち受ける試練への覚悟が宿やどっていた。そして、その隣には頼もしい仲間の姿があった。



6-3: 「魔導都市アーカルム」


 リバンスとルーンを乗せた馬車がアンバーリッジ村を出発した。車窓から見える景色が徐々に変化していく中、二人の心は次第にアーカルムへの期待でふくらんでいった。


「ねえ、リバンス」ルーンがしずかな声で呼びかけた。「アーカルムのこと、知ってる?」


 リバンスは首を横に振った。「ああ、噂で聞いたことはあるけど、詳しくは知らないんだ」


 ルーンは微笑んで説明を始めた。「アーカルムは、世界最大の魔導都市よ。魔法研究の中心地で、世界中の魔法使いが集まるの」


「噂は聞いてたけど、そんなすごいところなのか」リバンスの目が輝いた。


「ええ。それに、街の中心には巨大な図書館があって、古代の魔法書まで所蔵されているんだって」ルーンの声には興奮がにじんでいた。


 リバンスは自分の能力のことを思い出した。「そうか...もしかしたら、俺の複写再現コピー&ペーストの能力について何か分かるかもしれないな」


「きっと何か見つかるわ」ルーンはうなずいた。


 馬車が丘を越えると、突如としてアーカルムの全容が目の前に広がった。巨大な魔法の塔が空へとそびえ立ち、その周りを幾つもの建物が空中に浮かんでいる。街全体があわい青い光に包まれ、まるで幻想げんそうの中にいるかのようだった。


「うわ...」リバンスは思わず声を漏らした。


 ルーンも同じように入っていた。


 馬車は街の入り口で止まった。そこには「魔力検査所」と書かれた建物があり、入城する者は全員そこを通らなければならないようだった。


「魔力検査場?」リバンスが不思議そうに呟いた。


「ここでアーカルム内での魔法使いとしてのランクを決められるの。ランクによってお店が割引になったり待遇がよくなるらしいわ。」ルーンは少し緊張した面持ちで答えた。


 リバンスとルーンは列に並び、順番を待った。ルーンが検査を受けると、検査官は「上級魔法使い」というふだを渡した。


「ふう...」ルーンは安堵の表情を浮かべる。


 次はリバンスの番だった。彼が検査台に立つと、検査官はまゆをひそめた。


「おや?魔力の反応がまったくありませんね」検査官は不思議そうに言った。


 リバンスは苦笑くしょういを浮かべた。「あ、はい。元々魔法が使えなくて...」


 検査官は「無魔力」と書かれたふだをリバンスに渡しながら、小さな声でつぶやいた。


「無魔力がなにしにきたんだか...」


 その言葉を聞いて、リバンスは少し落胆らくたんした表情を見せた。しかし、ルーンが彼の肩に手を置いた。


「気にしないで。あなたの能力は、魔力とは違う特別なものだから」


 リバンスはうなずき、気持ちをて直した。


 二人が街に足を踏み入れると、そこは想像を超える光景が広がっていた。空中をび交う絨毯じゅうたんほうき、色とりどりの光でいろどられた看板、自動で動く人形たち。街全体が魔法であふれていた。


「すごい...」リバンスは呆然ぼうぜんと周りを見回した。


 ルーンも同じように驚いていたが、すぐに我に返った。「まずは宿を探さないと」


 二人は街を歩きながら宿を探した。道中、様々な魔法ショップや魔法学校、さらには魔法競技場まで目にした。どの建物も独特の雰囲気ふんいきを持ち、リバンスたちの目を釘付くぎづけにした。

 やっとのことで適当な宿を見つけ、二人は部屋にち着いた。


「さて、明日からどうする?」リバンスがルーンに尋ねた。


 ルーンは少し考えてから答えた。「私は知り合いの魔道具屋さんに行って、新しい杖を注文しようと思うの。前の杖はミラに...」


 彼女の声が途切とぎれた。リバンスは黙ってルーンの肩に手を置いた。


「わかった。俺は図書館に行って、この能力のことを調べてみるよ」


 ルーンは微笑ほほえんだ。「そうね。きっと何か見つかるわ」


 夜、リバンスは窓から街を見下ろしていた。魔法の光でいろどられた街は、夜になってもまぶしいほどだった。彼の胸には期待と不安が渦巻うずまいていた。


(この街で、俺の能力の秘密が分かるかもしれない...)


 ◇◇◇◇◇


 同じ頃、街のどこかで、黒い外套がいとうを着た人影がひそやかに動いていた。その動きには、何か不穏な空気がただよっていた。


「王女はこの街にいる。くまなく探せ。」


「分かりました、レン様」他の者たちが応じた。


 指示を受けた者たちはうなずくと、闇に溶けるように姿を消した。


 残ったレンは路地裏から出ると立ち止まり、夜空を見上げた。


「ルーン...お前の居場所はもうすぐ分かる。そして、お前を、この手に...」


 ◇◇◇◇◇


 翌朝、リバンスとルーンは朝食を取りながら、今日の予定を確認し合った。


「じゃあ、俺は図書館に行ってくる」リバンスが言った。


 ルーンはうなずいた。「私は魔道具屋に行くわ。夕方には戻ってくるから、夕食を食べに行きましょう。」


 二人は宿を出て、それぞれの目的地へと向かった。


 リバンスは巨大な図書館の前に立ち、その威容いよう圧倒あっとうされながらも、扉を開けるのであった。



6-4: 「知識の海と迫る影」


 リバンスは巨大な図書館の前に立ち、その威容に圧倒されながらも、扉を開いた。中に足を踏み入れた瞬間、彼の目の前に広がる光景に息を呑んだ。


「す、すごい...」


 天井まで届きそうな本棚が幾重にも連なり、その間を魔法の光で満たされた球体が浮遊している。


 所々に浮かぶ読書スペースには、魔導書を熱心に読み耽る魔法使いたちの姿が見える。


 リバンスは受付で案内を受け、複写再現コピー&ペースト能力に関する資料を探し始めた。しかし、膨大な蔵書の前に途方に暮れる。


「こりゃあ、一筋縄じゃいかないな...」


 彼は何時間も本棚を巡り、無数の本を手に取っては戻す作業を繰り返した。しかし、複写再現コピー&ペースト能力に関する明確な記述は見つからない。汗を拭きながら、リバンスは深いため息をついた。


 そんな彼の様子を見かねたのか、一人の司書が話しかけてきた。


「何かお探しですか?」


 優しげな笑みを浮かべる老司書に、リバンスは自分の探し物を説明した。


「ふむふむ、複写再現コピー&ペースト能力ですか。聞いたことがない能力ですねぇ」老司書は顎に手を当てて考え込んだ。「古代魔法の書庫なら、もしかすると何か手がかりがあるかもしれませんよ」


「古代魔法の書庫ですか?」リバンスは期待を込めて尋ねた。


「はい。ただし、そこは通常立ち入り禁止なんです。上級魔法使いの方だけが入れる特別な場所なんですよ」


 リバンスは落胆の表情を浮かべたが、すぐに思いついた。


「実は、上級魔法使いの友人がいるんです。明日、その友人と一緒に来てもいいでしょうか?」


 老司書は少し驚いた様子を見せたが、すぐに微笑んだ。「もちろんです。お友達と一緒なら、古代魔法の書庫に案内できますよ」


 リバンスは安堵の表情を浮かべ、お礼を言って図書館を後にした。


(明日、ルーンと一緒に来よう。きっと何か見つかるはずだ)


 ◇◇◇◇◇


 一方、ルーンは知り合いの魔道具屋を訪れていた。


「お久しぶりです、マーヴィンさん」


 ルーンがこえをかけると、白髪まじりの髭面の男性が振り返った。


「おや、ルーンじゃないか!久しぶりだね」マーヴィンは温かな笑顔を見せた。「どんな用事かな?」


「実は...」ルーンは少し躊躇いながら続けた。「大切な人から譲り受けた杖なんです。それを修復して、できれば強化もしてほしいんです」


 ルーンが杖を取り出すと、マーヴィンは慎重にそれを受け取った。


「ふむ...なるほど。かなり上質な杖だが、ずいぶんと使い込まれているね。修復は可能だが、強化となると難しいかもしれない」


 マーヴィンは杖を細かく観察しながら説明を続けた。


「この杖には元々強力な魔力が込められているんだ。それ以上の強化は、杖そのものを壊してしまう可能性がある」


 ルーンは少し落胆した様子を見せたが、すぐにかおを上げた。


「分かりました。では、元の性能を維持したまま、修復だけお願いできますか?」


「もちろん」マーヴィンは頷いた。「3日後には用意できるよ」


「ありがとうございます」ルーンは安堵の表情を浮かべた。


 店を出たルーンは、街の様子を見渡した。そこで、黒い外套を纏った集団が通りを歩いているのが目に入った。


(まさか...)


 ルーンの胸に不安が走る。しかし、すぐにその集団は人混みに紛れて見えなくなった。


 ◇◇◇◇◇


 夕刻、リバンスとルーンは待ち合わせ場所で合流した。二人は夕食を楽しみながら、それぞれの収穫を語り合った。


「じゃあ、少し街を散策してみようか」夕食を食べ終わったリバンスが提案した。


 ルーンは頷き、二人は店を出て人気の少なくなった街路を歩き始めた。


 街灯の明かりが薄暗い路地を照らす中、突如として黒い外套を纏った集団が二人の前に現れた。


「!?」


 リバンスとルーンは驚きのあまり、その場に釘付けになった。


「ド、ドミナージュ!?」リバンスのこえが震える。


 ルーンは身構え、魔法の詠唱の準備を始めた。緊迫した空気が流れる中、集団のリーダーらしき人物が一歩前に出た。


「ルーン様!」


 その声に、ルーンの目が見開かれた。リバンスは困惑の表情を浮かべる。


 リーダーがゆっくりとフードを取ると、そこには一人の男性のかおがあった。銀色の髪と鋭い眼光。しかし、その目には懐かしさと安堵の色が浮かんでいる。


「レン...?」ルーンのこえが震えた。


 リバンスは状況が飲み込めず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


(何が起きてるんだ...?)


 月明かりに照らされた路地裏で、思いがけない再会の幕が開いた。レンの姿を見たルーンの表情には、驚きと懐かしさ、そして複雑な感情が交錯していた。リバンスは警戒心を解かず、ルーンを守るように前に出る。


 緊張が漂う空気の中、レンが静かにくちを開いた。


「ようやく...お会いできました、ルーン様」

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