第18話
翌朝。お母さんの作ってくれた朝食を食べながら、僕はお母さんから軽い叱責を受けていた。
「…急な話なのはわかるけど、あんまりこういうことはよしてよね。あと、りかちゃんに怪我を負わせたなら、お母さんに言う事。わかった?」
「はい…」
「あなたも、急に会社を休んで大丈夫なの⁉️」
「ああ。別に問題はないだろ」
「まぁ、そうならいいけど。…ともむに示しがつかないじゃない」
「これくらいの休みで問題が起きるんだったら、世も末だ」
お父さんはウィンナーを鍋ながら悠長に答える。
「まぁ、ホント変なときだけ呑気なんだから。それに、急なことだけどりかちゃんの寝袋とか、ちゃんとあるんでしょうね⁉️」
「向こうもできるだけ用意してくれるから大丈夫だろ。それに、寝袋なら予備のを持ってくからいいよ。子供用二つ買ったじゃないか」
「それならいいけど…。あと、二人共向こう方に悪いから、下手な真似はしないでね。もう怪我もさせないように。それと、私は今日仕事だから、準備は手伝えないからね」
朝食を終えると、お父さんが学校に電話をして休みの連絡を入れてくれた。お父さんが先生と話している時、僕はすごく緊張して、今にも雄二や陽子の驚きの声が聞こえてくるようだった。
それから少し経って、僕たちはりかちゃんの家に向かった。
お父さんは車の中に待ってもらって、僕だけ玄関へとむかう。りかちゃんの家のインターフォンを鳴らすと、麦わら帽子に少し大きめのバックを左の肩に掛けたりかちゃんが出てきた。相変わらず右手首は包帯に巻かれている。扉を少し開け、そこにいるのが僕だけだと知ると、彼女は笑顔でこういった。
「今日はありがとね。ほんとに楽しみにしてた」
「うんうん。僕も!りかちゃんと夜空を見れるなんて嬉しいな…」
「…ふうか達、今どうしてるんだろ」
「バスの中かな?」
「お昼だし、なにか食べてるんじゃない?」
「なんだろ!」
「五平餅がでるんだったかな?」
「…うわぁ。美味しそう!」
五平餅は僕の好物だ!
「そうだ!お父さんがね、お昼はお寿司食べるって!」
「え!ほんと!すごい嬉しい」
「りかちゃんはお寿司好き?」
「うん。大好きだよ。ホント久しぶりに食べるよ、お寿司なんて」
「よかったぁ。それじゃ、早く行こ!」
「うん」
僕たちはお父さんの車に乗る。お寿司、お寿司と連呼していたら、お父さんが爆笑していた。恥ずかしい…。回転寿司でたらふくお寿司を食べた後、寄り道はせずすぐに山道を登った。キャンプ地まで車での移動は二時間とかかかって、その間僕はりかちゃんと車の中でしりとりをした。りかちゃんは片腕が使えないから、トランプとかできなくて、必然と会話が多くなった気がする。
りかちゃんは部活のこととか話してくれた。けど、僕がアニメの話を出すと、耳を大きくして、瞳を輝かせて聞いてくれた。すごく嬉しそうな顔をするから、僕はずっとアニメの話ばかりをしてしまった。
時刻が三時を超えた時、無事キャンプ場に到着した。人は意外にまばらで、僕らは歩いて少し奥のスペースを確保した。木々の中に入り組んだ場所で、風が涼しく気持ちいい。
「よし、ここにテントを張るぞ。ともむ、手伝ってくれ」
「うん」
僕はお父さんの指示で、倒したテントの斜めに周り、ちょうどいい位置で黒く長い杭を打ち込んだ。専用のハンマーを使って、斜め四十五度にゴンゴンと叩く。背中を丸めるから、ジンと太陽の熱が背を焼き汗を浮きぼらせた。何回かそうすると、黒い杭はぐっと深くまで潜っていった。額を拭い、次にテントからたれた白い紐を杭の引掛け部位にかける。それを後二箇所やって、クイッとテントを引っ張ったら完成だ。
「うん。初心者がやったにしては出来はいいな」
お父さんが起き上がったテントをみながら頷いた。それでも、一時間くらいかかったと思う…。
その時、コンコンと後ろから肩を叩かれた。
「はい。お疲れさま」
振り向くと、りかちゃんが冷たいアクエリアスを差し出してくれた。
「おお!ありがとう!おおー冷たい。すごい冷えてる!」
「クーラー様々だね。すごい冷えてるよね」
僕はごくごくとアクエリアスを飲んだ。
「ううぅ。生き返るぅ…」
「お、りかちゃん俺の分もあるかな?」
お父さんが軽い口調で言った。
「あ…ありますよ。お父さんもお疲れ様です」りかちゃんは近くのクーラーボックスから一本のアクエリアスを差し出した。
「いやぁ、ありがと」
「大きいですね。このテントで夜を越すんですか?」
りかちゃんがテントを見ながら言う。
「ああ、寝袋でな。三人一緒になるがいいよな?」
「あ、はい。全然だいじょうぶです」
「あと、夜は声がすごく響くから、騒ぐなら今のうちにな。それと、寝る前にちょっと山に登るぞ」
「どうして?」僕が訊く。
「星空を見るんだ」
「おおー」りかちゃんと声が被った。
そうだった。それが目的だった。
「後はお父さんがやっとくから、二人はそこらへん探索して来ていいぞ。ここはあんまり野生動物は出ないと思うが、やばい時は、ともむ、預けたブザーを鳴らせよ」
「うん。わかってるよ」
「慎重にな。あんまり遠くには行くなよ。あと、りかちゃんと手を繋いでけよ」
「え!」
「片手じゃ心もとないだろ。ともむがリードしなきゃ。ほら、いけ」
「う、うん…」
僕はりかちゃんの顔をみながら、ゆっくりと小さな左手を掴んだ。抵抗は…なかった。さっきまでアクエリアスを持っていたから、手のひらが冷たい。きゅっと握るとそっと弱く握り返してくれた。りかちゃんがじっと、僕の顔をみている。頬が急激に火照ってきて、僕は無垢できれいな顔から逃げるようにりかちゃんの手を引っ張っていた。
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