第19話 今日も呪われてるかーい?

『見てください! これが食べると呪われるというドクロのロールケーキです』

 男性が、そういってロールケーキを画面に見せる。

 ロールケーキは、生クリームが輪郭、餡子でドクロの顔が描かれていた。

『和菓子屋の「ひめみや」の新作だそうですが、呪われるというのはどういうことでしょう?』

 男性の質問に答えたのは、苺パパだった。

『そのままの意味ですよ! 呪われたのかってほどにどんどん食べれちゃうってことです』

『ああ、なるほど! それなら安心しました』

『そうだ、うちの娘の苺は、将来はパティシエになって和菓子屋も継いでくれるそうです。良い娘でしょう?』

『すてきな娘さんですね』  

『娘のグッズを作ったんですが、買っていきます?』

『ちょっと、パパ!』

『えっと、それはまた今度にさせていただきます』

 男性は逃げるように『ひめみや』の店を出た。

 男性は有栖町をゆっくりと歩く。

 未来が見えるというカフェ(カフェのオーナーが占いを始めたらしい)、意味深な日本人形を売っているお土産屋さん。

 そして、西園寺旅館。

 男性は、西園寺旅館の前で足を止め、神妙な面持ちでいう。

『実は、この旅館、開かずの間があるというわさなんです!』

 男性が旅館に入ったところで、西園寺家が勢ぞろいしていた。

 女将さん(西園寺ママ)が、いつもの丁寧なしぐさ特徴でいう。

『起こしいただき、誠にありがとうございます』

『あの、すみません。ちょっとお聞きしたいことがあるんですが』

『はい、どうぞ。なんでも聞いてください』

『この旅館に、開かずの間があるというのは、本当なんでしょうか?』

 男性の言葉に女将はにっこりと笑い、それからやさしい笑顔のままでいう。

『当旅館は、お客様におくつろぎできる空間を提供しております』

『すてきな旅館ですもんね』

『ですから、そのような場所はございません』

『やっぱりただのうわさですよね』

『ただ当旅館には、一か所だけ、絶対に入ってはいけない部屋がございます』

 女将の笑顔は不気味に見えた。

 黙り込んだ男性に向かって、女将はたたみかける。

『そのお部屋にだけ入らないよう、じゅうぶん注意してください』

『……そこは、もしかして』

『これ以上は、お聞きならないほうがよろしいですよ』

 女将の言葉に、男性がごくりと唾を飲みこむのがわかった。

 映像は、そこで途切れた。


「すごいな。さすがプロだ」

 スマホの画面を見ていた西園寺が、驚いたようにいう。

 朝の早い時間の教室には、わたしと西園寺と、あとチラホラと生徒がいるだけ。

「うん。すごいよね。迫力があって、いかにも有栖町がいわくつきに思えてきちゃうよね」

 わたしがいうと、「いわくつきに仕立てあげたのはだれだよ」と西園寺がため息をつく。

 有栖町のリニューアルの内容は、町全体がホラー仕立てになるというものだった。もちろん、町の雰囲気はそのまま。

 呪いのロールケーキやら、未来が見える占いやら、日本人形、そして西園寺旅館の怪談とかちょっとだけホラー要素足して、話題作りをしようと思ったんだ。

 ノロ・ノロイさんがうわさを聞きつけて、こうして動画にしてくれた。

 あの時、彼が声をかけてきたのは、この動画を撮影するためだった。

 ノロ・ノロイさんが、有栖町とワンダーランドの動画を撮影してから、三日後。

 わたしと西園寺は、そのときの動画を見ていたのだ。

 正直、動画を見ている間、背中がぞくぞくした。メルヘンな街並みが、不気味に見えてしまったくらいに。

 やっぱり有名ヨ―チューバ―は、語り口調も、動画の編集の仕方もなにもかもがすごく怖くていい!

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