第18話 リニューアル!
わたしは、活気を取り戻した有栖町を見渡す。
以前は、ここのメルヘンな街並みを見ると、複雑な気持ちになっていた。
だけど今は、この有栖町もワンダーランドも、見ているだけでワクワクする。
ああ、わたしはここが大好きなんだ。ずっとずっと、大好きだったんだ。
だからこそ、この町の役に立ちたかった。
だけど、本当はわかってる。
普通の家だって、この町の役に立っていたんだ。
どんな仕事だって、どんな人だって有栖町が好きなら、それだけでよかった。
それなのにわたしは、お店を経営していないから役に立っていない。邪魔者だって思い込んでいたんだ。
それは、わたしが周囲のみんなのことが……苺のことも、西園寺のことも、白鳥さんのことも、みんなみんな羨ましかったから。
わたしだけが、孤独のような気がしていた。
だけど、親がお店を経営しているから、みんな幸せってわけでもなかった。
苺も、西園寺も、そして白鳥さんにも悩みがあった。
むしろ、わたしは周囲よりもだんぜん幸せに育ってきたのかもしれない。
幸せ過ぎて、見えなくなっていたんだ。自分がどれだけ恵まれている環境にいるのかを。
そして、もっと幸せになりたいのなら、自分でそれをつかまなくちゃいけない。ただ願っているだけじゃ、何も変わらない。
だから自分で、『落とし物預り所』を開くんだ。
『落とし物預り所』を、また再開して、誰かの笑顔を見るために。
「……まだまだわたしの物語はつづくぜ、みたいなこと考えてただろ?」
突然うしろから声をかけられて、わたしは「うわっ」と飛び跳ねた。
西園寺が急に現れたからおどろいたわけじゃない。考えてることがバレバレっぽいからだ。
「もしかしてわたし、考えてること口に出してた?」
「いや。でも、なんとなーく、そうかなって」
「ねえ、もしかして……」
「なんだよ」
「西園寺って、超能力とかあったりする?」
「……バレたか」
「うそ? どういうの? テレパシーとか、あっ、人の心の声が聞こえる能力とか?」
わたしが真剣に聞くと、西園寺が笑い出した。
あっ、この意地悪な笑い方……人をからかっている時のやつだ。
西園寺は、ひとしきり笑うと、こういった。
「超能力なんかない。うそだよ、うそ」
「途中でそうかなーと思った」
「なんで?」
「西園寺の笑い方で、なんとなく」
「おれもそうだよ」
「えっ? なにが?」
「緒代の表情とか、雰囲気で、なにを考えてるのかだいたいわかる」
西園寺はそこまでいうと、ちょっとうつむいた。
「それ、わかるかも。わたしも西園寺の考えてること、最近ちょっとわかるかも」
「ま、なんだかんだで幼なじみだしな」
「なーんだ。てっきり西園寺もわたしの能力仲間かと思ったのにー」
「もう仲間だろ」
西園寺はそういうと、照れくさそうに笑った。
「それもそうだね!」
わたしも、にっこりと笑う。
「あのー、すみません」
背後から誰かが声をかけてきた。
大人の男性の声。
わたしと西園寺は、顔を見合わせる。
「この展開は、まさか!」
「おいおい。展開、なんてメタ的な発言するなよ」
「そうだけど。西園寺も、お兄さんかもって思ったでしょ?」
「ああ、まあ思ったけど……」
西園寺がそういって、目で合図すると、わたしたちは同時に振り返った。
すると、そこに立っていたのは……。
「だれ?」と西園寺。
わたしは声をかけてきた人の顔を見て、「あっ!」と声を出した。
「もしかして……ノロ・ノロイさんですか?!」
わたしが興奮気味にそう聞くと、男性はにっこりとうなずく。
有名ヨ―チューバが、目の前にいるなんて! 信じられない!
それからノロ・ノロイさんはこういった。
「今日も呪われてるかーい?」
わたしは元気に答える。
「いぇーい!」
「なんだ、それ……」
西園寺が冷めたを通り越して、氷のような瞳をわたしに向けてくる。
「えー、知らないのー? ノロ・ノロイさんの動画のあいさつだよー。いつもいうの」
「……へぇ」
「それよりきみたち、この町の子かい?」
ノロ・ノロイさんは、そう聞いてきた。
「はい。そうですけど」
わたしと西園寺が答えると、ノロ・ノロイさんはうれしそうに笑った。
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