第17話 不気味な有栖町

「やり過ぎだ」

 わたしが独自で、『落とし物預り所』を始めて一週間が経過した時、 登校中に西園寺に突然そういわれた。

「ん? なにを?」

「落とし物を見つけた途端に落とし主に届けてるだろ」

「うん。そうだよ」

 わたしがうなずくと、西園寺はスマホの画面を見せてきた。

 SNSの投稿だ。

 そこにはこう書かれてあった。 

 【有栖町に観光した時に、亡き祖母からもらったペンダントを落としました。

  探しても見つからなくて、カフェでぼんやりしていたら、 女の子に「これあなたのですよね」とペンダントを渡されました。

  わたしは何もいってないのに……。

  とってもありがたいけど、ちょっとだけ不気味でした】

「えっ、不気味……?」

 わたしはおどろいて、投稿を読み返す。

 確かにそこには、不気味と書かれている。

 そういえば、カフェでペンダントを女性に渡したことは覚えてるけど、今思えばぎこちない笑顔でお礼をいわれたっけ。

 でも、不気味って失礼だなあ。

 わたしが残念な気持ちになっていると、西園寺がいう。

「『落とし物預り所』ってのは、落とし物を預かる場所だろ。能力頼りでバンバン返していくものじゃないんじゃないか?」

「でも、持ち主が困ってるかと思って……」

「そういう時は、持ち主が何かを探している様子なら、『なにかお探しですか?』っていうんだ。それで、少しずつ落とし物の情報を聞き出して返す、それが自然だろ」

「なるほど! 西園寺は頭いーね!」

「ちょっと考えればわかるだろ……」

 西園寺がため息をつく。

「でも、別にわたしのやってることが炎上したわけじゃないし」

「そうだけど、この投稿もわりとバズってる。有栖町ってきっちり書かれてるし、不気味だって思われるとよけいに人が来なくなるぞ」

 その言葉に、わたしは何もいい返すことができなかった。

 例の不気味と書かれた投稿は、どんどん拡散されていった。

 休み時間のたびに、SNSを確認したから間違いない。 

 投稿にはたくさんのコメントがついていた。

 【炎上した遊園地がある場所ですね】とか、【やっぱり行くのやめようかな】とかマイナスなコメントが多い。

 おまけにこんなコメントもあった。

 【ワンダーランドのぴょん太ってキャラって呪われてるらしいよ】

 【ああ、ぴょん太のぬいぐるみが、自力で道を移動してたって聞いた】

 これは……うちのぴょん太のことだろう。

 そういえば、いなくなった時にあちこち移動したっぽいな。

 あれ、見てた人がいるのか。うーん、それはまずいな。

 ってゆーか、一連の事件は、ぜんぶわたしの責任ってこと? うん、まあ、そうだよね……。

 わたしは、ため息をつきながらコメントをざーっと確認していく。

 ふと、一つのコメントでスクロールする手が止まる。

 そこには、こう書かれてあった。

【わたし、怪談とかホラーとか好きなので、有栖町が気になる】

 そうだよ! わたしみたいにホラーが好きな人もいるよね。

 ふと、ワンダーランドが深夜営業をしていた夢を見たのを思い出す。

 あれは夢だと思うけど、やけにリアルだったな。

 不気味な有栖町かあ。

 そこでひらめいた。これは、使える!

 うまくいけばお客が戻るどころか、お客が前より増えるはず。

 だけど、それには、わたしだけの力じゃ無理だ。みんなに、協力してもらわないと……!

「えっ?! ハロウィンの和菓子?」

 お昼休みに、苺がそう聞き返してきた。

「そうなんだ。『ひめみや』でもさ、ハロウィンの和菓子ってのがあったら、もっともっと人気になりそうじゃない?」

「確かにそれはいいアイデアかも。家は和菓子屋だから、ハロウィンとは無縁だと思ってたけど」

 苺はそこまでいって、考え込んだ。

「ワンダーランドも有栖町もお客が減ってるし、新商品で話題作りをするのもいいと思うよ」

 わたしがいうと、苺はやさしく微笑む。

「うん。いいね、それ」

「また悪だくみをしてるんじゃないだろうな」

 そういって話に割って入ってきたのは、西園寺だった。

「悪だくみじゃないよ」

 そこまでいって、わたしは、「悪だくみ……」とつぶやく。

「なんだ、本当に悪だくみか……。とうとうヤケになったのか」

「ちがうちがう。そうじゃなくて。西園寺にも、協力してほしいことがあるの」 

 わたしの言葉に、西園寺は不思議そうな顔をした。

 それからわたしは、お土産屋のクラスメイトやカフェのクラスメイトに、話をする。

 みんな、最初は驚いていたけれど、「面白そう」と快諾してくれた。

 教室にひさびさに活気が戻ってきた気がする。


 それからすぐに、有栖町のリニューアルが始まった、

 リニューアルっていっても、たくさんお金がかかるわけじゃないけど、むしろ、あまりお金をかけないことが重要ともいえる。

 ちょっとした工夫で、話題作りができれば、それが一番だ。

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