第14話 謝罪
ワンダーランドの炎上事件から十日後。
例の炎上させたアカウントが謝罪をした。
ぴょん太の元持ち主のお姉さんの恋人、タケシだ。
タケシは、事の経緯をこう説明した。
メガネは自分で壊した。スタッフには、わざと自分がぶつかってケンカを売った。
すべては、ワンダーランドがどんどん有名になることが嫌だったから。コヨーテパークに人が入ってほしいと思ったから。
これは、すべて自分の独断であり、コヨーテパークからの指示ではない。
そんな謝罪文がSNSに掲載された。
なんでも、白鳥さんのお父さんが、探偵を雇ってタケシを探し出したらしい。
すごい。そして怖い。
そりゃあだれも白鳥さんのお父さんに逆らえないわけだ。
でも、自分の大事なワンダーランドを、うそで炎上させたら、だれだって怒るよね。
タケシの謝罪は、再び炎上した。
今度はSNSだけにはとどまらず、ネットニュースにもなり、おまけにテレビまでこの件を取り上げたのだ。
最初の炎上よりも、だいぶ大事になってしまった。
最初は炎上させた側のアカウントが、ネットでは非難を浴びた。
コヨーテパークは、このスタッフを解雇したと発表。
それにより、「それはやりすぎではないか」とコヨーテパークも非難を浴びた。
さらに、「ワンダーランドは無理に謝罪をさせる必要はなかった」とか、「実はワンダーランド側の自作自演ではないか」という声も上がったのだ。
「犯人が見つかって、めでたしめでたし、とはいかなかったね」
わたしはスマホを操作しながら、西園寺にいう。
朝の教室は、まだ生徒がまばらだった。
「そうだな……。実際、ワンダーランドの客足は減っている」
「えっ? だってワンダーランドは悪くないじゃん。むしろ被害者だよ」
「そうだけど。この炎上に便乗して、ワンダーランドのありもしないうわさを書き始めたアカウントが、あちこちにいるんだ」
「ええっ?! ありもしないうわさって、うそってこと? そんなことしてどーすんの?」
「うそついてでも目立ちたいんだろ、どうせ」
そういってため息をついた西園寺は、どうも元気がないようだった。
別にいつも元気いっぱい! という感じではないけど、今日は浮かない顔をしている。
ワンダーランドにお客が戻らないと、西園寺旅館にも人が来ないもんね。そりゃあ、心配して元気もなくなるわけだよね。
「おれはさ、別に旅館がどうなろうとどうでもいいんだ」
わたしの心を見透かしたかのように、西園寺がいう。
まるで西園寺は、ひとりごとのように続ける。
「だっておれには、夢があるから。旅館を継ぐのは、本来は兄貴の役目だ」
「ああ、パイロットの夢のことね」
「そう。でも、兄貴が旅館に帰ってこないなら、おれが継ぐしかない」
「まあ、しかたがないよね」
「兄貴が帰ってくる気があるのか、ないのかわからないけど、もう兄貴も旅館を継ぎたくないのかもしれない」
「そんなの、まだわかんないじゃん」
「そうだけど。兄貴がやたらと海外に行くのは、旅館を継ぎたくないだけかもしれないって最近思うんだ」
「じゃあ、もしも西園寺旅館が潰れたら、西園寺は晴れてパイロトの夢を追えるよね」
「そういうことじゃないんだよな」
西園寺はそういうと、窓の外を見たので、わたしも窓の外に視線を向ける。
今日は曇っていて、ワンダーランドのお城は見えない。
「誰かを不幸にすることなく、夢を叶えたいんだよ」
西園寺が、そういった時、雨が降り出した。
元気がないのは、西園寺だけではなかった。
苺も、あの白鳥さんまでもが、どこか落ち込んでいるようだ。それどころか、このクラスで元気なのは、わたしだけのように感じた。
もちろん、わたしだって心配はしている。
それでも、みんなのように自分のことというよりは故郷の心配、というだけだ。だから、みんなより危機感も薄い。
なんだか、わたしだけ蚊帳の外って感じで、寂しい気もする。
「ちょっといいかしら」
帰り支度をしていると、そういってわたしの席に来たのは、白鳥さんだった。
セーラー服は相変わらず新品のように輝いているけど、チャームポイントのツインテールがちょっと下がっている気がする。
「なっ、なに?」
わたしは、なにか文句でもいわれるのかと思って身構えた。
「パパから聞いたわ。あなたと西園寺くんが、ワンダーランドを炎上させた人間を見つけてくれたって」
「いや見つけたのは、恋人のほうで……」
「いいのよ。おかげでこっちは犯人を見つけられたんだから」
白鳥さんはそこまでいうと腰に手を当てて、胸を張っていう。
「お礼をいうわ。ありがとう」
お礼をいう側のわりには、えらそうな態度だけど……。
でも、いつもの圧はまったくない。
それにまさか、白鳥さんにお礼をいわれる日が来るなんて思わなかったから、ちょっとうれしいかも。
「でも、あれは、本当に偶然だったから」
「それでも、ワンダーランドや有栖町のために、動いてくれたんでしょ? もっと堂々としてくれない?」
「はい、お嬢様」
わたしが冗談っぽくいうと、白鳥さんはツインテールを揺らしてからため息をつく。
「はあ。わたし、あなたに嫌われてるみたいだから、話しかけたくなかったのよね」
白鳥さんは、そういってツンと横を向いた。
「え? 嫌われてる? 白鳥さんがわたしのこと嫌ってる、の間違いでしょ」
「別に嫌ってなんかないわ。ただ……。あなたが異様にわたしを敵視してくるから嫌われてると思ってたの」
「敵視なんかしてないよ」
そういってからふと思う。
わたしは白鳥さんを、敵視していたわけじゃない。
嫌われてるから、苦手意識を持っていた。
だけど、もっと根っこのほうに、白鳥さんへの別の感情がある。
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