第12話 ワンダーランドの炎上騒ぎ

「ワンダーランドにお客さんが減ったら、困っちゃうな……」

 休み時間に苺が、ため息混じりにそういった。

「ワンダーランドに来る人が減っても、『ひめみや』のいちご大福の人気は変わりないでしょ?」

 わたしがいうと、苺は首を左右に振る。

「そんなことないの。やっぱり、ワンダーランドに来る人が偶然、店に寄ってくれるってことが多くて……」

「へぇ。そうだったんだ」

「それに今は、ネットやSNSで写真を見た、評判を聞いたとかで、店に来ることも多い。だから、炎上ってのは一番マズいんだよ」

 そういって話に割って入ってきたのは、西園寺だった。

「なに盗み聞きしてるのよ」

 わたしがそういって西園寺をにらみつけても、奴は動じない。

「でも、ワンダーランドのスタッフがあんなにヒドイ対応をするなんて、信じられない」

 苺がそういって、うつむいた。

 すると、西園寺がぽつりとつぶやく。

「あれ、本当か?」

「本当なわけないでしょ!」

 甲高い声は教室中に響いた。

 白鳥桜子、登場。

 白鳥さんも、盗み聞きしてたんだ……。

「うちのスタッフはパパが直々にしっかりと教育してるの! あんな態度とるはずがないわ!」

「でも、実際に音声が……」

 クラスの中の勇敢な男子が、白鳥さんにそういった。

 彼女は、その男子を思い切りにらみつけてから、いう。

「あんなの、うちにケチをつけたい人間が勝手に作った音声に決まってるでしょ!」

 そんなめちゃくちゃな……。

 わたしがそんなことを考えていると、西園寺がいう。

「確かにその可能性はあるな」

「本気でいってる?」

 わたしが驚いて聞き返すと、西園寺はまじめな顔でうなずいた。

「白鳥のいってることは、一理あると思うんだ」

 放課後の教室は、わたしと西園寺のふたりだけ。

「放課後に教室にいてくれ」というから、炎上の件だろうなあとは思ったけど。

 苺は苺で、ワンダーランドの炎上に心を痛めているようで、気軽に遊びに誘えないし。

 それにしたって西園寺とこうも毎日、顔を突き合わせていると、ため息も出る。

「ワンダーランドにケチをつけたい人が、音声を勝手に作ったんじゃないかって?」

「ああ。実際、あの音声は一部始終の会話じゃない。話はだいぶ途中だし、ごく一部の音声のみだ」

 西園寺は椅子から飛び降りてから続ける。

「だから、音声を録音した側の都合の良いところだけを編集して、アップロードした可能性がある」

「でも……。スタッフの人、すごく怒ってたじゃん」

「そりゃあ、めちゃくちゃ失礼な客をずっと相手にしてたら、だれだってああなる」

「なるほど。わざとスタッフを怒らせることをした可能性があるってことね」

「そう。だけど、何も証拠がない」

「証拠、ねえ……」

「そこで、緒代の出番ってわけだ」

 西園寺がそういってにやりと笑った。

「またわたし? やだよー。勝手に調べなよ」

 わたしがいうと、西園寺がスマホを取り出す。

 そうだった、能力のことをしゃべったことを録音されてたんだ……。

「知ってる? これ脅迫だよ?」

「おれはなにもいってないが……」

「最初にいったじゃん。お昼休みに放送室で流すって。それ脅迫じゃない?」

「じゃあ、警察に行くか?」

「そこまでは……」

 わたしが黙り込んだところで、西園寺が真面目な顔でいう。

「そもそもワンダーランドの炎上は、他人事じゃないだろ」

「他人事だよ」

「ワンダーランドに人が来なくなったら、有栖町の観光客が減る。そうなると、西園寺旅館だけじゃなく、姫宮の店だって経営が傾きかねない」

「はっ! それはダメ! よし、犯人を見つけよう」

 わたしはそういうと勢いよく立ち上がった。

「単純だな……。ってゆーか、投稿者をもう犯人扱いかよ」

 西園寺が呆れたようにわたしを見た。

 目的地はワンダーランド。

 例の、炎上させたアカウントがスタッフとケンカをした場所は特定できてる。

 眼鏡を壊された、という写真を載せていたから。

 その風景で、何度も来たワンダーランドのどこなのかが、わたしにも西園寺にも特定できてしまうのだ。 

 基本的にワンダーランドは、入場料はタダでアトラクションにお金がかかる、という仕組みになっている。

 その気軽さもワンダーランドにお客が入る要素だと聞いたことがあるのに、平日のワンダーランドは人がだいぶ少なかった。

「お客が少ない。炎上の影響かなあ」

 わたしがつぶやくと、西園寺がいう。

「平日だからってのもあるだろ」

「ねえ、先にケンカしたスタッフの人に当時の状況を聞いてみたほうが良くない?」

「……それは無理だな」

「なんで?」

「今日の炎上のアカウントが、『ワンダーランドに苦情を入れて、スタッフをクビにさせた』と書いていた」

「えっ? クビ?」

「まあ、本当かどうかわからないけどな。クビじゃなくても、しばらく休みだろ」

 西園寺はそこまでいうと、足を止めた。

「ここだな」

 わたしたちがいるのは、コーヒーカップの乗り物の近く。

 このコーヒーカップの近くで、例のアカウントは壊れたメガネの写真を撮っていた。

 そこをわたしと西園寺は、何か落とし物がないかと調べてみる。

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