第11話 恩返し

 あちこち探してみたけれど、 ぴょん太はどこにもいなかった。

 ワンダーランドの中も探したけれど、いなかった。

 家に帰ってるかもしれないと思って来た道を戻ることにした。

 もしかしたら、また捨てられたと思って、どこか遠くへ行っちゃったのかな。

 手を洗いに行く時、「手を洗うだけですぐに戻るからね」というべきだった。

 そうだ、だってぴょん太は、ベンチに置かれて捨てられていたのだから。きっと、トラウマなのだろう。

「ああ、なんてことをしちゃったんだ」

 そう思って横断歩道を渡ろうとした瞬間、うさぎのぬいぐるみが視界に入る。

 わたしは横断歩道を渡るのをやめて、立ち止まる。

 足元に、ぴょん太がいたのだ。

「探したんだよ!」

 わたしがぴょん太を抱き上げたようとした瞬間。

 キキ―ッという耳をつんざくような音。

 ドンッという音がしたので、そちらを見る。

 そこには、ガードレールにぶつかって停止している車があった。

 横断歩道の向かい側のガードレールは大きくへこんでしまっている。

 運転手が慌てて車から出てきた。巻き込まれ人はいないようだ。

 ホッとしていると、近くにいたおじさんがいった。

「お嬢ちゃん、よかったなあ。横断歩道を渡っていたら轢かれてたぞ」

 その言葉にぞっとする。

 あのままわたしが横断歩道を渡っていたら車に轢かれていた。

 そうならなかったのは、ぴょん太がここにいてくれたからだ。

 わたしは、ぴょん太についたほこりをはらう。

 その瞬間、頭の中に映像が流れる。

「探したんだよ!」

 わたしが心配して、ぴょん太に駆け寄るところだった。

 ぴょん太の思い出は、上書きされたらしい。

 じゃあ、ここにいたのはわたしを……持ち主を事故から守ってくれたの?

「ぴょん太、ありがとう」

 わたしはそういって、ぴょん太を抱きしめた。

 気分よく家に帰ったのに、部屋に戻った瞬間に憂鬱な気分になる。

 家にスマホを忘れたので、確認したら、西園寺からのメッセージが何通も入っている。 スマホを操作すると、西園寺のメッセージは立て続けに来ているた。

【ネットでヤバい投稿を見つけたんだ】

【SNSにワンダーランドのことが書かれてある】

【おい、まだ寝てるのか?】

 わたしはしかたなく返事をする。

【スマホ、部屋に忘れてた】

 西園寺からの返事はすぐにきた。

【寝てたんなら素直にいえばいいだろ】

【寝たんじゃないってば! 散歩してたの!】

【そうか。そんなことより、大変なんだ】

 西園寺のメッセージと共に、URLが送りつけられてきた。

 そのURLをタップし、画面が変わる。

 画面を見て、わたしは自分の目を疑った。これは確かに大変だ。


 月曜日の六年一組は教室は、いつもより騒がしかった。

「ワンダーランドがSNSで炎上したらしいね」

「知ってる。スタッフの態度が最悪だったって」

 教室では、男子も女子も一つの話題で持ち切り。無理もないと思う。

 昨日、西園寺から送られてきたURLのリンク先は、SNSのアカウントだった。

 そのアカウントには、ワンダーランドに行ったら、スタッフにヒドイ対応をされた、もう二度と行かない。

 そんな投稿と写真が載っていたのだ。

 投稿によれば、スタッフがぶつかってきて眼鏡を壊されたのに、謝罪もされないうえに、スタッフに逆ギレされたという。

 その時のやりとりの音声も録音されていて、投稿といっしょにアップロードされていた。

 聞いてみたけど、「やってない」と一点張りのスタッフ。その口調は、確かに怖いと感じるものだった。

 投稿はまたたくまに拡散され、ワンダーランドは大炎上。

 もう二度と行かない、とか 大好きだったけど、もう嫌いです、とかワンダーランドは好きだけどこれは許せない。

 そんな批判で溢れた。

 ひどい対応をされた、という書き込みが投稿されたのは、金曜の夜十時。

 つまり、昨日、お客さんがいつもより少ないと感じたのは気のせいじゃなかったようだ。

 日曜日もお客さんは少ないなあと思った。まあ、わたしには関係のないことだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る