第8話 夢、それとも……。
それから、苺が切ってくれたロールケーキをふたりで食べた。めちゃくちゃ美味しくて、才能を感じたなあ。
ケーキを食べた後、苺が実は和菓子職人じゃなくてパティシエになりたいという夢を話してくれた。
「お父さんもお母さんも、わたしが和菓子職人なると思ってるから、内緒にしてるの」
そういった苺は、寂しそうにうつむく。
そういえば、西園寺のキーホルダーに触れた時、見えたっけ。
パイロットになりたいといっていた、幼い西園寺。
もしかしたら、西園寺はパイロットの夢を叶えたくて、お兄さんを探しているのかな。本来は長男であるお兄さんが、旅館を継ぐはずだから。
そして、和菓子職人じゃなくて、パティシエになりたい苺。それを両親に話せないでいる。
わたしは、お店を経営している家の子は、幸せなんだと思っていた。
だけど、みんな、いろいろな悩みを抱えているんだ。
「わたしは、苺の夢を応援してるからね」
苺にそういうと、にっこり微笑んでくれた。
その日の夜に西園寺にメッセージで、苺のことを伝えた。パティシエになりたいこと伏せて。
わたしの誕生日のサプライズをするために、ワンダーランドのフードコートでケーキを焼いていた。
苺の話によると、フードコートを使っていたのは夜九時から十時くらいまで。
つまり、深夜にワンダーランドのアトラクションが動いていたり、二時におばけが出たりするってのは完全にうそ。
それを報告すると、西園寺から返事がきた。
【じゃあ、うわさを流していた人物がいるというよりは、フードコートの灯りがついているのを見た誰かが勘違いしただけってことか】
【そうだね。お兄さんが関わってる可能性は低いね】
【そうみたいだな……】
それきり返事はこなくなった。
西園寺、ガッカリしたんだろうか。
わたしも、お兄さんの手がかりが見つからないことにガッカリだよ。
あーあ、まだお兄さん探しを手伝わなきゃいけないのかあ。
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠ってしまった。
ふと目が覚めたら、外はまだ真っ暗だった。
遠くから、ワンダーランドの間の抜けた音楽が聞こえてくる。
空耳かと思ったんだけど、音がどんどん大きくなった。
まさか、とつぶやいて、窓を開ける。
ワンダーランドのほうを見れば、灯りがついていた。
フードコートだけに灯りがついている雰囲気じゃない。ここからだと少し遠くて見えないけど。
全部のアトラクションが動いているみたいだ。
なんで? 外は真っ暗なのに?
確かめにいこうかと思ったけれど、体が動かなかった。
どうしてなのかわからないけど、行ったらいけない気がした。
怖くなってきて、わたしは布団に戻る。
スマホで時間を確認すると、深夜二時だった。
わたしは、タオルケットを頭まですっぽりとかぶる。
それでも、ワンダーランドの音楽がここまで聞こえてきた。
次の日の朝、わたしはあくびをしながら登校する。
ワンダーランドが夜中に営業しているのを見てしまって、怖くてなかなか眠れなかった。
ホラー映画を観ても、あそこまで恐怖を感じたことはなかったのに。
それはもしかして、あれが本当の出来事だったから?
いやいや、まさか、夢だよね。
そんなことを布団の中で考えていたせいか寝不足だ。
それにしても、夢にしてはやけにリアルだったなあ。でも、リアルな夢ってみるし。
きっとあれは夢。
そういい聞かせながら歩いていると。
「よお」 と後ろから声をかけてきた西園寺は、わたしと同じように眠そうにだるそうに歩いていた。
「おはよう。なに? 西園寺も寝不足」
「ああ、ちょっと」
西園寺はそういうと、こう続けた。
「昨日、いや今日か。夜中にワンダーランドの曲が外から聞こえてきてさ」
「え?」
「いや、夢だ、ただの夢」
西園寺はきっぱりとそういいきった。
わたしはふと振り返る。
ワンダーランドは、まだ閉まっている。
「うん。夢だよね」
自分にいい聞かせるかのようにいって、歩き出したその時、聞こえてきた気がした。
ワンダーランドにおいでよ~♪
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