第6話 友情にヒビ?

「あっ。わたしのヘアピンだ。なくしたと思ってたんだ」

 次の日の朝、教室でヘアピンを苺に渡した。

「拾ってくれて、ありがとう」

「ワンダーランドの門の前に落ちてたよ」

 わたしがそういうと、苺がおどろいたような顔をしてから、目を伏せながらいう。

「そんなわけないよ……。わたし、最近はワンダーランドには行ってないから……」  

「でも、ワンダーランドの門の前に落ちてたよ」

「ほんとうに行ってないの」 

 苺はそういって自分の席に戻ってしまった。

 なんだか苺が変だ。急に元気がなくなった気がする。

 それから苺は、あからさまにおかしくなった。

 わたしを避けるのだ。無視をされるわけじゃない。

 でも、話しかけるとすぐに切り上げてしまって、トイレへ行ってしまう。放課後は、家の手伝いだといって逃げるように帰って行った。

 そんなことが丸二日も続いた。


 避けられて三日目に、わたしはとうとう、苺にハッキリと聞いた。

「どうしてわたしを避けるの?」 

「ちがうの……。避けてるわけじゃないの……」

 そういった苺は、消えそうな声だった。

「ちがわないよ。苺、変だもん」

「それは、その、ちょっと事情があって」

「事情ってなに?」

 わたしがそう聞くと、甲高い声が話に割って入ってきた。

「ケンカはみっともないわよ!」

 白鳥桜子の登場だ。

 いちいちおせっかいな人だな。このクラスのボスみたいな態度が、なんかモヤッとするし。

「白鳥さんには関係ないでしょ!」

 わたしがいうと、白鳥さんはこちらをチラッと見る。

 それから、白鳥さんは苺にいう。

「あなたは間違ってないわ」

「白鳥さん、ありがとう」 

 苺がそう答える。

 なに? ふたりでなんの話?

「苺、なんで白鳥さんと仲良くしてるの?!」

 わたしがそういうと、白鳥さんがこちらをにらみつける。

「姫宮さんは、あなたの所有物ではないでしょ?」

「はあ? そんなこといってないじゃん!」

 わたしが姫宮さんをにらみつけると、ぬっと間に誰かが入ってきた。

「邪魔だ」

 西園寺はそういうと、わたしと白鳥さんの間を通り抜ける。

 教室のドアに手をかけた西園寺は、こちらを振り返って口を開く。

「例の事件、解決したぞ」

「解決したの?」

 わたしがいうと、西園寺は大きくうなずいた。

 教室から出ていく西園寺のあとを、わたしは急いで追いかける。

 ちらっと苺のほうを振り返ると、不安そうな表情でこちらを見ていた。

 白鳥さんは、「気にすることないわよ」なんて、苺にいっている。

 いつのまに苺は白鳥さんと仲良くなったんだろう?

 もしかして、ワンダーランドの門の前にヘアピンが落ちていたのって……こっそりワンダーランドで、白鳥さんと遊んでる?

 白鳥さんがわたしのことを嫌ってること知ってて、仲良くしてるの? ひどい!

 そう思うと、わたしは苺が不安そうな顔をしていることなんてどうでも良くなってくる。

 だから、急いで西園寺を追いかけた。

 昇降口にいた西園寺をつかまえる。

「事件って、例のワンダーランドが深夜に営業してるってやつだよね」

 わたしの言葉に、西園寺は少しだけ考えてから口を開く。

「そうだ。今から行くぞ」

「ワンダーランドに?」

「おれの家だ。まあ、正確には西園寺旅館だけど」

「え? なんで西園寺旅館に行くの?」

「答えがそこにあるんだよ」

 わたしは頭上に「?」マークを浮かべたままで、西園寺とともに下校した。

 西園寺旅館へ行くまでの間、わたしは苺のことだけを考えていた。

 明日から、どういう顔をして会えばいいんだろう?

 もしかして、苺は明日から白鳥さんと仲良くしてるかもしれない。

 それにしても、いつまにふたりはあんなに親しくなったんだろう。

 考えればキリがない。

 そうこうしている間に、西園寺旅館に着いた。

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