第2話 不思議な能力
あの映像の中の男の子の顔と、『コウキ』と呼ばれていたことから、持ち主は西園寺だろう。
だからキーホルダーを、持ち主に返そうと思ったのだ。きっと、これは大事なもの。
キーホルダーも持ち主の元へ帰りたがっているはず。
だけど、どうやって呼び出そうか。
うーん、と考えこんでいると。
「何の用?」
そういって現れたのは、西園寺航貴ご本人であった。
幼なじみであり、今は同じ六年一組のクラスメイト。
昔と比べて、イケメンに磨きがかかって学校でも密かに人気がある。
だけど、わたしは今の西園寺がちょっと苦手。
冷たい瞳をこちらに向けて、無表情でわたしを見ていて何を考えているのか、よくわからない。
「あっ! ちょうどいいところに! 西園寺、これ」
わたしはそういうと、キーホルダーを差し出す。
西園寺は、キーホルダーを見た途端にこういう。
「おれのではない」
「まだなにもいってないじゃん」
「おれのじゃない」
「いや、だから、まだわたしは」
「おれのじゃない」
「壊れたロボットじゃないんだから」
「とにかく帰れ」
「なによー。せっかく人が親切心で届けてあげたのに……」
「時間の無駄だったな」
西園寺はそういうと、わたしに背を向け、それからぴたりと動きを止める。
「いや、まて」
「なに?」
「そのキーホルダー、どこに落ちてた?」
「え? 裏通りのカフェの前」
「なんでおれのだと思った?」
西園寺はそういうと、くるりとこちらを振り返る。その顔は真剣だった。
「え、いや、その……」
わたしは、返事に困った。
まさか本当のことをいえるわけがないし、いったところで信じそうもないし。
「むかーし、西園寺が持ってるのを見たことがあって」
「うそつけ」
まあ、うそなんだけど。
「えーっと、なんか、西園寺のだって、思ったけど」
わたしはキーホルダーをポケットにしまう。
それから、「ちがうならいい」とだけいって歩き出そうとした。
その瞬間、西園寺に腕をガシッとつかまれた。
「
「能力?」
ギクリとしたのが顔に出たんだろう。
西園寺はニヤリと笑っていった。
「物に触れると、持ち主の思い出の一部が映像として見える」
「えっ」
「しかも、持ち主の思い出ではなく、物側の思い出が見える」
「……えっと」
「……そういう能力が、開花したんだろう?」
西園寺は大まじめな顔でいったので、わたしは思わず黙り込んだ。
だって、わたしの能力をピタリと当ててしまったのだから。
ちょうど一週間ぐらい前だった。
忘れもしない八月三十一日。夏休み最後の日。わたしの誕生日。
そして、おかしな能力が備わった日。
西園寺のいった通りだ。
物に触れると、持ち主の思い出が映像として見える。
しかも、人間側じゃなくて物側の思い出だ。映像はいつも物視点だからそうなのだろう。
その映像は、わたしの脳内だけに流れてくる。
そんな異能に目覚めてしまったのだ。
最初は、自分がおかしくなったのかと思って、母に青ざめながらこのことを話した。
すると、母はあっけらかんとした様子でこういった。
「ああ、
「えっ?! そうなの?」
そんなこんなで、これは隔世遺伝らしい。
祖父母は今、マレーシアでのんびりと暮らしてから直接詳細は聞けないのだけど、心配するようなものではないらしい。
とはいえ、誕生日に突然、備わった能力をどう扱っていいのかもわからず、持て余していた。
「サイコメトリー」
西園寺がぽつりとつぶやいたので、わたしはハッと我に返る。
「さいこ……なに?」
「サイコメトリー」
「なにそれ?」
「物に触れると、所有者の情報を読み取ることができる超能力」
「へぇ。そんな超能力あるんだ」
「ある。緒代の能力と似てるだろ」
「まあ、ちょっとちがうけど」
わたしはそういってから、ハッとした。
西園寺は呆れたようにわたしを見る。
「やっぱりな。まさか自分で白状するとは思わなかった」
「だから、わたしにそんな能力はないんだって!」
「強情だな」
西園寺はそういうと、ポケットからスマホを取りだす。
スマホの画面には『録音』の文字。
「まさか今までの会話……」
「録音してた。でも、能力がないなら、別にこの会話を誰かに聞かせてもかまわないよな?」
「誰かって誰よ!」
「たとえば、学校の放送室で昼休みに、この会話を流すとか」
「それはやめて!」
わたしは昼休みにこの会話が、校内に流れていることを想像して叫んだ。めちゃくちゃ厄介なことになりそう。
「わかった。おかしな能力が備わったのは認める」
「そうだろうな」
西園寺はそれだけいうと、スマホをポケットにしまった。
「正直にいったんだから、録音した会話は消してよ」
「消すのには条件がある」
「は? 条件?」
「そうだ。簡単だ」
西園寺は、無表情のままでこう続けた。
「二年前に家を出ていったきりの兄貴を探す手伝いをしてほしい」
「ああ……。そういえば、お兄さんまだ帰ってきてないんだ?」
「どこにいるかも手掛かりがない。だから緒代の能力は役に立つ」
「もし、手伝わないっていったら?」
「さっきいったように、この会話を昼休みに放送室で流す」
「……手伝います」
わたしがそういうと、西園寺は満足そうに笑った。
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