3 壊れちゃった♪

 足を止める。逃げるにしても、何処どこへ?


 自称神様あいつしばらく待てと言った。なぜか?


 「出口がない……とか、ありえなくもねーよなぁ」


 見渡す限り、何もない。本当に何もない。


 「おいおい、どんな悪夢クソゲーだよ。イマドキ流行らねーだろ。暫く待ってる間にただの肉に成り果てるのは勘弁だぜ……!」


 もう走っていないのに、息が上がる。苦しくはない。


 短剣を握る手に自然と視線が向く。何度か握り直す。


 やるか? やれるか? 己に問いかける。


 振り向く。もう軍勢はすぐそこだ。帰りたい。


 「ほら、もしかしたら楽勝かもしんねーし。さっきの骸骨だって1発だったじゃねーか! 楽勝楽勝!! ははっ……」


 いくら御託を並べても、頭では理解している。


 してしまっている。数の暴力は比ではないと。


 だが、此処ここで俺は吹っ切れた。諦めたとも言う。


 俺は不貞腐ふてくされた。地団駄踏じたんだふんだ。走り出す。


 「もう知らん! 暴れよう!! 死ねば諸共だぜ骸骨あいぼう!!!」


 まずは先制、先頭の骸骨をナイフで一突きし、粉砕。ひゃっはー!


 「あ、やべ。死ぬ」


 左右から変形済みの黒刃が薄青色の軌跡を辿りながら迫り来る。音圧が凄い。


 挟撃は加速し、回避は不可。叫びながら防御する。


 「やっべこれほんとに死んだかも――って、生きてたぁ!? 皮膚、硬っ! 俺、人間じゃねぇ!!」


 普通に痛みはあるが、血は出ていない。セーフだ、多分。


 驚愕しつつも動きは止めず、短剣で不格好な回転斬りもどき。


 型なんて無視。そもそも知らんがな。ぺっ。


 あらん限り腕を振り回し、とにかく当てることに集中する。


 「キリがねぇ……! しょうがねー、今から俺はロボットだ!! ウィーン。メノマエノテキヲハイジョシマス、なんてなぁ!!!」


 そこからは長かった。キツかった。主に思考が暇すぎて。


 どれほど経っただろうか。眠気が徐々に浸透しつつある。


 身体昇華の効果で強くなっていく自覚がなければ、更に時間がかかっていただろう。


 「ウィーン。ハイジョカンリョウ――っと。やーっと終わったか。なにが今日から俺はロボットじゃボケェ! つまらんわ、あほんだら!!」


 自分にツッコミながら辺りを見回せば、既に骸骨の姿は1匹たりともなかった。駆逐完了だぜ。


 汚れるのを躊躇ちゅうちょせず、その場でドカッと座り込む。冷たっ。


 「さーて、腹拵はらごしらえでもすっか。もう襲ってくるやつなんていねーだろ! 流石に疲れたぜ……」


 そうして俺は気分よくハミングしながら食べかけのバゲットを一口頬張り、満面の笑みで水面に映る『それ』を見てしまった。


 振り向く。表情かおがひくつく。笑えない。ウケる。


 「あー……あんたもバゲット1つ如何いかがかな? え、いらない? そっかー……そりゃあ残念だぜ」


 ゆらりと立ち上がり、短剣を構える。吹き飛ばされた。


 「は? ――グハッ! マジかよ……笑うしかねぇ。腹筋痛てぇ」 


 数十メートル後退し、やっと止まった。息を整える。


 短剣が不壊特性を持っていたから吹っ飛ばされるだけに留まったものの、そうでなければ――考えたくねーな。


 後は自称神様を待つだけだと思ってたのによぉ……。


 濃青色の覇気を撒き散らす、渦巻く牛角を持つ悪魔のような骸骨を見据える。


 足は存在せず、揺蕩たゆたうヤツは――気づけば、眼前そこに居た。


 「――ッ!」


 至近距離で空洞からっぽの視線が交差する。あかん、格が違う。


 ヤツの外套が揺らめく。前傾姿勢、迎撃準備!


 何合か打ち合わい、舌打ちをする。チッ。


 俺は大鎌の連撃に合わせることしかできない。


 既に眠気は覚めていた。ガンギマリである。


 合わせるのも、先の戦いを通じて昇華していなければできなかった。ギリギリすぎる!


 「八方塞がりなんだが? ざけんな俺の不利すぎる……! てめぇの下方修正ナーフを要求する!!」


 元々の出来が違う。このままじゃジリ貧で負ける。


 「どうすっか……土下座したら帰ってくんねーかな。え? ここがホーム?? じゃあ交渉決裂だ、くそったれ!」


 そりゃあ、わかっていたさ。わかりたくなかったが。


 このまま勝利の糸口を見つけなければ詰む。


 鍵は身体昇華。こいつを使い熟すこと。


 一つ、策は思いついた。できるかはわからない。賭けだ。


 打ち合うだけの力は既にある。後はタイミング!


 ヤツの影が揺れて――ここッ!


 「ぶっ壊れちまいなぁ――ち、上げるッ!!」


 狙いは本体じゃない。ヤツの大鎌。万が一の保険だ。


 見事、粉砕。笑みが込み上げる。俺、最強!


 短剣と反対の腕で殴打、ヤツの顎も搗ち上げ、心臓部に探検を深く突き刺す。


 ぐりっと回し込み、短剣を通して傷口から吸い上げるイメージ――できた! よっ、天才!! 讃えよ!!!


 吸い上げている間も止め処なくヤツに両腕で殴られ、全身でプレスされながらも着実に魔素を吸い上げる。やっぱ痛ぇよ! 暴れんな!!


 数分後、立っていたのは俺ひとりだった。勝利!


 「あぶねぇ、もう少しでせんべいにされちまうとこだった……!」


 仰向けにぶっ倒れる。もう疲労が限界だ。


 連戦だったから後は休んでいいよ――とは問屋が下ろさない。


 数メートル先で地がガコンと陥没。蓋、落下。


 巨大な落とし穴が形成され、水流が激化する。


 「息をつく暇がないとはこのことか! くそったれ!!」


 慌てて走り出すも、呆気なく激流に飲まれて落とし穴へ誘導、自由落下。その頃には無抵抗になっていた。


 この時の俺の表情は正しく仏だったとか、違ったとか。


 「もーどーにでもーなーれ♪」


 あーあ、俺、壊れちゃった♪

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フィジカルモンスターはやかましい! 田仲らんが @garakota

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