メデューサの顔面偏差値

ちびまるフォイ

女の子にはいつもカワイイと答えよう

「こんにちは」


「いらっしゃっ……。なんですかその顔のマスクは?」


「私の顔を見ると石化しちゃうのよ」


「それでそんな鉄仮面を……」


「ところでここは鏡専門店よね?

 その、あるかしら?」


「なにがですか?」


「自分を見ても石化しない鏡」


「いや当店ではそのような魔法な鏡はないです」


「もう! なんでないのよ! 遠路はるばる来たのに!

 これじゃいつまでたっても自分の顔が見れないじゃない!」


「そんなのご自分の顔が見たいのですか?」


「女の子だもん!!」


「知りませんけど」


「でも私の顔をみると石化しちゃうの!

 なんてひどい呪いをかけたのかしら!」


「カメラとかで撮影してみては?」


「ダメよ。カメラが石化しちゃう」


「それじゃ似顔絵は?」


「それこそ無理に決まってるでしょ。

 描き終わる前に石化しちゃうわ」


「なるほど……。ちなみに、どれくらい顔が露出すると石化するんです?」


「そうねぇ。顔の4分の1以上が見えると……あ!」


「なにか思いついたんです?」


「私の顔を描いてもらう方法を思いついたのよ!

 こうしちゃいられないわ! メデュー♪」


手を振りながらメデューサは店をあとにした。

すぐに街の腕利きの絵描きを自分の宮殿に集めた。


「あそこ石膏ぬりたてだから気をつけて。

 えーー、みなさんには私の顔を描いてもらいます」


「しかし我々はなんの石化耐性のない

 ただの一般人ですよ。顔を見たら石化してしまいます」


「ええそうね。だからこれを用意しました」


メデューサが被ったのは見たことのないマスク。

顔面の4分の3がかくれて、4分の1部分だけが露出している。


「このマスクは見てもまだギリ石化しないエリアだけ

 露出することができるマスクなの」


「はあ。もしかして、4分の1ずつ描いていけってことですか?」


「そうよ! 察しがいいじゃない!」


「めちゃめちゃ時間かかりそう……」


「だまらっしゃい! 石にするわよ!」


こうしてメデューサの似顔絵づくりが始まった。

4分の1だけ顔を描いたら次の部位。

また4分の1だけ描いたら次の部位。


それを4回繰り返してついに絵は完成する。


「できましたよメデューサ様」


「見せて見せて!」


メデューサが画用紙を受け取ったとき。

その顔はみるみると赤く高調していった。


「こんなの、こんなの私じゃなーーーーい!!!!」


「ええええ!?」


「なによこのブス! 信じられない!

 これでも私は神話のヒロインよ!?」


「ヒロインなのかどうかは諸説ありますが……」


「こんなブスなわけないじゃない!」


「いやしかし……」


「4分の1ずつ描いたから、バランスが崩れたのよね?

 いいアイデアだと思ったけどこれじゃダメだわ。

 やっぱりいっぺんに顔を見たうえで描いてもらわないと。

 ほら、警察とかの人相書きも実際の顔とは異なるじゃない?」


「言い訳が止まらないな」


「とにかく書き直しよ! この書き方はダメだったわ!」


「でもどうするのですか?

 顔の全体像を見て描けとおっしゃいますが、

 そんなことすれば私は石化してしまいます」


「そうよねぇ……」


すると、壁の石膏を塗っていた職人がふと口を挟んだ。


「ちょっといいですかい」


「なにかしら?」


「そういえば街に石化を解く魔法薬が売っていると聞いてまっせ」


「それが?」


「つまり、一度目に焼き付けてもらって

 石化を解いてから描いてもらえれば

 ご尊顔の全体を見てから描けるんじゃないかと」


「あなた冴えてるわ! そうしましょう!」


「メデューサ様、そこ石膏塗りたてなんで足いれないで」


「あら失礼。それじゃメデュー♪」


「気に入ってるんですかそのフレーズ」


メデューサは意気揚々と街に繰り出し、

石化解除の薬を段ボールいっぱいに買って返ってきた。


「さあ、これでいくらでも石化し放題よ」


「石化したくないですけども」


「いい? あなたは私の顔の全体をしかと見てね。

 石化したら私が薬をかけるわ。

 それなら絵を描き進められるわね」


「は、はあ」


「じゃあいくわよ……。オープン!!」


メデューサの顔がなんの隠しなく開かれた。

絵描きはその顔をしっかり網膜に焼き付ける。


体が石化するとメデューサはわんこそばのごとく

石化解除の薬を頭からあびせた。


「さあ描いて描いて! 忘れないうちに!!」


「うおおお!!」


キャンバスに向かう絵描きは

自分の脳裏に残ったイメージ像を形に落とし込んでいく。


出来上がったメデューサの像は

プリクラ加工にひけを取らないほどの美人の顔だった。


コレを見てメデューサは大喜び。


「ほら!! ほらやっぱりね!! やっぱり私は美人だったのよ!!」


「気に入っていただけて」


「私の顔をパーツごとに書くのはナンセンスだったのね。

 やっぱり似顔絵は顔をいっぺんに見て描かなくちゃ!」


「はあ」


「この似顔絵をコピーしてアイドル事務所に送っておいて。

 稀代の美少女がここにいることを思い知らせてやるわ!」


すっかり上機嫌のメデューサ。

るんるんのスキップで自分の宮殿へ帰ろうとしたとき。


「あ! メデューサ様! 足元!!」


「ふえ?」


有頂天だったメデューサは段差につまづき、

塗りたての石膏の床に顔からダイブした。


「大丈夫ですか?」


「ええまあ。もうこんなところに石膏なんて……」


「補修してたんですよ。

 ……あのメデューサ様? どうして動かないんです?」


メデューサは見てしまった。


石膏ダイブを決めたとき、自分の顔のカタが取れていた。

その顔のカタは似顔絵とまるで別人。


ありありと石膏にかたどられた顔は、

ブサイクの象徴としてどこにだしても恥ずかしい顔だった。


わなわなと震えるメデューサの後ろ姿に、

絵描きはうかがうように声をかけた。


「め、メデューサ様……?」


「改めて聞くわ。私は、美人、よね?」


絵描きはメデューサの問いかけに冷や汗が流れた。

フル回転する頭で絵描きは答えた。



「大丈夫! 好みは人によってちがいますから!」



絵描きはその言葉を最後に、ついぞ石化から戻されることはなかった。

乙女の純真を踏みにじるのはそれだけ罪深いという……。

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