[番外篇]線状降水帯について私が知っていること(1)

 九月二一日の能登半島の豪雨については、「[番外篇]連休三日空晴れ渡らない」

https://kakuyomu.jp/works/16818093083814971855/episodes/16818093085269269745

で少し触れました。

 私が大雨のニュースに気づき、これを書いた時刻にはすでに被害が発生していたようです。

 被災された方がた、関係者の方がたに、心からお見舞いを申し上げます。

 一月の地震で、寒いなか、たいへんな思いをされ、ようやく復興に道がつき始めたところで再びこの災害で、どんな「お見舞い」のことばも追いつかない、という思いです。


 ところで、この豪雨災害は「線状降水帯」によってもたらされました。

 そこで報道に出て来たのが「どうして線状降水帯の発生を(もっと早く)予測できなかったのか」という論調です。なかには、気象庁が出した線状降水帯の予報と、実際に線状降水帯が発生した状況を対比させて、いかにハズレ率が高いかを強調した報道もありました。とくに線状降水帯の発生を予報できなかった率が高いことが強調されていました。

 どういう意図でそういう報道をしたのか私にはよくわかりませんが、あの状況でそういう報道をすると、どうしても「予報ができなかったやつが悪い」、「無能だ」、「そいつらのせいでこんな災害が起こってしまった」という論調に聞こえてしまいます。


 むちゃ言うな、というのが私の感想です。

 「むちゃ言うな」などと言われると、「だってこんなに被害が出てるんだぞ! 何とかならなかったのか?」と言い返したくなる、というのは自然な人情だと思います。

 それでも、むちゃはむちゃです。

 線状降水帯の発生を予報するのはそれだけ難しいのです。


 線状降水帯の予報はまだ発展途上です。

 なぜかというと、このあとで説明するように、線状降水帯についてはまだわかっていないことも多いから。また、予測に必要なデータが現状ではじゅうぶんに集められないから。

 しかし、発展途上でも、気象庁も民間気象会社も積極的に予報を出しています。

 なぜかというと、発生してしまうと大きな被害が出るかも知れないから。

 その被害を少しでも抑えようと、発展途上の技術でできる限りの予報を出す。

 それに対して「予報に失敗した」、「ハズレた」を強調する。

 「報道ってそれでいいのか?」と、やっぱり私は考えてしまいます。


 気象庁は「コロナ禍」がまだ猛威をふるっていた二〇二一年二月に「線状降水帯予測精度向上ワーキンググループ」を立ち上げ、以後、年二回のペースで会合を開いています(会合での配付資料も公開されていますよ)。日本気象協会やウェザーニュース社もそれぞれ独自の技術で線状降水帯の予測精度を高める方法を開発しています。

 その情報は公開されていて、検索すれば出て来ます。

 それだけ情報が公開されているのだから、線状降水帯の予測・予報がいまどういう段階に来ているかをちゃんと押さえてから報道してほしいな、と思うんだけど。


 気象庁のワーキンググループの資料には「線状降水帯の予測精度向上に向けたロードマップ」も掲載されています。

 これによると、気象庁は、観測機器の充実と、スーパーコンピューターも利用した「数値解析予報システム」の開発を通じて、できるだけ早く、できるだけ「どこで発生するか」を特定して情報を出せるようにしている途上ということです。

 観測機器の配置を進めることで、大気の動きを予報するための「メッシュ」の網目(ます目)を細かくすることができ、これまでよりも精度を上げた予測ができるようになっているのが現状です(これもあとで紹介します)。

 その成果によって、府県単位で予報が出せるようになったのが今年二〇二四年の五月からです。げんに、台風一〇号接近時には、台風の外側の雲がどこに線状降水帯を発生させるかの予報が県単位で出されていました。

 この先、二〇二六年には二~三時間前に線状降水帯の発生を(「発生する可能性がある」以上の精度で)予測できるようにする。二〇二九年には、半日前に市町村単位で線状降水帯の発生を予測できるようにするという目標です。

 つまり、現在の予測精度では「ある県内のある地方で線状降水帯が発生する」という精度ではもともと予報ができないのです。

 予報がなんとかできるのは、「ある県内で」までで、しかもその精度での予報はこの五月に始まったばかりなのです。

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