[番外篇]線状降水帯について私が知っていること(2)
九月二一日の豪雨のときには、私も含め、「台風一四号が弱まらないまま温帯低気圧に変わって前線に沿って東へと進んでくる」ということを「本命」と考えてしまいました。
湿気をいっぱい持ち、気圧も低い強力な低気圧が来る。
それを警戒するあまり、それが来る前に大災害を起こすような豪雨が発生する可能性をじゅうぶんに考えなかったことに「油断」が生じた原因があるのでは、と思っています。
前にも書きましたが、今回、能登半島にはたしかに前線上の低気圧が接近していました。しかし、その低気圧は中心気圧が一〇〇四ヘクトパスカルというものでした。さほど強い低気圧ではない。いわば平凡な低気圧だったのです。
これから台風から変化する強力な低気圧が来るというときに、その平凡な低気圧のほうへの警戒が薄れる。
もちろん薄れさせてはいけないのですが、薄れてしまった事情はあったと、自戒もこめて思います。
もうひとつ、台風一〇号で東海地方に豪雨をもたらした「太平洋高気圧のまわりを回る湿った空気」というものも、この時期もだいたい同じような場所を流れ続けていました。
そのことへの警戒も足りなかったですね。
しかも、そのときにはまだ温帯低気圧に変わっていない台風一四号がありました。その外側の風も湿っていて、しかも、東海地方の南海上では南から北へと吹いています。
太平洋高気圧のまわりを回る風の湿った空気が、台風一四号の外側の風に増強されて、愛知県と滋賀県の平地の上を通り、能登半島付近(ちょっと西側)へと北上して行きました。
そして、能登半島の北の日本海には前線がありました。
前線の向こうは空気の種類が違うので、南から吹いて来た空気は前線を乗り越えることが容易ではありません(というか乗り越えられないから前線になっているのです)。
湿った空気の流れが前線に当たれば前線の活動を活発化させることになるのですが、今回の線状降水帯は前線より南側で発生しています。
湿った空気が、前線に到達する前の南側で足止めされて、そこでその湿気が大雨になってしまった。
科学技術振興機構の「サイエンスポータル」に掲載されている内城喜貴さんの論説によると、輪島沖の海水温が例年にくらべて四度も高く、それが影響したのではないかという見解もあるそうです。
気温が四度高いのとくらべて、水温が四度高いのはけっこう効きます。
適温のサウナで空気の温度が四度上がってもそれほど変化は感じないと思いますけど、適温のお風呂で水温が四度上がったらたぶん熱くて入っていられなくなる。
液体(水)は気体(空気)よりも密度がずっと高いので、それだけまわりに与える影響も大きいのです。
その「例年より四度高い」海から立ち上った水蒸気は、その上空に暖かく湿った空気を形成します。前線南側の風は西から東へと吹いていますし、中心気圧一〇〇四ヘクトパスカルの「平凡な低気圧」のまわりを吹く風も、低気圧の南側では西風です。
その西風に乗って、その暖かく湿った空気は能登半島上空へと西から進入して来ていたはずです。
南からやって来た湿った空気と、西から進入して来た湿った空気がぶつかる。
空気がぶつかると上昇気流が起こって雲が発達する。とくに、両方とも湿った空気だと、雲が大量に急速に発達します。しかも、ぶつかる場所が同じならば、同じ場所で雨雲が大量に急速に発達し続けることになる。
しかも、今回は、南から来た空気も、西から来た空気も、いっぱいに湿り気を含んでいました。
そうやって生まれたのが、今回、大災害をもたらした線状降水帯というものなのでしょう。
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