第70話 君の一番の存在になりたい【♡♡♡有】
その日、多次路のことがあった杏樹さんは、腕を掴まれて暴行された証拠を残すために病院に診断書を貰って、早退することにした。
今回は多次路に非があったが、今後も似たようなことが起きないとは限らない。その時に家族がいない杏樹さんを守ってあげられる存在はいなくて、一人で戦わなくてはならないのだ。
所詮、婚約者というのは口約束だけで、何の効力も発揮しない。
「……絋さん、今日は来てくれてありがとうございました」
そっと腕にしがみ付いて、猫のように頬擦りして甘えてきた。そんな彼女の頭を優しく撫でて、そっと包むように抱き締めた。
「杏樹さんに何もなくて、本当に良かった。ごめん、もっと俺がしっかりしていれば、恐い思いもしなくて済んだかもしれないのに」
「ううん、そんなことないです……。私、絋さんと出逢えて、本当に良かったです。これからもずっと、ずっと傍にいたいです」
杏樹さんはそう言ってくれるけれど、このままじゃダメだ。詰めが甘かったことを痛感する。
彼女の綺麗な頬に手を添え、そのまま唇を重ねて、本音を打ち明けた。本当はこんなタイミングで言うつもりじゃなかったのに。もっと準備を重ねて、万全の状態で告白するつもりだったのに。
「杏樹さん、結婚しよう。俺と家族になろう。君が不安でどうしようもない時に、支えさせてもらいたい。誰よりも君の近い存在になりたいんだ」
突然の言葉に、彼女は目を丸くして言葉を失っていた。
「……え、絋さん? 嘘じゃないですよね? だって、絋さんは——……」
「本当はもっと先のことだと思っていたんだけど、ゴメン。俺の方が待てなかった。恐いんだ、杏樹さんが一人で耐えないといけない状況が。今日みたいなことがあった時、所詮俺は他人でしかない。本当の意味で君を守れる存在になりたいって思い知らされた」
頼れる存在が俺しかいない状況で、こんな求愛をしても選択の余地がないから、今伝えるつもりはなかったんだ。もっと彼女の世界が広がってから選ばせようと思っていたけれど——いいんだ。
俺が誰よりも彼女のことを幸せにすれば良いんだ。
「杏樹さんが俺を選んでくれるのなら、俺は全力で君を幸せにすると約束する。だから、俺と」
「そんなの、答えは決まっているじゃないですか。私には絋さんしかあり得ません。今もこれからも、ずっとずっと」
彼女の瞳から零れ落ちた涙を指ですくい、そのまま俺達は深く交わった。
痛みと快感に小さく身体を震わせる彼女を抱き締めながら、彼女の未来も全部、抱えようと心に決めた。
———……★
「え、んじゃー崇と千華ちゃんに続いて、絋と杏樹ちゃんも結婚するん?」
「そういうことになるな。俺達は杏樹さんが卒業してからになるけど」
「ガッテム! マジかよー、お前ら早過ぎ! 幸せ過ぎ‼︎ 俺のことを置いていくなよォー!」
後日、共通の友人である慎司に報告をしたのだが、想像通りの反応をされて笑ってしまった。
「えー、式はどうするん? 千華ちゃんは妊娠してるんだっけ?」
「俺達は式はしない予定で、絋さんと杏樹ちゃんは来年でしたっけ?」
「うん、俺達は盛大に上げる予定。だって俺のような男と付き合って結婚してくれたんだぜ? もうこれでもかって言うくらい幸せな花嫁にしてあげたい!」
「贅沢したからって幸せだとは限らないけどな? どんな豪華に結婚した夫婦でも、離婚した奴らもいるんだからな⁉︎」
——おい、慎司! テメェ、水を差すな!
親友なら素直に祝ってやれよ、コンチクショー!
「あー、でも羨ましいな。二人とも幸せいっぱいで。俺も結婚してェー。なぁ、お前ら誰か紹介してくれねぇ? どっかに性格のいい美少女はおらんかね?」
「いたとしても、慎司には紹介したくねぇな。お前の変人っぷりについていける女子は少ないと思うぞ?」
「クソクソクソ、リア充め、爆発しろ!」
こうして俺達は、無事に平和な年越しを過ごせそうだった。そして後日——……。俺達は付き合って初めてのクリスマスを迎えることとなる。
———……★
「エンディングはクリスマス。きっと聖なる夜を迎えた時には、幸薄ダウナーではなく幸せいっぱいの彼女が見れるでしょう」
※ クリスマス編はまとめて更新します。
甘々で幸せいっぱいなクリスマスにする予定なので、フォローを入れてお待ちください!
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幸薄ダウナー美少女を助けたら懐かれて、社畜から抱き枕にアップグレードされたようです(ただし、現在はただのエロ可愛美少女と化してる模様です) 中村 青 @nakamu-1224
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