竜の夢

 険しい岩山にとても大きな竜がいました。


「あなたの夢はなに?」


「不毛に互いの命を奪い合う竜どもを統率することじゃ。秩序を作らねばならん。」


「そう。」


***


 ある日、自身のこどもが磔にされている様子を見下ろす竜の長に出会いました。


「なぜこんなところで見下ろしているの?」


「長として、掟を破ったものの最後を見届けるためじゃよ。」


「不毛に互いの命を奪い合うことを止めさせるのが夢じゃなかったの?」


「奴は奴の友を、掟を破った大罪人を匿った。そのことに関する善悪の議論はあろう。だが、掟の前には善悪は意味を為さない。なぜなら、掟とは集団が円滑に生活を送るために作られたものであり、善悪を裁くためのものではないからだ。故に、ワシは愚かな我が子を裁かなければならない。なによりも未来の秩序の為に。」


「……あなたはそれでいいの?」


「……掟の意味を理解せず、己の身を挺して我が子を守れる下等な存在でありたかった。どうか、次の生を授かるときは、こんな痛みを伴わない社会であることを願うばかりじゃ。断じて、こんな社会を完成形などと崇拝し続けてくれるなよ、次の世代を担う命よ。」


「……そう。」

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