リンゴを売る少年の夢

 出店が立ち並ぶ通りで、1人の少年がリンゴを売っていました。


「あなたの夢はなに?」


「俺の夢は世界一の商人だ!そんで大金持ちになる!」


「そう。」


***


 ある日、人々にお金を配って回る商人に出会いました。


「なぜお金を配っているの?」


「自分を満たすためだ。」


「大金持ちになるのが夢じゃなかったの?」


「……昔は、金がこの世で一番大事なもので、それさえあればあとは全部どうにかなると思ってた。けれど、現実は違った。金だけで満たされるほど俺は謙虚じゃなかった。今ならわかる。この世で一番大事なものは、自分の意志だ。それを満たすために人は金を消費するのだから。このばら撒きも、俺の意志だ。人民が、金に使われるのではなく、金を使えるようにするための投資だ。」


「あなたはそれでいいの?」


「偽善であることなど十分に理解している。俺だって、可能なら完全な善として自分の意志を満たしたかった。けれど、自分の意志を満たすためには金が必要で、その金を稼いだ時点でどこかの誰かは不幸にしている。その事実を前にしたとき、自身の善性を疑い頭を抱える奴がいた。馬鹿らしい。善でないと分かったのならば、悪の美学を貫くのみだろう。他者を笑顔にするという悪の美学を。」


「そう。」

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