歌を歌う少年の夢

 のどかな牧草地の片隅で1人の男の子が歌を口ずさんでいました。


「あなたの夢はなに?」


「僕は吟遊詩人になりたいんだ。一生歌を歌いながら生活していきたい。」


「そう。」


***


 ある日、法律家として仕事をしている男性に会いました。


「なぜ法律家として仕事をしているの?」


「おかしな世界から人を守るためだよ。」


「吟遊詩人になるのが夢じゃなかったの?」


「仕事は、したいことをする手段じゃない。不便や世界を変えるための手段だ。だから、最終的にはその仕事をする必要がなくなるのが理想だと思うんだ。でも、したいことを仕事にすると、愛情でそれができなくなる。僕はね、ありのままの詩曲を一生愛していたい。そこに仕事としての大義は持たせたくなかった。ましてや、消えてなくなるなんて辛すぎる。だから、仕事に僕のアイデンティティを捧げるのをやめたんだ。何も理由なく、ただしたいから僕は歌うんだ。だから、吟遊詩人になれていなくても構わない。」


「……あなたはそれでいいの?」


「……叶うのなら、一生詩を歌って過ごすという大きな夢を叶えたかった。でも、その代わりに、もう少しで小さな夢が叶いそうなんだ。誰もが音楽を楽しめる世界を作るという小さな夢が。だから、案外悪い気分じゃないよ。」


「そう。」

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