夢で逢えたら

梅里遊櫃

夢で逢えたら

僕の心に留まるあの子に出会うために今日も夢を見る。

正しく、いつもの日常を思い出すようになぞることができるか、同じように彼女の輪郭を思いだす。

思い出せるはずだ。

思い出すべきなのだ。

僕の心にはいつまでも留まっている彼女は僕の全てなのだから。

あの日から止まった音。動かない時計と、彼女の静かな姿。

こびりついた彼女の香りを追うように僕は目を閉じた。


-回想


あの日は太陽の綺麗な夏の日で、アスファルトが灼けていた。

「暑いね」

と言うと彼女が笑っていた。

雲ひとつない空を見上げると眩しすぎて、これから自分が行うことが何だか悪事のような気がしてしまう。

何一つ間違っていない、これからの彼女と僕の正しい時間だ。

彼女に近くにあるひまわりの花畑に連れていき、背の低い彼女が僕から隠れようとする姿が愛おしい。

彼女は僕の手を引っ張って、僕を呼ぶ。

ずっとこのまま僕の手を引いて欲しい。ずっとこのままいて欲しいと願っている。

「ねえ」

僕の声は震えていないだろうか。

「僕の家に来ない?」

これからする、僕の正しいことがバレやしないだろうか。

願うような、叫びのような。

君を愛している。ただそれだけなのだ


-回想終了


僕の心に留まる彼女はどこに行ってしまったのだろうか。

見たかった姿も、手に入れたかったと言う望みも叶った。

でも、どこに行ってしまったのだろうか。

夢でせめて逢えたら。

僕はずっと君を待っていると言うのに、置いて行ってしまうなんてひどいじゃないか。

恨めしくなんてない。君を待つのも僕の役目だ。

きっと夢の中では出会えるだろう。また、僕の手を引いてくれるのだろう。

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夢で逢えたら 梅里遊櫃 @minlinkanli

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