テコンドー

「この普洱茶プーアルちゃをかけて勝負だ! 今日こそけりをつけよう」


 跆拳道テコンドーを習い始めて一週間。俺は窮地に立たされている。

 目の前にいる歴十年の同い年に目をつけられてしまったのだ。この同い年は国から紫綬褒章しじゅほうしょうを授与された人物だと言うのに。年齢相応と言えばそうなのだけれど。

 けれどこちらは不利も不利。しかも泥縄式になる。このすごいやつの相手は極力したくなかった。


「悪いけど断らせてもらってもいい?」

「なら拌三絲ばんさんすーはどうだ!」

「なにそれ?」

「春雨やらきゅうりやらを炒め混ぜたあえ物だ」


 ぼんやりと思い浮かべられる、質素な一品。


「なんでそのチョイス?」

「美味いだろ!」

「美味しいけど……」


 なんだかずれているのも関わりたくない理由の一つだ。

 そもそもテコンドーを習っているとはいえここは日本だ。通りの中華料理屋で奢る奢らないの戦いと言うことだろうか。

 俺は取り合わずに彼に背を向ける。


「悪いけど帰るね」

「あっ。なんだと! 逃げるのか!」


 俺は逃げるように帰った。追いかけてこなかったのは幸いだった。




 あくるひ、そいつは校門で待ち伏せしていた。

 俺の頬辺ほおべたがひきつるのを感じる。


「知らなかったぞ! お前、和食好きだったんだな」


 俺は鮮やかに通り過ぎると、そいつは後ろをついてきた。価千金のこいつが俺に絡む理由がわからない。


「和食ならほうとうをもてなすぞ!」


 もう、かけた勝負ではなくなっている。

 もしや。

 俺はにやけ面で振り返った。


「もしかして友達がいなくて寂しいとか?」


 そいつは気色ばんだ面を晒して拳を握り締める。怒るかと思ったのに、そいつは肩を落とすとそっぽを向いて、「そうだ」と一言呟いた。

 俺は呆気にとられていた。まさか馬鹿真面目に頷くとは。

 俺はそのあと、そいつの家であつあつのほうとうをいただいた。



使った漢字一覧

・普洱茶(プーアルちゃ)

・鳧をつける(けりをつける)

・跆拳道(テコンドー)

・紫綬褒章(しじゅほうしょう)

・泥縄式(どろなわしき)

・拌三絲(バンサンスー)

・韲え物(あえもの)

・翌くる日(あくるひ)

・頬辺(ほおべた/ほっぺた)

・価千金(あたいせんきん)

・餺飥(ほうとう)

・饗す(もてなす)

・気色ばむ(けしきばむ)

・外方(そっぽ)

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漢字でGO!のわからなかった漢字で文章書く 正徳タコ @seit0kutak0

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