第7話 彼女はお風呂でも連絡を待ち続けている

読み方


効果音:〇〇の音

〇〇のような音が流れているものと扱ってください。


「」の中身はすべてヒロインのセリフです。


『』の中身はすべてヒロインが回想しているヒロインのセリフです。


あなたは【普段キツいことばっかり言ってくるクラスメイト女子の飼い犬】です。

トイプードルの肉体でお読みください。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 お散歩から二日後。

 あなたはまたしても犬になっていた。


 場所は気付けばお風呂で、あなたは彼女に抱きしめられるように風呂につかっていた。

 彼女は密閉できる袋に入れたスマホを片手に、にらみつけている。


「……ねぇ、そろそろ、次のお散歩に誘っても大丈夫かな」


「まだ早いかな。こんなに頻繁に会おうって誘ったら変態に思われるかな」


「それとも向こうから連絡来るのを待ったほうがいいかな」


「でもね、また行こうねって言って、うん、って返ってきたんだよ」


「これもう実質約束はできてるよね。あとは日程を詰めるだけだよね」


「でも、音沙汰ないの」


「こうやって、お風呂にまでスマホを持ち込んで、いつ連絡が来てもいいようにしてるのに!」


「お風呂にスマホ持っていくのやめなさいってママに怒られながら持ち込んでるのに!」


「それなのに! なんのメッセージも来ないの!」


「学校でもそのことに全然触れないし」


「もしかして、社交辞令?」


「私、またやらかした?」


「……ううん。今回は、大丈夫だった。わんちゃんを挟んだら普段より自然に会話ができたはず、だし……」


「……はず、だよね」


「ええと……」


 彼女がお散歩の様子を回想する。


『大きい子ね。名前は?』


『へぇ。誰がつけたの? お父さん? そうなの……』


『………………(何か言いたげな吐息)』


『………………(ぅ、ぁ、などの呻き)』


『散歩、楽しいよね!』


『わ、私が!? 私じゃなくて、犬が! この子たちが楽しそうっていうことをね、言いたかったの!』


『え!? わ、わ、わ、私!? 私は……まあ、その……き、嫌いじゃない、けど!?』


『また行ってあげてもいいぐらいよ!』


『あ、ち、違う! うちの子! うちの子がね! 行きたそうだから、仕方なく……』


『え!? 今、言った!? また行きたいって言った!? 言ったよね!? 聞いたんだけど!』


『し、仕方ないわねぇ~! また付き合ってあげる!』


『本当に感謝してよね! 私が一緒にうちの子の散歩をしてあげる人なんか、他に誰もいないんだから!』


『あのねあのね! ちょっと遠いところのドッグランがいい感じでいつか連れて行ってあげたいって思ってたんだけど、一人で電車に乗ってドッグランに行くの、知らない人が多そうじゃない!? それにほら、大きなドッグランっていつものグループみたいな人たちで集まってそうだし、そういう中で知らない人に交じっていくの勇気がいるし! ほら、この子がね! ドッグランに行ったのに友達ができないのはかわいそうでしょ!? でも人数がいないと寂し……じゃなくて舐められそうだし! だから誰か一緒に行ってくれる人がいたらいいなって思ってて、あなたのところの子だったら体も大きいし落ち着いてるし、いい感じじゃない! え? 大きすぎて電車に乗れない!? そこは何か大きなケージでどうにか──」


 言葉の途中でだんだん音量が下がっていく。


 彼女は現実に立ち返る。


「…………マシンガントークぅぅぅぅぅぅ!!!」


「会話デッキが犬のことしかないから、チャンスを見つけて全部出ちゃった……」


「これじゃあ、私がいっぱいしゃべってたことしか記憶に残らないよね……」


「どうして私はいつもこうなんだろ……うまくいかない……うまくできない……」


「本当はもっとクールな感じでお話ししたいのに、これじゃあ、愛犬のことになると急にテンションが上がる犬好きな人だよ……」


「犬は好きだけど……」


「……引かれたんだ」


「きっとそうだ。二日も経ってるのに全然連絡がないっていうのは、そういうことなんだ……」


「……終わっちゃったかな、今度こそ」


「…………(むぐむぐと閉じた口を動かす声)」


「違う」


「そうじゃない。もう、終わっちゃったとか、だめだったとか、よくないところばっかり見つけて、逃げる言い訳を探すのは、やめにするんだ」


「私は、もう、チャンスをあぶくにしない」


「だから……」


「私から、連絡を、します」


「でも」


「……その前にお散歩行って、覚悟を決める時間をとります」


「お風呂入っちゃったけどいいもんね。今日二回目だけどいいもんね。お散歩好きだもんね」


効果音:力強い小型犬の鳴き声。


 あなたの意識が犬の体から遠ざかっていく。

 そして……


効果音:スマホにメッセージが届く音。


「…………え!?」


「あっ!?」


 ぶくぶくぶく。

 スマホが水面に泡を上げながら、お風呂の底に沈んでいった。

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気付けば犬になっていた ツンツン彼女が犬だけに聞かせるよわよわ本音 稲荷竜 @Ryu_Inari

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