魔王の座を賭けて最終決戦の直前に人間界に召喚された大悪魔!呼び出した人間の願いは恋の成就!?

naturalsoft

恋の願いを叶えましょう

連載を検討している短編です。

読者様の反応をみて決める予定です。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



ここは魔界。欲望と野心旺盛な悪魔達は現在、魔界を実効支配している魔王に戦争を仕掛けていた。


大悪魔クリムゾン。


大昔から強大な魔力を持ち、いつも中立の立場を貫いていた。


しかし、長い年月を掛けて自分の領地の内政を整え、少しづつ武力の勢力を集め、自分が魔界の王になる事を狙っていた。


そして、少し前に魔王に宣戦布告をして全面戦争を起こしたのだ。

各地の有力な悪魔を秘密裏に抱き抱えていた事で、魔王軍との戦争はクリムゾンが優勢で進んだ。


無論、魔王軍も激しい抵抗を続けており、少しづつではあるが戦線を押し上げていた。


そして、魔王の側近である四天王を各個撃破していった。


「しかしクリムゾン様、魔王は愚かでございますな。虎の子の四天王をまとめ出さずに個別に出すとは」


クリムゾンの側近の仲魔である悪魔が話しかけてきた。


「そういうな。アモンよ。四天王とは魔王が完全に倒す事が出来なかった大悪魔を傘下に加えただけで、奴らはいつも魔王の首を狙っていた。魔王は四天王達が手を組まないように、気を使っていただろうよ」


「なるほど。四天王達が手を組めば、魔王でも危ないので、協力させないようにしていたのですな」


なるほどと頷くアモンと言う悪魔にクリムゾンは言った。


「貴様もオレが使えぬと思えば反旗を翻しても良いのだぞ?」


不敵に笑うクリムゾンにアモンは手を振った。


「やれやれ、そう煽らないで下さい。もし謀叛を起こすならクリムゾン様が魔王になった後でしょうな?」

「クククッ、言うではないか。ならば次の戦でも死なぬことだ」


「ハッ!お供致します!」


こうしてクリムゾンは配下の信用を勝ち取り、最終決戦に挑むのだった。

次の日、目の前に魔王城が見える場所まで軍を進めた。


「ようやくオレが新たな魔王になる時がきた!」


味方の悪魔の士気も高い。

全てがクリムゾンに味方していた。


「魔王とオレの力はほぼ互角。しかも、四天王を倒してオレの魔力はさらに上がっている。油断さえしなければオレが競り勝つ!」


最後に後ろにいる仲魔達を見渡して号令を掛ける!


「よし、攻め込む───」


配下の者にそう言いかけようとした時、悪魔召喚の魔法陣が足下に現れた。


「ば、バカな!?これは悪魔召喚!?この大悪魔であるオレを召喚だとーーーーー!!!!!」


クリムゾンは驚愕した。

魔王と同格の力を持つオレを召喚できる者などいるわけがないのだ。


古(いにしえ)の盟約から、悪魔召喚に設定された者は召喚者の元へ転移する。呼び出す魔力が弱ければ跳ね返す事もできるが、逆に強い魔力の者だと抗う事ができず強制的に召喚されるのだ。


「クソッ!?何と言う強い魔力なんだ!あがなえぬ!?」


足元の魔法陣の光が強くなり転移召喚が始まった。


「クリムゾン様!?」

「すぐに戻ってくる!オレがいない間、それまで待機しながら応戦して守りを固めておけ!!!」





眩い光が収まると、目の前にはいかにも魔法使いという黒いローブに黒い三角帽子姿の少女がいた。


「こ、ここは………?」


クリムゾンは目の前の召喚者をみてから、周囲を見渡した。黒魔術を行なったとは思えぬほど、清潔な一室であった。


「チッ、なんかザコを引いたようね。無能っぽいわ」


クリムゾンをみて舌打ちする召喚者にクリムゾンはカチンッときた。

これから魔王との最終決戦の前に呼び出され、イライラが頂点に達していたからだ。


「巫山戯るなよっ!オレはこれから魔王を倒して魔界の新たな王になる目前だったんだぞ!舐めた口を聞くなら貴様からぶっ殺してやるぞ!」


ダンッと光の壁を叩く。

召喚魔法陣の円の外周には結界が張られており、召喚者と契約をしないとそこからでられないのだ。召喚者が気に入らなければ、そのまま魔界に戻る事もできる。


「なんですか?ザコの癖に妄想癖もあるのかしら?これはいよいよハズレかしら?」


召喚者は帽子を取ると顔だけではわから無かった姿が見えた。腰まである長い黒髪に、黒い瞳の少女だった。

しかし、大悪魔クリムゾンには別の姿が見えた。

悪魔は願いを叶える為に人間の魂を求める。


叶えた人物のその魂を喰うことで力を得るのだ。

欲望に塗れた真っ黒な魂でも良いが、目の前の少女の魂はとても純粋な輝きを放つ最上級の魂だった。


もし、この少女の魂を喰えば、自分の力が何倍にも増加するくらいの高密度の魂であった。


クリムゾンは少し頭の中で考えた。

このまま契約せず戻ろうとしていたが、逆にこの召喚者の願いを叶えて、力を得てから戻った方が勝利は確実である。


そう考えている時───


「ねぇ?呼び出した私、主人を前に考え事なんて良い身分ね?」


少女が手を前に出すと、クリムゾンは強烈な痛みに襲われた。


「グワアァァァァァァァァ!!!!!!」


こ、これはなんだ!?

全身を駆け巡る痛みは、電撃を受けたような痛みだった。


「ハァハァ………きさま!何をした!?」


また少女が手を前に出すと同じ痛みが発生した。

何度か同じ事を繰り返してから少女は口を開いた。

召喚した時、悪魔が召喚者に危害を加える事ができない様に安全策を講じていたようだ。


「誰が主人かわかったかしら?本当なら貴方みたいなハズレのザコ悪魔など願い下げなのだけれど、貴方を召喚する為に、【貴重な触媒】を消費したのよ。非常に遺憾で、悲しいけど貴方と契約して、私の願いを叶えて貰うわ」


「ハァハァ、ハァハァ………クソッが!」


何度も受けた強烈な痛みにクリムゾンは息も絶え絶えだった。


「まずは自己紹介よね。私は皇(すめらぎ) 紫音(シオン)よ」

「チッ、オレはクリムゾンだ」


渋々と返事をした。


「さて、ここは日本と言う国なのだけれど、クリムは来たことがあるかしら?」


「勝手に略すな。日本と言う国には来た事があるな。前にやってきたのは約400年前ほどか?」


流石にクリムゾンほどの大悪魔になるとそう簡単に召喚できない。

さらに、近年では科学が発展して魔術自体が少なくなって廃れていっている。

前回は、見聞を広める為に、無理矢理、次元の壁を破ってやってきた。

それには膨大な魔力が必要になり、召喚された者と違い、そう簡単にはこれないのだ。

しかも力が制限されるデメリットもある。


400年前は自分の力をかなり使って人間界に来たが、時は戦国時代。多くの武士が覇権を掛けて戦い戦が絶えなかった。

その何人かの人間と契約して戦を勝利に導いた。


おかげで、消費した魔力より、多くの力を得て魔界に戻る事が出来たのだ。


「なるほど。それなら今の日本を見て驚くかも知れないわね。文明と科学が発達したから、もし魔界と人間界が戦争になったら人間側が圧勝できるくらいに兵器開発も進んでいるのよ」


!?


「それは興味深いな」


魔王との決戦の時に何か持って帰れないか?

そんな事を考えていたクリムゾンに紫音が言った。


「それで、私と契約するので良いかしら?まぁ、貴方に拒否権はないのだけれど」


「貴様の魂はなかなか美味そうだ。良いだろう。契約してやる。望みはなんだ?召喚された今のオレなら十全に力を発揮できる。他国を滅ぼす事も、一国の王にさせてやる事もできるぞ?」


紫音は首を振って答えた。


「今の人間界は平和よ。一部のやんちゃな国はあるけれど概ね平和。特に日本は世界的に見ても治安が良いわ。私の願いはもっと崇高なものよ」


ほぅ?

クリムゾンは少し興味が湧いた。


「ならば聞こう!貴様の願いを言うがいい!」


ボソッと急に小さな声で話した。


「なんだ?聞こえんぞ?」

「だ、だから………す…………こ、こい……と」


うん?

なんだって?


紫音は顔を赤くして叫ぶ様に言った。


「だから!好きな人と恋人になれるように協力しなさい!」


「は、はぁーーーーーーー!!!!?」


これだけの力のある人物が、更には大悪魔であるオレが、くだらない恋の成就の願いを叶えねばならんとはっ!?


「何を驚いているのよ!悪魔の力を使えば簡単なんでしょっ!」

「お前、何が崇高な願いだ!とんだ俗物的な願いではないか!」


「煩いわね!貴方は命令を聞けばいいのよ!」


しばらく、お互いにギャアギャアと言い争ったが、お互いに疲れて息切れを起こしたので落ち着く事になった。


「ハァハァ、それでできるの?できないの?」

「ハァハァ、やろうと思えばできるが、心象的にやりたくはないな!」


やれるなら決まりね!と紫音は手を叩いてお終いにした。


「それと人間界で暮らすのだから姿を変えることはできるかしら?」


クリムゾンは頭の両サイドに角があり、体格も常人の2倍は大きかった。極めつけは肌が青白いことだろう。顔はイケメンだったが。


クリムゾンはできると言って、ポンッと姿を変えた。


「やだ、良い男………」


変身したクリムゾンは、筋肉はあるが常人レベルのワイルド系イケメンになっていた。髪も黒く、肌も白い。目の色だけは蒼色だったが、外人とのハーフと言えば通用するだろう。


「ふん、こんな所か」

「それでは部屋に案内するわ。詳しい話は明日の朝、ゆっくりしましょう。学校も休みだしね」


こうしてクリムゾンは人間界で生活することになるのだった。


クリムゾンは用意された部屋に入るとベットに腰掛けると意識を集中させた。感覚が飛ぶような感じで、建物の構造の把握と人の数など調べた。


そして、監視されていると感じて、魔力の分身を飛ばして屋根にでた。魔力の分身体は常人には見えないのだ。故に監視カメラにも映らない。


!?


「まさか、約400年でここまで文明が栄えるとはな………」


見たことのない高層ビルや、真夜中なのにどこも明るい電灯やイルミネーションなど驚くことが満載だった。分身体を飛ばしてください近くを歩いていた酔っぱらいのサラリーマンに狙いを付けた。


「少し今の世の中の情報を見させてもらうぞ」


クリムゾンはサラリーマンの頭に手を差し込むと記憶を覗いた。魔法を使い、このサラリーマンの記憶の追体験をすることで今の時代の常識などを覚えたのだ。サラリーマンはそのまま気絶したが、命に別状はない。


「驚くことばかりだな。アメリカの開発した核爆弾か。放射能は悪魔にも影響があるな。超高熱の広範囲爆弾か………」


確かにクラスター爆弾や戦闘機に戦車、悪魔にも対抗できる兵器に違いなかった。


「それに昔から、銀の弾丸は悪魔に有効だからな。油断せず行動しなければならないだろう」


サラリーマンの記憶から昔より魔法の技術が廃れて使い手もいないと思われている。

だが、オレを召喚できるほどの人間がいたのだ。数は減ったとしても、悪魔狩りの集団もまだ存在している可能性がある。


クリムゾンは現代の常識を知り、最初の情報収集は十分だと感じて分身体は屋敷に戻った。


次の日───


「これがターゲットよ!」


部屋に呼び出されたクリムゾンは、明らかに隠し撮りされた写真を渡された。


「同じ学校のクラスメイトなの♪」

「名前は?」


コホンッとしてから何やら資料を渡された。


「名前は【土御門(つちみかど) 晴明(はるあき)】私と同じ16才よ。彼の実家は代々、この国の官僚……大臣などの地位に着いており、政財界や経済界の両方に顔の利くサラブレットね」


「なるほど。顔も悪くないし、こいつの権力と財力を狙ってライバルは多そうだな」


「そうなのよね………私はただの女友達にしか見られてないし………」


ズーーーーン!!!!と紫音は凹んだ。


「クラスメイトなら会話ぐらいはしているのだろう?」

「ええ、日常会話や一緒に勉強するくらいの仲ではあるのよ。でも下手に告白して周囲の女達と同じに見られるのが嫌なの!」


ふむ?

普通に会話などできて、勉強も一緒にできる仲か。

嫌われてないなら簡単そうだな。


「相手の事はわかった。それで次は貴様の事を教えろ」


紫音はバッと自分の胸を手で隠した。


「はぁっ!?何を聞きたいのよ!この変態!!!」

「勘違いするなっ!お前の家の事などだよ!平民と貴族が結ばれるにはハードルが高くなる。だからお前の家の事など教えろ」


ポンッと手を叩き紫音は納得した風に言った。


「なるほど。それならそうと最初に言いなさいよ。まったく」


お前こそナニを勘違いしているんだか。


「私の皇(すめらぎ)家は、遠縁にはなるけれど日本の皇室の血筋を引いている家系よ」


!?


「遠縁とはいえ、かなりの良い家系だな。家格は釣り合うということか」


「そうね。皇家は皇室の祭事を司る家系で、昔から風水などで吉兆を占っていたの。現代では表向きには廃れて、形式的に行っているだけだけどでは裏では、まだ呪術師として悪魔祓いなど行っているの。そして───」


紫音は少し溜めてから言った。


「私は当代きっての最強の魔力を持ち、神の愛し子として神託を受ける【聖女】として、裏の界隈じゃ有名人なのよ!エッヘン♪」


「………聖女がと言う神の愛し子が、悪魔召喚とは世も末だな」


このなんちゃって聖女(笑)が神の愛し子ねぇ~?

大悪魔ですら深いため息を着いた。


「そうそう、土御門家も悪魔祓いを生業にしている退魔師の家系よ」


「そういう話は最初にしろ!」


危なかった。

下手に近付くと攻撃されていた可能性がある。


本来であれば、魅了の魔法で無理矢理好意を持たせるやり方が、悪魔としては一般的だが、クリムゾンは野心を隠して、長年に渡り魔王の地位を虎視眈々と狙っていた【情報収集家】である。


まずはターゲットの情報を確認する為に動いた。


情報収集専用の、黒くて丸い1つ目の低級悪魔だ。

この使い魔の見た映像はクリムゾンにも共有される。音声もだ。これを百々目鬼(とどめき)と呼ばれている。1つ目だが、百体以上運用できるからだ。


『土御門 晴明』


かなり昔から存在するいわゆる旧家と呼ばれる一族だ。


本人も最近の若い世代と違い髪も染めていないので黒髪と黒目の日本人だ。周囲の評判も良好。

正直欠点がない人物だ。


唯一、気になる所は土御門と仲良くなりたい女子が多いため、女子の対応が少し塩対応な所だろうか。


しかし周囲は土御門の置かれた状況を理解しているので当然の対応だと思われている。


「胡散臭いな。こんな完璧な人間がいるわけがない」


悪魔的な直感があった。


あのサラリーマンの記憶を辿れば、安倍晴明の家系なのか?もしそうなら、日本屈指の退魔師の家系でもある訳だ。

これは気を引き締めないと痛い目に会うかも知れぬな。クリムゾンはさらに複数の人間の記憶を覗き見て、この時代の情報を補填するのだった。


1週間ほど調査をしていた時、それは起こった。


バチッ!

バチッ!バチッ!!!



!?


「百々目鬼が次々と破壊されている!?」


土御門家を監視させていた複数の百々目鬼が撃破されている。

クリムゾンは破壊された百々目鬼の最後の映像を見つけた。


「むっ、屋根の上に誰かいるな?………銃を構えているようだ」


この時代に聖女(笑)の他にも悪魔祓いできる人間がいるとは驚きだ。

クリムゾンは更に百々目鬼を放った。前回より多くの数を。相手の出方を見るために。


「ふむ?どうして攻撃してこない?」


いくつか目に付きやすい場所に飛ばして、他には建物の影から相手を確認しようと潜ませていた。


少し離れたビルの屋上から、なかなか攻撃してこない相手に疑問を持ったクリムゾンだったが───


!?


間一髪だった。

反射的に横に避けた頭の場所に、銀の弾丸が通り過ぎた。


「百々目鬼の魔力を追ってきたのか!?」


意識がリンクしている使い魔だけに、僅かな魔力的繋がりがあった。その微少な魔力をたどってクリムゾンにたどり着いたのだ。


「まさか貴様の様な上級悪魔が日本に現れているとは………答えろ!誰に召喚された?それとも、貴様ほどの悪魔であれば、自力で魔界から人間界にこれるのか?」


白いローブに身を包んだ退魔師だった。


「驚いたぞ!今の世に、【我が主】と同等の魔力を持つ人間がいるとはな」


クリムゾンは油断なく相手を見据えた。


「………主ね。相当な力を持つ黒魔術師がこの街にいるのか」


退魔師はそう言うと同時に引き金を引いた。

パンッ


クリムゾンは手で受け止めると手か白い煙が昇った。


「今の世の銃はほとんど音もしないのか」


防いだ手を見ながら言った。

とはいえ、黒魔術ねぇ。我が主よ。

なんちゃって聖女。黒魔術師と思われているぞ………


「まともに受けてその程度のダメージか………」


思ったよりダメージがなく驚いているようだった。

退魔師は服の下に銃をしまうと剣を抜いた。


「滅せよ悪魔っ!!!!」


クリムゾンも魔力で出した剣で応戦する。

何度も打ち合い火花が散った。


「剣術もなかなかの腕だ。だがっ!」


悪魔と人間では膂力が違う。

クリムゾンのパワーに弾き飛ばされた。


その時、顔に掛かっていたローブが脱げた。


!?


「貴様は土御門の………」


主である聖女(笑)の想い人ではないか!?


「何を今さら、ここ最近、我が土御門家の動向を探っていただろう!?何が目的だ!」


ふむ。

まさか土御門家の退魔師が主の想い人、【土御門 晴明】本人が出て来るとは。

他にも居るだろうが、これだけの力を持っているとはサラブレットに違いないな。



これをどう利用するか───


クリムゾンは不敵に笑うと口を開いた。


「我が主がな、この日本にある厄介な悪魔祓いの組織を嫌悪していてな。希少な素材など多く使い、大悪魔であるこのオレ、クリムゾンを召喚したんだよ」


「クリムゾンだとっ!?」


うん?

オレを知っているのか?


「家に保管されている古文書に書いてあった。約400年前にに日本に現れ、様々な勢力に力を貸して日本を戦乱の渦に追い込んだ大悪魔クリムゾン!」


「それは誤解があるなぁ~?元々戦乱の時代だったのだ。その覇権を争ってオレの力を借りたいと言ってきたのだ。まぁ、一度の戦で願いの対価が足りなくなって皆、最後は死んだがな」


最後は部下に裏切られたヤツもいたな。

オレには関係ないが。


「それはいい。だが良いのか?ここで遊んでいて?」

「なんのことだ!?」


クリムゾンは手を顎に乗せながら遠くを見た。


「言ったはずだぞ?日本にある厄介な悪魔祓いの組織を嫌悪していると。オレの狙いは土御門家だけではない」


!?


『この魔術が衰退した現代で、私の土御門家以外だとすると、皇(すめらぎ)家か!?』


紫音はクラスメイトであり、同じ悪魔祓いを行う同業者だ。


そして、自分の想い人の女性だ。


「まさか皇家にも襲撃を行っているのか!」

「残念だが、まだ監視で留めている。貴様の様なヤツがいるかも知れないと情報収集していた所なんだが………まぁ、暗殺はオレの趣味ではない。殺るなら正面からぶち殺す方が楽しいからな」



『精々楽しみにしておくがいい』



クリムゾンはそう言うと消えていった。


「見逃されたか………」


あのまま戦っていては自分が殺されていただろう。

次からは対悪魔祓いの重装備を準備して挑まなければ。


土御門 晴明はスマホを取り出すと紫音に電話を掛けた。そのくらいの仲ではあるのだ。家の付き合いもあるしね。


プルルッ、プルルッ、ピッ……

『は、はい!紫音です』

『夜分にすみません。まだ起きてましたか?』

『大丈夫です。何かありましたか?』


土御門はクリムゾンの事を話した。


『ヤツの狙いは、我が土御門家と皇家です。紫音の事も狙っているとヤツは言っていました。だから明日からは私が送迎をしようと思いますがとよろしいでしょうか?』


!?


『はいっ!大丈夫ですわ。晴明さんもお気をつけて下さい。何かあったら私───』


ドキッと晴明の心が高ぶった。


『い、いえ何でもありません。それでは明日、お待ちしております。お休みなさい』

『ええ、夜分に申し訳ありませんでした。お休みなさい』


ふぅ~と深い息を吐くと何気なく空を見上げるのだった。


空には大きな月が闇を照らしていた。


「おーい。我が主よ。今戻ったぞ───ぐわぁぁぁぁ!?」


部屋に戻るといきなり体罰の電撃を受けた。


「何をしやがる!」

「クリム!貴方、晴明さんに襲い掛かったそうですね!どういうつもりよ!」

「バカ!事実は逆だ、奴から襲ってきたんだよ。それを上手く利用してやったろうが?」

「えっ?どういう事よ?」


まったくこのポンコツ聖女は。


「オレのおかげで明日から一緒に学校に通えるだろうが?金持ちのお前らは車で通学だろ?狭い車内で親密になるチャンスではないか?」


!?


「そういう事ね!やるじゃない♪」


本当に単純な主であるな。

こうして、クリムゾンによる紫音と晴明を恋人にする任務が本格的に始動始めたのだった。


クリムゾンは自分が悪役となり、配下の悪魔を使ったりして紫音と晴明が共闘して、吊り橋効果の様に、協力しながら男女の仲を深めるように行動していった。




そして─────




「さて、これでオレの契約は完了だな」


結果的に紫音と晴明は恋人になった。

最後の戦いでクリムゾンが負けて魔界に帰った様に終わらせる事ができた。まぁ、紫音の屋敷に逃げ帰っただけだったのだが。


「ありがとう。クリムのおかげで長年の想いが叶ったわ。貴方は私の恋のキューピッドよ♪」

「止めろ。愛の天使などに例えられるとじん麻疹がでるわ!」


最後まで軽口を叩く紫音だった。


「それで願いの対価なのだけれど………」


紫音は祈りを捧げると、自分の魔力をクリムに送った。


「願いの対価は貴様の魂だったのでは?」

「うっさいわね。魂を渡したら死んじゃうじゃない。せっかく晴明と恋人になったのに死んだらダメでしょう!」


なんて身勝手なヤツだ。

そういうクリムゾンも不快ではなかった。精々に困ったヤツだなぁ~みたいな顔で、紫音の『聖女の魔力』を貰った。


「それに!たかだか恋の成就の様なささやかな願いで魂は対価が重すぎるでしょっ?」


「まぁ、今回は聖女の光の魔力で赦してやるか。オレも楽しめたしな」


人間界での退魔師としての戦いや、その他の様々な経験はクリムゾンの力を底上げしていた。

そして、聖女の魔力を貰った事で更に何倍もの力を手に入れたのだった。


「そろそろか。ではさらばだ!我が主よ!」


「あ、ありがとうね!クリムゾン!」


クリムゾンはフッと笑うと魔法陣の光と共に消えていった。



魔界ではクリムゾンが消えた事に気付いた魔王が軍勢を向かわせて、クリムゾンが占領した土地を取り戻して行った。クリムゾンの配下の悪魔達は命令通り守衛に徹していながら少しずつ後退を余儀なくされていた。


「クッ、せっかく奪った四天王の城が3つも取り戻されてしまった。流石に魔王と言った所か」


長い年月を掛けて信頼と忠誠心を手にしていたクリムゾンの配下は諦めていなかった。


そこに────

ゾワッ!?


ナニか来る!!!?

とてつもないナニかが!


「ま、まさか本気になった魔王が直接攻めてきたのか!?」


圧倒的な力を感じ取り、身構えたが魔法陣から現れたのは自分達の総大将クリムゾンだった。


「待たせたな。今はどういう状況だ?」


前よりも圧倒的な力を手にして戻ってきたクリムゾンに配下の悪魔達は熱狂的な大歓声を上げて喜んだ。


「お帰りをお待ちしておりました。しかし、鳥肌が立つほどお強くなって戻って来られましたな。今や、かつての四天王総出で戦っても貴方様には勝てないでしょう。無論、魔王も敵ではありませんな」


「オレの居ない間、苦労を掛けたな。だが、それだけの収穫はあった」


「留守をお守りできず申し訳ありません。現在、四天王の城3つを取り戻されました」


側近の悪魔は申し訳なさそうに言った。


「いや、むしろ最後の城をよく守り通した。拠点の城が1つでも残っていた方が進軍するのに助かるからな。これからはオレが先頭に立つ。急ぎ、攻勢の準備に取り掛かれ」


「勿体ない御言葉。クリムゾン様の御心のままに」


それからクリムゾンの快進撃は続いた。

総大将であるクリムゾンが前線に立ち、その圧倒的な力で各地を守る魔王の大悪魔達を倒していった。

そもそも、クリムゾンが人間界に呼ばれる前には、魔王城の目の前に迫っており、四天王を初めとする魔王の幹部達は軒並み倒されてはいたのだ。


それでもラスダンである魔王城の魔物や悪魔は上位種で、大将が居なくなったクリムゾンの軍勢では劣勢を強いられていたのである。



「まさか、クリムゾン様が戻られてから、ここまで簡単に、元の進軍した場所まで戻って来られるとは………」


また魔王城が見える場所まで進軍してきたクリムゾンだった。


「クククッ、わかるぞ。あの狡猾な魔王が城の中で怯えているのが。少し前まではほぼ互角の実力だったが、今やオレの方が圧倒的に強い!」


手に魔力を集めて、城の中にいる魔王に自分の実力を見せつける。



「クリムゾン様、全軍の出陣の用意が整いました」


「うむ、ご苦労!」


クリムゾンは魔王城を見下ろしながら思った。

この戦いを終わらせて、また人間界に行くのも面白いと。


「さぁ!全軍前進だ!今日こそ魔王の首を取り、オレが新たな魔王になる!!!」



オオオオォォォォォォ!!!!!!!



人間界とは別の遠い魔界の地で、新たな魔王が生まれようとしていた。


「オレが魔王になったら、またあのなんちゃって聖女の元へ行きたいものだな」


大悪魔クリムゾンは愉快そうに嗤いながら魔王軍を蹴散らして行くのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王の座を賭けて最終決戦の直前に人間界に召喚された大悪魔!呼び出した人間の願いは恋の成就!? naturalsoft @naturalsoft

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ