第69話

 体育祭が終わり、謝敷先輩との決着もついた。

 生徒会室に戻ると、部屋の中には結菜だけが残っていた。


「あ、穂高。お疲れ。もうみんな帰ったよ」


 結菜は底抜けに明るい表情で俺を出迎える。


「穂高のおかげで謝敷先輩をぎゃふんと言わせることができたよ。本当にありがとね」

「今回ばかりは本当に頑張ったからな」

「謝敷先輩が謝りにきたよ。穂高を侮ったことすまないってさ」


 そういう誠実な対応をするあたり、あの人も決して悪い人ではなかったのだろう。だが、俺には負けられない理由があった。結菜を誰にも譲りたくはなかった。この感情が芽生えたのは、謝敷先輩のおかげかもしれないな。はっきりと俺は自覚した。結菜が好きだと。兄妹でもセフレでもなく、恋愛対象として結菜を見ていると。


「結菜、話がある」

「どうしたのさ、改まって」


 俺の雰囲気が変わったのを感じ取った結菜が身持ちを固くする。体育祭の後で俺も気分が盛り上がっていた。闘争本能を刺激されたからか、どうしても今伝えたいと思ってしまった。


「好きだ。結菜」


 短く、俺はそう言った。


「え、それってどういう?」


 結菜が困惑した表情を浮かべる。その顔も可愛く愛おしさを感じる。


「俺は、ずっと女を恐れてきた。母親に裏切られたあの日から、俺は女を信じられないでいたんだ」


 あんなに尽くしていた父さんが裏切られ、俺も捨てられ、心を閉ざした。もう女なんて信じられないと思った。


「それでも、結菜だけはずっと俺のことを見てくれた。一途に俺を思い続けてくれた」


 思い返せば結菜だけはずっと中学の頃から俺のことを見てくれていた。告白し、酷い理由で振られても、諦めずに俺を思い続けてくれていた。そんな子が裏切るなんて真似、するとは思えない。俺は心から結菜を信じられる。


「結菜、遅くなったけど、俺はお前のことが好きだ。それをはっきりと自覚した。だから、付き合ってほしい」

「え、ちょっと、いきなりそんなこと言われても。参ったな……」


 結菜は顔を手で覆うと赤面する。いきなりの告白で困惑するのも無理はない。本当ならもっと雰囲気のある場所で、告白するのが女の理想なのかもしれない。だが、俺はもう自分の気持ちが抑えられない。それほどまでに俺は結菜を求めている。


「えっと、本当に……?」


 おそるおそるといった様子で、結菜が目配せしてくる。

 俺は結菜を真っすぐに見つめて頷くと、頬を掻いた。


「今日結菜の為に全力で戦ってわかったんだ。俺には結菜しかいないんだって」


 今日、謝敷先輩と体育祭で全力で戦った。男の意地を懸けた戦いだった。負けたくないと心から思った。どんなに不利な状況でも、負けたくないと、強く思った。それは結菜の前で無様を晒したくないと言う男の子的感情によるものだった。結菜を他の男に渡したくないと言う独占欲から湧き出る感情だった。


「俺は結菜が好きだ。だから、これからも俺の側にいてほしい」


 俺の正真正銘の告白に、結菜は口元を手で覆うと、目に涙を溜め始めた。その涙が頬を伝い、流れ落ちると、結菜は俺の胸に飛び込んでくる。


「私、ずっと待ってたんだよ!」

「ああ、待たせて悪かった」

「ずっと穂高が好きで……もうダメかもって思って」

「ああ、すまない」

「それでも、諦めずにずっと待ってたんだからね……!」

「ああ、ありがとう」


 俺の胸の中で泣く結菜は、顔をくしゃくしゃにしながら子供のように泣き続けた。俺は結菜の頭を撫でながら、その感情を受け止める。ひとしきり泣いた後、結菜は俺の胸から顔を上げると恥ずかしそうに顔を伏せた。


「改めて言われると、恥ずかしい」


 結菜は目を泳がせると、唇を尖らせた。

 夕暮れの教室は、哀愁が漂っており、とても静かだった。

 俺はそっと結菜に近付くと、ゆっくりと顔を近づけていく。


「穂高、いいよ」


 俺たちは求めあうように唇を交わした。セフレだった頃以来のキスだ。唇と唇が触れるだけの簡素なキスだが、それでも今までの度のキスよりも満たされる。


「もういいの?」


 結菜に求められた俺はもう一度唇を重ねる。貪るように舌と舌を絡ませて、互いの口内を蹂躙する。こんなにも愛おしく、気持ちいいキスは初めてだった。

 キスを終えた俺たちは、教室で肩を寄せ合いながら黒板を見ていた。


「まさか穂高から言ってくれるなんて思わなかった」

「今すぐ伝えたいってなったからな」

「穂高でもそんなに熱くなることあるんだ」

「俺も男だったってことだな」


 他愛のない会話を繰り広げながら、俺たちは肩を寄せ合う。隣に愛しい人がいるというだけで、心が満たされていく。


「父さんたちにも話さないとな」

「ね。どんな反応するかな」

「今から気が重いな」


 でも、結菜とならどんなに気が重いことでも乗り越えていける気がする。共に支え合い、肩を寄せ合い、身を寄せ合ってこれからを生きていく。俺の心は晴れやかだった。

 夕暮れの教室に、最終下校のチャイムが鳴り響いた。この鐘が鳴り終わる頃には、俺たちは前へ歩み出していることだろう。


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セフレが義妹になった話 オリウス @orius0

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