第68話
騎馬戦、リレーと二連勝を収めた俺は、最終種目であり目玉種目、チャンバラ合戦に出場する為、入場門に集まっていた。チャンバラ合戦はスポンジ状の剣で相手の頭の風船を割る競技だ。生き残った数が多いクラスの勝ちとなる。
こちらの種目も生徒会で対戦相手を組む際に、謝敷先輩のクラスとマッチアップするように仕組んだ。あとはこの種目に勝って、謝敷先輩を退けることができれば、結菜も安心するだろう。
なにより、結菜の前で格好悪いところを見せたくないという意地みたいなものがあった。
入場曲が流れ、一斉にグラウンド内へ雪崩れ込んでいく生徒たち。両サイドに分かれ、試合が始まる瞬間を今か今かと待っている。
ピストルの音が響き、試合が始まる。まず俺は謝敷先輩が探す。謝敷先輩は悠然と駆け出し、俺目掛けて突っ込んできていた。その謝敷先輩の前にうちのクラスの男子が立ちふさがる。交戦が開始し、剣と剣が交差し激しい打ち合いが始まる。だが、体格で勝る謝敷先輩がうちのクラスの男子の風船を割り、その隙に他の三年生の生徒が雪崩れ込んでくる。
一気に乱戦になった状況で、俺はひっそりと謝敷先輩に近付いていた。このまま隠密で謝敷先輩を仕留めることができればそれでいい。謝敷先輩は俺を見失ったようだ。
謝敷先輩が射程に入った俺は振りかぶり、謝敷先輩の背後から頭を目掛けて剣を振る。
「謝敷、危ない!」
しかしすんでのところで謝敷先輩の危機を報せる仲間の声が入り、謝敷先輩は持ち前の反射神経で俺の一撃を躱した。
「安城……これだけは負けられない!」
男の意地なのだろう。謝敷先輩は鬼気迫る表情で俺に剣を振ってくる。俺はその一撃を剣で受け止めると、背後を警戒しながら謝敷先輩と向かい合う。奇襲は失敗に終わった。あとはこの勝負に挑むだけ。もう小細工をする余裕はない。俺の技量が謝敷先輩を上回ること以外で勝ちは拾えない。
乱戦の中で緊迫する俺は、慎重に謝敷先輩と間合いを計る。一対一というわけにはいかない。乱戦の最中だし、いつどこから敵が襲ってくるとも限らない。それは謝敷先輩も同じ状況だ。
不意に、謝敷先輩に襲い掛かる生徒がいた。
「今だ、穂高!」
一輝だ。一輝が身を挺して謝敷先輩の隙を作ってくれた。謝敷先輩は一輝の風船を割ったはいいものの、体勢が崩れている。俺は一気に踏み込み、謝敷先輩の頭を目掛けて剣を振る。
ぱんっ!
気持ちの良い音が響き、謝敷先輩の風船が割れた。謝敷先輩は悔しそうに顔を歪めると、地に足を付いた。
ほどなくして俺も他の三年生に風船を割られ、脱落となった。だが、謝敷先輩との勝負には勝った。これで三勝無敗。俺の完勝だ。
チャンバラ合戦は三年生の勝利となり、俺たちは初戦で敗れることになった。退場する際、謝敷先輩の顔を見たが、とても人には見せられないような顔をしていた。
体育祭の目玉種目。チャンバラ合戦はおおいに盛り上がった。やはり乱戦になる様が見ている側からすれば緊張感が漂うようで、応援団もしきりに声を張り上げていた。
生徒会の出し物としては大成功だろう。結菜の言う学校を楽しくするという目的も達成できたし、今回の体育祭は大成功だ。
体育祭が終わった後、俺は謝敷先輩に呼び出された。体育館裏に行くと、憔悴の謝敷先輩が俺を待っていた。
「負けたよ」
短くそう言う謝敷先輩。自分の勝利を信じて疑わなかった体育祭前の表情とはかけ離れていた。
「約束通り、俺は和泉さんから手を引く」
これで結菜に関わるのをやめてくれるなら俺が身体を張った甲斐もあったというもの。謝敷先輩は最後の俺に握手を求めてきた。素直に応じた俺は後悔することになる。
「いだっ」
目一杯力を込めて俺の手を握り潰そうとしてきたのだ。最後の意地みたいなものだろう。やはり基礎の体力では俺は謝敷先輩にはかなわない。素直に負けを認めると、謝敷先輩は俺の手を解放した。
「じゃあな、後輩。しっかりやれよ」
そう言い残して、謝敷先輩は背を向けた。
「うす」
きっと俺の返事は謝敷先輩には聞こえてはいない。それでも俺はその背中が見えなくなるまで見続けた。
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