第67話
リレーの時間がやってきた。俺は入場門に集合すると、軽くストレッチを行う。今更どう足掻いてもタイムが縮まるわけではないが気持ちの問題だ。
謝敷先輩もこのリレーは絶対に勝っておきたいだろう。百メートルのタイムでは俺は到底謝敷先輩には及ばない。勝機は薄いが全力を尽くす姿を結菜に見せることで許してもらおう。
入場曲が流れ、一斉にランナーがグラウンド内へ雪崩れ込んでいく。
リレーのルールはグラウンドを一周してバトンパスをするというルール。普通のリレーに比べれば距離が長いが、これもうちの高校の体育祭の名物のひとつだ。
第一走者がスタートラインにつくと、ピストルの音が鳴り響き、一斉にランナーが走り出す。出だしはうちのクラスは悪くない位置取りだ。だが、謝敷先輩のクラスはぶっちぎりで距離をグングン話される。一周走る頃には八メートルぐらいの差を開けられた。うちのクラスの走者は二位につけているが、この距離を覆すのは難しいだろう。
「どうやらリレーは俺の勝ちのようだな」
謝敷先輩がどや顔で話しかけてくる。俺は苦笑しながら相槌を打つとコース内に出る。練習してきたバトンパスが上手くいけば、上々だろう。第二走者はうちのクラスの走者がぶっちぎりで早く、謝敷先輩のクラスの走者との距離を詰めていく。追い抜くまでには至らなさそうだが、大健闘だろう。
第二走者が近づいてくる。
「それじゃお先に」
謝敷先輩が駆けだす。後ろに手を伸ばし、バトンを受け取ろうとする。だが、ここでハプニングが起きた。第二走者が前のめりになり、転倒したのだ。バトンは転々と地面を転がり、ロスを生み出す。その隙にうちのクラスの走者が追い抜いた。俺にバトンが繋がり、俺は全力で足を回す。遅れた謝敷先輩は焦った様子でバトンを手にと取ると、俺の後ろから追いすがってくる。百メートルのタイムは俺は謝敷先輩に遠く及ばない。だが、バトンミスで広がった差はハンデにはちょうど良かった。
謝敷先輩は鼻息荒く俺に迫ってくるが、俺はなんとかリードをキープしながら粘る。残りに二十メートル。最終コーナーを回ったところで俺はスタミナが切れてくる。サッカー部の謝敷先輩はスタミナ切れを起こすどころかますます加速し、一気に俺との距離を詰めてくる。
俺は最後の力を振り絞り、全力で腕を振った。アンカーにバトンを託す。目をつぶってラストスパートをかけた俺は、最終けっやくを見ていなかった。
「くそっ……!」
地面を強く踏みつけた謝敷先輩の様子で、俺は勝ったのだと理解した。アンカーは一輝。野球部で鍛えた脚力は健在で、リードを保ったまま一位でゴールした。まさかのうちのクラスの首位に応援団から大歓声が上がる。
これで謝敷先輩との勝負は二勝無敗。勝負は俺の勝ちが決まったわけだが、最後のチャンバラ合戦もどうせなら勝ちにいきたいところだ。謝敷先輩に俺の本気を見せつけ、圧倒的な結果で結菜を諦めさせる。それが俺にできるせめてものことだろう。
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