第66話
騎馬戦はトーナメント方式だ。トーナメント表を生徒会で作成した際に、謝敷先輩のクラスと一回戦で当たるように調整した。入場門に集合した顔の中に謝敷先輩を見つける。謝敷先輩は俺を睨み返すと、不敵に笑った。
曲に合わせて俺たちが入場する。両サイドに分かれてスムーズに騎馬を組む。俺の騎馬は一輝が先頭になっている。一輝は今回の事情を把握しているので、協力してくれるだろう。
ピストルの音が響き、試合が始まる。俺はまず後方で待機し、敵の出方を窺う。
謝敷先輩の騎馬は正面から俺目掛けて突っ込んでくる。どうやら向こうは端から俺狙いのようだ。だが、そう簡単にはいかせない。事前の話し合いで守備を固める作戦を打ち出していた俺たちは騎馬が連なって守りに入る。謝敷先輩を先頭に突っ込んでくる騎馬とうちのクラスの騎馬が組み合う。すかさず、隣の騎馬が謝敷先輩を取り囲もうと回り込む。
だが、予想外の出来事が起こる。謝敷先輩はあっという間にうちのクラスの騎馬を蹴散らすと、素早く方向転換し、背後から迫っていた騎馬と応戦したのだ。あまりにも早い決着に動揺が広がる。
その隙に三年生の騎馬が次々に雪崩れ込んでくる。
「いくしかねえな」
俺は一輝に指示を出し、謝敷先輩目掛けて突っ込む。勝機があるとしたら、謝敷先輩が他の騎馬と交戦中の今しかない。時間が立てばたつほど、うちの騎馬は数を減らしていくだろうし、短期決戦にこそ勝機はある。
やはりラストの体育祭に対する意気込みが段違いだ。三年生の士気は高い。次々にうちのクラスの騎馬がやられていく。
俺が謝敷先輩に追いつく頃には交戦していたうちのクラスの騎馬がやられてしまう。謝敷先輩の背後から手を伸ばす。それを体を捻って躱した先輩は騎馬に指示を出し、距離を取った。方向転換し、俺と正面に向かい合う。
「やるか、安城」
「やりたかないですけどね、先輩」
俺たちは正面から組み合った。騎馬の高さは互角。すぐに決着をつけなければ他の騎馬に周りを取り囲まれるだろう。俺は先輩と組み合うと、激しく応戦する。
思った通り先輩の上半身の筋肉は並だ。俺と組み合っても握力は互角といった感じで、簡単にやられる感じではない。
俺は素早く先輩の頭に手を伸ばすが、先輩の手に叩かれる。今度は先輩が俺の頭に手伸ばしてくる。それをエビぞりで躱した俺はその反動で勢いよく前に乗り出して勝負をかける。
「くそっ……」
先輩が悔しそうに舌打ちするのが聞こえた。俺の手には先輩のハチマキがしっかりと握られていた。
勝った。
そう思ったのも束の間、俺の周囲を他の三年生の騎馬が取り囲む。その瞬間ピストルが鳴り響き、勝負が終わる。
自分の陣地に戻った俺は生き残った数少ない騎馬のひとつだった。勝負は三年生の勝利。俺たちは敗北した。
だが、重要なのはそこではない。謝敷先輩との直接対決に勝利したという事実が重要なのだ。
俺は小さくガッツポーズをすると退場門から退場する。退場門付近で俺を待っていた結菜が飛びついてくる。
「おい、人目があるんだぞ」
「兄を応援するのにこれぐらいは普通です」
結菜はそう言うと俺の胸をとんと叩いた。
「やったね」
「ああ。なんとかな」
本当に紙一重だった。俺に騎馬戦の経験があった分、勝ったということだろう。
だが、実際謝敷先輩のクラスは強かったらしく、そのまま勝ち上がり優勝した。俺が謝敷先輩と戦えたのは幸運だっただろう。
次はリレーだ。俺と謝敷先輩は同じく第三走者。勝機は薄いが全力を尽くそう。
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