第40話 まもりたいセカイ

 そこは学校の屋上。

 鳥の子は天を飛び回り、魚の子は河を泳いでいる。

 そんな詩があった気がする。漢詩だっただろうか? まあそんなことはどうでもよく、世界は平和で、平和で、平和で……あくびが出た。

 「ドタバタの毎日もいいが、やっぱ平和には敵わないなあ……そう思わないかい? グラム」

 グラムは藤堂の隣で湯呑みに入れた緑茶なぞを嗜んでいる。「平和ボケガエル」と呼んだら、なんだかとても喜んでいた。

「全くの同感だねぇ」

 二人してため息をつく。気持ちのいい風が、通り過ぎていった。

 ピジョンとの亜空間での決戦から一週間ほど経ったろうか? 世界は落ち着きを取り戻しつつあった。

 あの時のこと、まだ鮮明に覚えている。

「砕け散れ! カラミティブレイク!」

「必殺! ギガスマッシュ!」

 両者の剣はほぼ同時にぶつかった。

 だがほんの一瞬、コンマ一秒にも満たないタイミングで、ピジョンの剣が遅れた。ピジョンが疲れていたせいか、もしくは技がまだ自分のモノになっていなかったか。もしくは体勢の問題か。

 とにかく藤堂のグランスカリバーンが先に、災禍の剣ディザスターをとらえた。

 そして、ディザスターはへし折れた。

 文字通り真っ二つに。

「何イイイイィィィィ!!!」

 ピジョンは遂に膝をついた。

「クッ、ひと思いに殺せ!」

 藤堂はふらつく体、最後の力を振り絞りピジョンに剣を振り、首元へ剣を置く。

「たった今、邪悪の王ピジョン・ド・サブレは死んだ。これからはただのピジョンとして生きるんだな……」

 藤堂は剣をしまい、背を向けて歩き始めた。

「何度でも、お前を殺しに行くぞ! オレは!」

「そしたら……」

 藤堂は振り向く。

「何度でも叩き潰してやるさ」

 屈託のない笑顔を浮かべ、再び兎塚さんと南雲センパイの元へと帰っていった。


「ソ、ソンナコトモアリマシタネ」

「ゲロゲロゲロー。そうそう希望カッコよかったヨォ」

 ちょっと気恥ずかしさが出て、藤堂は顔を赤くしている。

「でも、ホントカッコ良かったわよ?」

「と、兎塚さん? いつからここに?」

 あごに人差し指を当てながら考える。そして一言だった。

「忘れちゃったぁ」

 ハートマークついてたような、そんな感じであざとさ満点だった。

「お、おだてても何も出ないんだからね!」

「何そのツンデレ。キモ」

 その感情の起伏、アップダウンの激しさに藤堂は多少の目眩を覚えた。

「藤堂ももう少し可愛ければなあ……この子らみたいに」

 見ればグラムとエキャモラが再会のダンスを踊っている。

「ブッホ! 何それ可愛すぎるんですけど!」

「南雲センパイも一緒にいられればなあ……」

「あ、その点なら大丈夫。センパイ復学したって」

 中国の弁髪拳士もびっくりの様子で、「え?」なんて呟いてしまった藤堂だった。

「なんか校長から「南雲! ズル休みばかりしてないでさっさと学校へ来んか!」って電話あったみたいよ?」

「ワキャワに操られていたとはいえ、勝手だなあ……」

「大人なんてそんなもんよ」

 兎塚さんにちょっと影があったが、そこはツッコむのをやめておいた。

「ねえねえ美奈」

「どうしたの? わたしの大好きなエキャモラ・ザ・プリティラビット」

「エキャモラね、おなかすいちゃったの」

「わかったわかったごはんにしよう」と、兎塚さんはお弁当を取り出す。まごうことなくそれは二つだった。

「ねえ希望!」

「ああ、コイツは……」

 藤堂もグラムも期待の目で見る!

「何? 私とエキャモラの分よ?」

「わかっていた……わかっていたのに……」

 なんだか既視感のあるやり取りだが、ソレもまたよしと思えるのは、やはり平和で平和で平和だからだろう。

 購買のフィッシュバーガーにかじりつきながら、しみじみと思う。

「元気に生きてられてよかったなあ」

「ホントね」

「そういや、漢方屋の姉ちゃんはどうしたの?」

「さあ? でも、南雲センパイ逃したって言ってそうね」

 藤堂は「確かに」と同意しながら、くしゃみしてそうな漢方屋の姉ちゃんを思い出していた。

お昼の時間はのんびりと過ぎ去ろうとしていた。


「どうしたい?」

 南雲センパイが屋上への階段を上がってくると、鉄の扉の前には生徒会長が立っていた。

「行かないか? 三英傑は歓迎するぜ? それにいい天気だ。屋上で食べる食事は、とっても気分いいぜ?」

 生徒会長は、メガネを指で上げる。

「昨日の敵は今日の友ってか? おめでたいヤツめ」

 生徒会長は階段を下り始める。

「まったく、友情とか……くだらない」

「だが、そういうのは心の糧となり、明日への糧となる。さあ次はどんな手を打つ? 三英傑がツブしてやるさ」

 生徒会長と南雲センパイはすれ違った。

 生徒会長がボソリとなにか言った。声としては小さすぎて南雲センパイには届かなかったが、魂は届いた。

「フッ、いいさ。ま、好きな時にこっちへ来な。俺たちはウェルカムだからな」

 と、悲鳴が上がる。屋上からだ。南雲センパイは屋上の扉を開ける。そこには、牛頭のマッチョ怪人が居た。

「再生牛男だ。さあ、どうする? 三英傑」

 それを見て聞いて、南雲センパイは大きく笑う。

「お前ってヤツは、本当に面白いな。イイぜ? さあ、始めようか」

 生徒会長の下段から見下すような視線にまた吹き出し、南雲センパイは戦っている藤堂と兎塚さんの元へ走っていった。

 雲ひとつない空は、どこまでも青く、澄んでいた。

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藤堂君が変身して仮面戦士ラスターになる話 ぴいたん @piitanndou

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