第9話 これから先の未来
建国祭が終わり、だいぶ周囲が落ち着いてきた頃に ソファラに呼ばれて、お家にお邪魔をしてお茶をした。
「ようやく落ち着いてきたのかしら?」
「ええ。最初は色々とあったから」
建国祭にて、王籍離脱したグラウィス様ことグラヴィ・レーグルスのことは、いつから知っていたのかなど、追及を受けることになった。
私自身は、元婚約者に絡まれていたところを颯爽と現れた時まで知らなかったのだけど、信じてもらうのは難しかった。
我が家に都合よく出来過ぎていると言われるとその通りとしか言えない。
そもそも、リオーネが協力者であることから、否定はし辛い。
そして、元婚約者の家については、厳しいことになってしまった。
建国祭の入口で騒いだこと、その前に学園内で刃傷沙汰を起こしたのに領地に幽閉するなどの処置をしていなかったことを責められ、爵位を返上することになってしまった。
元婚約者とその父母が頭がおかしいだけで、長男のルスト様は悪くないとは思うのだけど、貴族としては当主となっても父母や弟を抑えることもできず、相応しくないということだった。
ただ、家に謝罪に来た時、声がかかっており、就職先はあると言っていたので、家族と離れられてよかったのかもしれない。
「王太子殿下が動いたので落ち着くと思うけど」
「まさか、カサロス様が強硬に王籍離脱させるように求めたなんて発言するとは思わなかったわ。あのおっとりとした温厚な方が弟に対し、ずいぶんと厳しく処分を求めたなんて」
「ソファラ。それ、違うと思うわよ」
「あら、そうなの?」
「私が聞いた話だと、処分として離脱させたというよりも、グラウィス様のために王籍離脱をさせるべきと言ったみたいです。家族会議というか、王族だけで集まって話し合いをした際に、ウィス様は久しぶりに兄上に抱きしめられ頭を撫でてもらえたと喜んでいましたし……カリエン様からは、180センチを超えた男同士で抱き合っていて気色悪かったという手紙をいただいていますので」
「あそこもブラコンなのよね。甘やかし方が小さい頃から進歩していないようだけど」
「あら、まあ。確かに、抱きしめて頭を撫でるって、確かに子供にすることよね」
ウィス様に、王籍離脱を反対されなかったかを聞いた時、私も少し首を傾げてしまったが、嬉しそうに笑っていたので流してしまった。
そんな褒め方をされるくらいの頃から、表面上は敵対するしかなかったのであれば辛かったのだろう。
「思ったよりも混乱はなかったわよね」
「そうね。まあ、第3王子殿下がいらっしゃるから、グラウィス様が王籍離脱しても問題はないのよ。強硬派も諦めがついたみたいだし」
「あの方、平民と言いつつ、いまだに影響力は大きいのに、好きに動いているのがちょっと気になるのよね」
「ソファラとしては気分が良くない? イザーク様取られてるわよね」
「まあ、多少は……昔は仲が良かったとは聞いてましたけど、まさか、殴り合いの喧嘩をするとは思いませんでした。しかも、お互い、すっきりしたのか、それ以降は休日は私をそっちのけて、ディオン様を含めて出かけているみたいですし」
強硬派も第三王子殿下を担ぎ上げるような動きはない。
ただ、恨みを買っている可能性もあるので、デートで街に降りるのは出来ないと言われている。その割には、イザーク様とディオン様と街を渡り歩いているとも聞いているけど。
「イザーク様とウィス様は昔から仲良かったもの。もう少し落ち着いたら、また街中デートもできるんじゃないかしら?」
「アリーシャはイザーク様とも面識があったの?」
「私とウィス様が話をしてる時、大抵呼びに来るのがイザーク様だったわ。今のディラン様の立ち位置だった気がするけど」
でも……ディラン様は学園に入ってからウィス様の側近になった割に、イザーク様とも仲が良いのよね。
ちらりとリオーネをみる。多分、事情はリオーネは知っているのでしょうね。
「まあ、いいんじゃない? 男たちで集まってるなら、私達で集まって楽しくすればいいのよ。今だけなんだし」
「そうね。来年、卒業すれば、私はイザーク様の領地へ、アリーシャも自身の領地へ行くのでしょう?」
「ええ、数年はあちらで学ぶことが沢山あるわ。社交シーズンには王都に顔を出すけど……婚約だけで、結婚を延ばす話も出ているのだけどね」
お父様の提案に対し、ウィス様が大反対している。ただ、同時に式を挙げることもできないので、どちらにしろ、リオーネの式が先になりそうなことだけは確定している。
「私も卒業後はディオンが治める予定の伯爵領に行くわよ。ディオンを置いてね」
「あら、そうなの?」
「ええ。ディオンに『領主代理として、領地を見ておいてくれ』と言われているわ。グラウィス様のお守りを頼まれて、もうしばらく、グラウィス様と一緒に文官をするらしいわよ」
「ディオン様がお守り役なのね……というか、リオーネも領主代理できるのね?」
「ええ。アリィほど優秀ではないだけよ。ちゃんとスペアができるくらいの教育は受けているわ。だから、なにかあったらうちの領地にきて頂戴。どちらの領地からも遊びにきやすいでしょう?」
「いいわね。王都に出るよりは楽に会いに行けるわ。というか、リオーネに任せるっていうけど、ずいぶんと信頼されてるのね。リオーネはあまりデートやお茶会をしているイメージはないのだけど」
そう。
何だかんだと、週に1度はデートかお茶会の誘いが来るウィス様と違って、ディオン様からお手紙とかが届いている気配はない。
先日もお父様から上手くいっているのかと聞かれていたくらいだ。
「なんだかんだと、4年も一緒にグラウィス様に仕えていたもの。お互いに性格は把握しているわよ」
「あら、だからって放置しているのは良くないわよ?」
「今、ディオンとデートなんかしたら、グラウィス様からの惚気攻撃の愚痴しか出てこないからやめとくわ。長年の恋患いのせいで、箍が外れているのよ……何年も協力してきたからこそ、もうお腹いっぱい。面倒なことはディオンに押し付けておけばいいのよ」
「ほう……俺のいないところでずいぶんと楽しそうだな」
「ディオン……ここ、ソファラの屋敷よね?」
「ああ、失礼、ソファラ嬢。突然の訪問で申し訳ありません。事情ですが、詳しいことはイザークにお聞きください。アリーシャ嬢もお久しぶりです、ご無沙汰しております」
「ちょっと、ディオン。何勝手に私の席に座っているの」
「別にいいだろう、ほら」
突然現れたのはディオン様だった。私とソファラに対してはにこやかに丁寧をしているのに、リオーネにはあくどい顔で口調も崩れている。しかも、リオーネが立った隙に席に座ってしまい、リオーネはディオン様の膝の上に座る体勢になっていた。
「やあ、お邪魔しているよ、ソファラ。急にごめんね……リシャ、会いたかったよ」
「え? ウィス様?」
後ろから声が聞こえて振り向くと、いつの間にかにっこりと笑っているウィス様がいた。
「あら、一体どういうことかしら?」
「すまない、ソフィー……こいつら、話を聞かなくてな。町で君に似合いそうな髪留めを見つけたから買ったんだが。今から行けば、マルキシオスのお二人もいると言い出して、止められなかった」
「そうでしたの、驚きましたわ」
「これを、君に……高いものではないが、普段使いに良いと思って」
「ありがとうございます……どうでしょう?」
「ああ、よく似合っている」
イザーク様はソファラにプレゼントの髪飾りを渡して、ソファラも嬉しそうに身に着けている。二人とも少し顔を赤くしていて初々しい。
「会いたかったよ」
「はい、ウィス様。でも、昨日お会いしましたよね?」
「うん。次に会えるのが6日後だと思ったら、辛くて。イザークがソファラにプレゼントを買ってたから。便乗させてもらったんだよ」
「ちょっ、近いです」
椅子から立ち上がり、ウィス様の方を向くとぎゅっと抱きしめられて、耳元で囁くように話してくる。
「大丈夫。ソファラもリオーネもこっちは見てないから。もう少しだけ……お願い」
「……少しだけです」
「うん、ありがとう」
私はウィス様に抱きしめられていて見えなかっただけで、ばっちり4人には見えていたらしく、後で知って恥ずかしい思いをした。
その後、3人のお茶会が6人のお茶会に変わり……そのまま、楽しい時間を過ごすことができた。これからも、好きな人達と過ごせるなら嬉しいなと思う。
双子姉妹の婚約破棄 白露 鶺鴒 @hakurosekirei
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