第2話 僕の人生の大事な歯車が一つ嵌められる

余命宣告を受けたその夜、僕は準備を進めていた。


まずは銀行通帳。ある事情によりかなりの金額が入っている。


お金の心配はいらないくらいだ。


次に身分証明書。


あとはスマホかな。


うん、これでおしまい。


そもそも病室にこれくらいしかないし最悪お金さえあればどうにかなるしな。


そして僕は律儀に病院を出ることを記した手紙を置いて病室を出た。









そうして僕は夜の街を歩いていた。


冬の季節であるのでかなり冷えている。


……なんか着るもの持ってくればよかったかな。


僕の服装は病院服の上から軽く羽織っているだけ。


まあ大丈夫でしょ。


街の光に照らされて、久しぶりの外で少し感動に浸って歩いていると路地裏に人の影が見えた。


なんだろう?


気になって見てみるとそこには女の子が1人座っていた。


髪の長い女の子である。


なんでこんなところにいるのか。


服装を見ると良いものを使っているっぽい。


気になったので話しかけることにした。



「ねえ君。なんでこんなところにいるの?」


するとその子は顔を上げた。


街の明かりが差し込んで彼女の顔がはっきりと見えた。


整った顔をしていて黒く長い髪と、とてもあっている。


その黒い瞳にははっきりと警戒の色が出ていて


「あなたがここにいる理由と話しかけた理由を話してくれたら話します。」


そんなことでいいのだろうか。僕が嘘をつくかもしれないのに。


「大丈夫ですよ。嘘をついたらわかりますから。」


え?心読まないで?


「あなたがわかりやすすぎるのですよ。顔に出てますよ。」


え?まじ?


人と会わなかったからわかんなかったわ。


「とにかくあなたが話してくれたら私も話します。」


そうしないと絶対に言わない、という顔をしている。まあ別にいいか。


やましいこともないわけだし。


「わかったわかった。話すよ。」


そして僕は入院していたこと。脱走したこと。そしてここまで来たことを話した。


病気のことは伏せてね。変に同情されるのが1番嫌だからね。


「はい、これでおしまい。さあ、これで君のことを教えてくれるかな?」


「……わかりました。」


そして彼女はやや納得してない表情をしながら語り始めた。


「簡単な話です。家出ですよ。……家に帰ればいいんじゃないかって?いやですよ。喧嘩?違いますよ。私ね、生まれつき人の言ったことが嘘かどうかわかるんですよ。それで私の家は人と交流する機会が他の家に比べて多いのですよ。親族などではありません。なのでみんな嘘しかつきません。嘘ばっかりです。そして私自身も。ですけどね疲れたんですよ。嘘で塗り固めた仮面をつけ続けるのを。だから逃げ出したんですよ、家からね。それでしばらく彷徨ってここに辿り着いたと言うわけです。お金はありません。財布を忘れてきました。だから宿も取らずに路地裏にいる訳です」


一気に話したから少し疲れた様子だった。聞いたならもういいだろうと、目が言っていた。


お金がないからこんなところにいたのか。それなら、


「一緒に来る?」


「…はい?」


「いや、僕これから旅に出ようと思っててだったら一緒に来ないか?と思っただけだけど。」


「……何が目的ですか。」


目的、か……なんとなくが強いけど強いて言うならば


「仲間が欲しい、かな。」


「仲間?」


「そうそう、僕ね昔から体が弱い方であんまり運動できなかったのね。それでずっと本を読んでいたんだけど小学生ってさ大体が外で遊んでいるんだよ。そのせいで少しずつ孤立していったんだよ。中学校では友達の作り方がわからなくてね。そのまま入院生活に入ってしまったからね。だから一緒に楽しめる仲間が欲しいんだよ。やましい気持ちはない。君の話が本当なら僕が嘘をついていないことはわかるでしょう?」


ああ、まずい。要らないことまで話してしまった。とにかく、まずは


「それで……どうかな?」


「……」


だめ…かな…そうだよね。今あったばかりの人について行く訳ないよね。


「……ごめんね、それじゃあ……」


「わかりました。」


「え?」


「一緒に行きましょう」


「え?いいの?」


まさか承諾するとは思わなかった。


「……行くところもありませんし、先ほども言ったように私は嘘かどうかがわかります。なので嘘をついていないことが分かりましたので。あと何かあってもあなたが社会から消されるだけですから。」


え、こわ。


まあ、社会から消される前にこの世から消えると思うけどね。


「しかしお金は大丈夫なのですか?私は1円も持っていませんが」


「ああ、それは大丈夫。かなり持っているからね。」


「……そうですか。それでは」


彼女は深く頭を下げた


「これからよろしくお願いします。」

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夜桜が散る頃に 真夜中に散りゆく桜 @sakura-tiru

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