第5話 正気に戻る?
なんだか妙な感じ……。
まさか素戔嗚分校公式制服を着て登校する事になるなんて思っても見なかった。
最後に着たのは、入学式の時だったっけ。
あの時は、お父さんとお母さんと一緒に登校することになっていたので、メイド服を着ることができなかった。
「あ、凛。おはよう」
スマホ見ながら登校している凛に声をかけた。
一般人だと歩きスマホは危険だけど、凛は仮に探索者。
歩きスマホぐらいで注意散漫になって事故るようなら探索者失格だ。
「おはよ……ヨル、ツー?」
凛は驚きの表情をすると、手に持っているスマホが滑り落ちる。
探索者用のタフネススマホとはいえ精密機器であることには変わりない。
サイコキネシスを使用する事で、地面に接触するギリギリで止めることが出来た。
そしてサイコキネシスで止めたスマホを、私の手元まで移動させる。
「ヨルツーがメイド服を着ずに、制服で登校なんて……。ついに正気に戻ったの?」
「いやいやいや。私はいつも365日24時間。ずっと正気なんだけど!!」
「趣味で四六時中メイド服を着ている相手を、世間一般では狂気というのよ」
「それは世間が間違ってるッ」
「――間違っているのは、どう考えてもヨルツーの方だからね」
そんな事はないと思うけど……?
手に持っているスマホを凛に渡すと、私達は学校に向けて歩き始めた。
「それでどうして今更制服を着て登校する事にしたの?」
「それは――」
うーん、ここで馬鹿正直に主治医に過労でメイド業務を停止させられたというのは悪手。
今でさえアスクラピウスに制限されているのに、更にきつい制限をかけられる可能性がある。
更にお父さんとお母さんに、メイド業務を伝えられる可能性があった。
ここは真実を混ぜ合わせつつ、過労の事は話さないようにしよう。
「……お父さんとお母さんが、今年の天覧祭に時間を作って来てくれる事になったんだ。さすがにメイド服では回れないから、今のうちに少し慣れておこうと思ってね」
「え。鉄心さんと羽衣さんが来るの!? 大丈夫? 8月って職人さんの繁忙時期でしょう」
「うん。でも、なんとか時間を作ってくるってこの前、会食した時に言ってた」
一応、対抗策として「冥王」としてお父さんとお母さんの制作した武器を修繕可能レベルで破壊しようとした。
用事を増やして参加を見送らせる作戦である。
だから所持している昇位試験を行ったのだけど……。
私欲でお父さんとお母さんが丹精込めて制作した物を壊すのは、流石に私も気が引けた。
結果。罪悪感に苛まれた私は、破壊する事が出来ずに昇位試験を終える事になった。
「冥王」が10位以上への昇位試験以外も受けるという事が広まり、時期悪くして阿頼耶識神威さまの一件があり、私は身動きがとれなくなってしまった。
そして過労の末に、私はメイド業務を停止させられている。
「まあ、メイド服を着ない理由はわかったわ。でも、私が言った時は物凄く恥ずかしがっていたのに、今は平気なのね」
「今は羞恥心と恥ずかしさという感情を封印しているからだよ」
「は? 封印? それって大丈夫なの?」
「うーん、大丈夫といえば大丈夫だけど……大丈夫じゃあないといえば大丈夫じゃあないかも?」
「どっちよ?」
「ほら。例えばだけど、凛はここで全裸になれって言われたらできる?」
「できる理由ないてしょう」
「そうだよね。でも、私はその気になればこの場で全裸になる事ができるよ。まあ、流石に倫理的にしないけどね?」
「つまり今のヨルツーは、恥ずかしと感じる感情を封印しているから、普通は恥ずかしと感じる行為を平気で行えるってこと?」
「Exactly!」
問題は普通なら恥ずかしくて出来ない事も、そういった感情を封印していることでできたりできなくなったりしてしまう。
流石にさっき言ったみたいな行動は論外だけど、細かい事は気が回らない可能性がある。
例えば風でスカートが捲れたりするときは、普通はスカートを抑えるけど、その行動がワンテンポ遅れる場合が出てくる。
まあ、私の場合は、スキルを使ってアニメにありがちなブラック化しているから問題はないけどね。
「……でも、それっていつものヨルツーと何か変わるの?」
「え?」
「四六時中メイド服を着ているし、割と恥ずかしい行動を多々していると思うのだけど」
「いやいやいやいや。メイド服は恥ずかしくないからねっ。給仕の方に土下座して謝るレベルだよ。あと、私は恥ずかしい行動をした記憶なんて一切ないのだけどっ」
「ライトノベルの中世ヨーロッパ的な世界観でもないのに、メイド服をきて学校に通うことは恥ずかしい行為よ。あと、普通に肉体的接触が多い」
「メイドがメイド服を着るのは当然! あとメイドがご主人様に対して肉体的接触があるのは、奉仕精神が高いことなので恥ずかしいことじゃあないよ!!」
全く……凛は幼馴染なのにメイド学を何も理解していない。
これは久しぶりにメイド学についてゆっくりと話し合う必要がありそうだ。
「絶対にイヤだからね」
「……まだ何も言ってないのだけど?」
「アンタの頓珍漢なメンドの常識語りを聞く暇はないの。――新しいタイプの配信探索者が出てきて、どうしようか考えている最中なんだから、今は忙しいの」
「新しいタイプの探索者? ダンジョン発生してから50年も経っているこの時代に?」
「そうよ」
凛は手に持っているスマートフォンを私に渡して来る。
画面にはVirtualTubeのようなアニメキャラが、動きに滑らかにモンスターを討伐しながら探索している様子を流れていた。
「VirtualSeekerっていうらしいわ。ヴァーチャルキャラをリアルに作り出して実際に探索するようよ。今までのVDTubeは画面越しのコラボとかだったけど、これは実際にリアルで活動できることから、私の事務所もだけど、なんとかコンタクトを取って、技術を得ようとしているみたいなの」
「へぇ、そうなんだ」
「……ヨルツー。貴女の関係者じゃあないの」
「ん? どうしてそう思うの」
「このVirtualSeeker――雷光クロっていうキャラが使用する武術だけど、開闢終焉流っていうヨルツーが考え出した「わたしのかんがえたさいきょう流派」を使用しているからよ」
確かにモンスターを斃している時の必殺業を使用する際、「開闢終焉流」と言っている。
まあ、私というか同冥たち皆が使用しているから、きっと同冥たちの誰かの関係者だと思う。
ん。この魔力波長に、黒と白の雷は見覚えがある。
確か数ヶ月前に青木ヶ原樹海で助けた女性――魄霊冥無さまだ。と、いうことは「開闢終焉流」を教えたのは、冥無さまの専属メイドになっているシヴァか。
基本的に私と私達はご主人様同士が接触しない限りは、干渉しないというのが暗黙のルール。
「んー。知らないなあ。そもそも「開闢終焉流」は色々な人に教えてあるから、たぶんその人の関係者じゃあないかな。あと厨二病じゃうないよ。実際に、この宇宙の開闢から終焉まで、あらゆる戦闘技術を詰め込んだ最強の流派だから、嘘偽りのないよ」
「はいはい。そうですねー」
凛……そんな可哀想な目で見ないで欲しいんだけどっ。
こうなったら凛に、改めて「開闢終焉流」の凄さを教えてあげるとしよう
「――よし。じゃあ、凛、デートしよう。ダンジョンデート!!」
「は、はあ。いきなり、何を言い出すの」
「凛に「開闢終焉流」の凄さを教えてあげる。それに、この前渡した刀は壊されたから、ついでに素材から集めて、新しい武器を作ろうか。それをネタに配信すれば、同時接続数もとれるよね」
「……今まで誘っても頑なに断ってたくせに」
「今まではメイドだったからね。メイドは目立たずに主という光の影にいてこそが、真のメイドとしての立ち位置。でも、今はメイド休業中だから、多少は一緒にダンジョン攻略する事はできるよ。――それでどうする?」
「ヨルツーがいいなら、お願いするわ」
「オーケー。なら、今週の土曜日。潜るダンジョンは私が見繕っておくから、告知とかヨロシク。あ、私の名前は出さないでね。身バレはイヤだからさ」
凛と一緒にダンジョンに潜るのは、なにげに始めてだ。
メイドだからこっそり凛にバレないように見守りながらって事はあったけどさ。
そろそろ凛は、1段階上の武器を使っても大丈夫……なハズ。
今の凛であれば、武器に使われるような状態にはならないと思うから、いけるいける。たぶん。
冥王? はい。メイドの王ですが、なにか? 華洛 @karaku_f
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