第38話 エピローグ

 進化とは生き残ることだ。

 アンテもまた、ギリギリの場所で進化をしながら生き残ってきた。ギリギリの数で。

 同族を狩る牙と爪となるマシナを減らし、かつて絶滅させその働きをマシナに変えていた植物たちも、今ではマシナを使い繁殖させている。

 過去の過ちを見つめ、バランスを保つためにマシナを使っていた。生き残るためだけにマシナを使っていた。

 船の中のマシナは、ファンデルのような存在を生むこともなく、アンテの手によりごく単純な働きに退化することで、アンテの進化に手を貸していた。

「ムテルへ降りた途端、ファンデルが創った生命体に攻撃されるということもあるだろうね」

 小さな船で故郷の大地を目指すアンテの一人が、窓に映る景色を見ながら言った。

 窓の外には、ヴァーブラの街道が一本の光輝く糸のように見えている。

「ないとは言い切れん。だが、その時はその時。ただ間違ってもこちらから手は出すな。数では負ける。見たところ国もいくつかに分かれているようだ。一年以内で状況を見極め、船で待つ全員が住める国を作ることが第一目標だ。俺が去ってからも好き勝手に動くなよ」

 ひと際大きな体躯の青年が言うと、さっき口を開いていた男が窓の外の景色を凝視して返した。

「分かっていますよ。まずは我々の数を増やさないと。そして、ムテルを僕らの手に取り戻すんだ」

 他の乗員も「そうだ、そうだ」と頷いていた。

 生物は住む場所に合わせて生態を変える。狭い船から、故郷であるムテルに戻ったとき、アンテはやはりその生態、性質を変えるのであろう。

 ファンデルとひとつになったサンクテクォの危惧する通りの未来が訪れ、アンテたちがスタークたちの新たな敵となるのか。

 歴史は繰り返す。だが、生物は進化を続ける。変化する。生命の灯が燃え尽きるまで。


 破滅の罪人 第二部 ~オルビスと検石主の力~ 了

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破滅の罪人 2 オルビスと検石主の力 西野ゆう @ukizm

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