第2話

「い、いやっ……いやぁぁぁぁぁっっ!!!」


 ある女子生徒の悲鳴で俺は現実に戻された。

 現実の世界で初めて見た死体は、アニメやゲームで見た死体の何倍もグロい。


「うわぁぁっ!!」「し、死んだのか!?」

「な、何かの冗談だろ……この血も血糊とか」

「早く逃げるぞ!」「どうやって!?」


 何人かの男子生徒が死体を飛び越え、扉の取っ手に手をかける。

 ——結果は同じだった。


「わ、悪ぃ。俺、グロいの苦手で……」

「白橋……とりあえず座ろう。無理に逆らうのは得策じゃない」

「は、はは……お前は平気なのか?」

「平気じゃない。ただ、頭が状況を飲み込めていないんだ」


 都築は言った。デスゲームを開始すると。

 マイクの電源が再度入った。


『はい、静かに。先ほど、笹原先生もおっしゃられたとおり、君たちはもうすぐ社会人なんですよ?落ち着きが足りません』

「……へっ。落ち着きだってよ。あいつの頭は本気でイカれてるのか?人が死んだのに落ち着けるわけないだろ……おぇ」

「お前は黙って休んでろ」


 白橋の背中を優しく撫でていると、少しづつ状況が頭に入ってきた。

 反面教師、という言葉はこういう時に使うのだな。

 都築が気持ちの悪い笑みで話を進めた。背筋が泡立ち、荒れていた部屋が静まり返る。


『ではルール説明をします。大事なことだから、一回しか言いませんよ』


 都築が投影機のリモコンを操作すると、大きなホワイトボードに文字が浮き出た。


『君たちはこれから、五人一組のチームになってもらう。あぁ、心配することはない。こちらでランダムに決めさせてもらった。ひとりぼっちの君、安心したね』


 再びリモコンを操作。画面が切り替わる。

 映し出されているのは……校舎、か?

 撮影日の天気も相待って、薄暗く見える。


『今、君たちの前に映し出されているのはこの学校——の偽物。ここでは”裏校舎”と呼ぶが、この後の君たちのデスゲームの会場だ』


 裏校舎の内部と思われる写真が次々とスライドしていく。

 ざっと見た限り、この学校と同じだ。全四階の校舎がふたつ、渡り廊下で繋がっている。

 写真が上にスライドし、校舎の見取り図が表示された。


『それと、各学校には”監督教員”を配置している。ゲームの内容に反した場合、監督教員によって生徒指導が行われる。内容は……すでに体験した生徒もいるようだね』


 体験した生徒……視線が少し後ろに。首のない体と血の水溜りが見えた。首を横に振る。

 

『これはデスゲームだ。画面越しのゲームではない。指を切れば痛いし、内臓を貫かれたら死ぬ。そんな過酷な環境の中、私は君たちが生き残る方法を三つ用意した』


 都築の人差し指が天を指す。


『ひとつ、君以外の全員が死ぬ』


 都築の中指が天を指す。


『ふたつ、監督教員を殺す』


 都築の薬指が天を指す。


『みっつ、昇降口の鍵を見つけ、扉を開く。どの選択肢を取るかは自由だ。裏切るか協力するかは好きにしなさい。社会人にはどちらもつきものだからな。内容は君たちが転移してから放送で発表する。各自の健闘を祈る』

「っ……!?」


 体が……光っている?他のみんなも、白橋も、都築の体も光っている。

 隣で半ば死にかけている友人の肩を叩く。別れの挨拶みたいに聞こえるが、これだけは言っておきたかった。

 

「白橋、死ぬなよ」

「……誰に、言って、いる。俺が、そう簡単に、くたばるわけ、ない、だ、ろ……」

「それふざけてるのか?」

「本気で気持ち悪いんだ。俺のチームが殺し合いを選んだら、間違いなく俺は最初に死ぬ」

「幸運を祈るぞ」

「それは自分に祈っとけ。俺はもう——」


 白橋が最後まで言えずに光の塵となった。

 俺の体も少しずつ崩れていく。痛みはない。苦しくもない。頭が真っ白になっていく。

 

「絶対生き延びるからな」


 都築の姿はもう無かった。

 


 

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主任がデスゲーム始めた @namari600

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