主任がデスゲーム始めた

@namari600

第1話

 八月一日。俺たちはこの日を忘れない。



 俺たちは学年集会として、だいたい二百五十人分の机が用意されている『集会室』に呼び出された。

 この学年の人数は二百四十。かなり広い部屋とはいえ、全員座ればほぼ満タン。

 俺のクラスは二組。席は一番後ろ。

 視力は悪くないので、最前列でハゲ——進路担当の笹原が話していることぐらいは分かる。


『君達は来年から社会人の仲間入りだ!そのためには、高校二年生の今のうちから、他の模範となるような心構えを……』


 高校生になって二度目の夏。長い長い補習期間が終わり、明日からは何もない惰性の日々。

 部活を辞めた俺にとっては、寝るかゲームか課題を進めるかの三択しか残っていないな。

 明日は寝るだけ寝て、課題進めつつ溜めたゲームのイベントを消化して——肩を突かれる。


「……なんだ?」

「……なぁ、このクソ暑く、かつ大切な俺達の夏休みに存在する全校出校日。おまけに学年集会とか、何のためにやるん?」

「知るか。お先生のお有難いお話が現在進行形で行われてるだろ?黙って聞いてろよ」


 隣の長髪の男——友人の白橋が、聞こえるように大きなため息を吐く。

 かつてバスケ部の副顧問だった春山に睨まれたので、笑って誤魔化しておく。

 視線がズレたタイミングを狙って耳打ち。

 

「……馬鹿野郎。お前、目をつけられたぞ?」

「逆にこんなの聞いて何になるんだよ。少しは周りを見ろ。コクリコクリの相槌パレードだ」

「居眠りの大名行列だな」


 三列前では、野球部の坊主が顧問の山風に机を叩かれて起こされている。

 あいつも不運だな。他にも寝ている奴はいるのに、自分だけ怒られて。


「進路担当の……何だっけ?」

「笹原」

「そう。あいつの話、長いくせに内容がすっからかんで面白くないんだよな」

「お前は教員に何を求めている」

「現代社会を破壊する思想」

「偏ってるねぇ」


 再び元顧問に睨まれた。軽く両手を挙げ、降参の姿勢。抵抗はやめた方がいい。

 時計の針が二十回ほど動くと同時に、笹原が壇上で頭を下げ、地獄は終わった。

 いつも司会を任されている島中が、今日も司会用のマイク前に立つ。


『続いて、主任の都築先生の話です。姿勢を正して——礼っ!!』


 全体の前に立ったのは、背が高くパッとしない若い男——主任の都築だ。

 発言がいちいち大袈裟なところがあるので、個人的には好きだ。聞いていて飽きない。

 マイクに息を吸い込む音が入った。

 

『みなさん!夏休み、満喫してますか?』

「……してると思いますか〜」


 白橋がぼやき、周りの男子がクスクスと笑い出す。この時点で夏休みを満喫しているのは補習をサボった奴ぐらいだ。

 白橋と同じことをした奴が他にもいるのか、他クラスからも笑い声が聞こえてくる。

 ……これ、都築の想定内の反応だな。

 耳に手を当て、うんうんと頷く都築の顔がパッと明るくなる。


『補修があった者、よく頑張った!部活があった者、よく頑張った!だが、暑い夏はまだ終わりじゃない。今日は君たちに、とっておきのサプライズを用意してきたぞ〜?』

「……サプライズ?」


 この学校、やたらといろんなものを配布するんだよな。この前はエナジードリンク。その前は洗剤。スポーツドリンクもあった。

 隣で目を輝かせている友人に問う。

 

「白橋、何だと思う?」

「酒」

「未成年だっつーの」

「真面目に考えれば塩飴だな。今年もあれだろ?最高気温更新!ってやつ。去年も言ってたけどな」


 まぁ、俺も薄々塩飴だと思っている。

 冷めた視線を向けていると、都築と視線が一瞬あった……気がした。

 都築がマイクを口元に近づけた。目が血走っている?何やら様子がおかしい。

 白橋にそのことを伝えようとした時、都築の口から信じられない言葉が飛び出した。


『君たちには【デスゲーム】を行なってもらう!』

「……は?」


 聞き間違い……ではないな。部屋中が騒がしくなっている。教員達が止める様子はない。

 白橋が半笑いで問いかけてくる。

 

「デスゲームってあれか?君たちで殺し合ってくださーい、っていう」

「ラノベでしか聞いたことないな。何かの冗談でもなさそうだし……ん?」


 俺達の少し後方に座っていた三人組の女子がいきなり立ち上がった。何か話している?

 口の動きから察するに……


「逃げよう」


 背筋が泡立つ。冗談だと思って本気にしていなかった頭が覚醒した。

 俺と同じように女子達を見て、固まっている白橋に囁く。


「俺たちも行くぞ」

「……お、おぉ」


 俺たちも席を立ち上がる。すでに女子群は逃げるように出口へと走っており、扉の取っ手に手をかけ——


「え?」

「は?」


 揃って首が吹き飛んだ。



 

 

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