第33話 憶測

はぁ、とため息をついて、アレクシス様は言葉を発した。


「…ミランダ皇妃はおそらく、妊娠しているんだ」

「え…」


この、大変な時期に。

私は少しの怒りと焦りで何も言えずにいた。


「…これが、男児だったら…」


ミランダの子供が男児であれば、アレクシス様のその地位は脅かされることになる。ミランダは手段を問わずアレクシス様を潰そうとしてくるはずだ。我が子を皇帝にしたいがために。


「…どうして、わかったのですか」

「謎の雲の渦対策として皇室の予算を見てみたんだ。一応、皇族用のも。ーーすると、赤ちゃんへの服、おもちゃなど、さまざまなベビー用品が購入されていることがわかった」


それは、確定事項と言って良いだろう。


こんな時に、どうしたものか…!


◇◇◇

「お父様。今度、母のお墓参りに行って参ります。お父様も行かれますか?」

「いや…私はいい」


父は、いつからこうなったのだろう。

昔は名君で、私の母で皇后であるエレナをとても愛していた。

それに、皇后のお墓参りを拒めば、それがバレた時に非難される、というのは考えて当然だろう。今の父は、ミランダを愛するばかり、客観性に欠けている。


代わりにセシリアがついてきてくれることになった。


「お母様。帝国は、今、最大の危機に瀕しています」


花を添える。


「でも…私は母の子です、必ずや、この思い出の場所を守ってみせます…」


小さい頃は、危ないから、と止められていたかもしれない。だけど、私はもう皇太子だ。できることは沢山ある。


母の大切なものを、人を、絶対に守りたい。

そして、セシリアも。


「…エレナ皇后陛下。きっと、アレクシス様を助けて立派になってみせますので」


セシリアの心構えは尊敬したくなるほどだ。

だけど、人間は誰しも強くはないのだから……。


セシリアも花を添えたーーその時。


「っ!?」


セシリアは、思わず墓に触れた手をすぐに引っ込めた。

大丈夫か、と問い、手を握る。


「はい…、大丈夫ですわ」


母は遠い帝国スザンヌから来た。

そこでは、この国では消滅してしまった「神聖力」というのがあったらしい。母も持っていたそうだ。もしかすると、その力の影響かもしれない…。


「アレクシス様、そろそろ雨が降りそうです。帰りましょう」

「…ああ」


なんてな。

全て、ただの憶測にすぎないーー。



帰ってくると、城の入り口で、ジークフリート王太子が立っていた。

そして、セシリアを見て、言った。


「セシリア。コーネリアに帰ろう…」


手には、謎のペンダントを持っていた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る