三章

第32話 雲の渦と


「何の用です?ーージークフリート王太子殿下」


彼は、アスレリカへやってきたーー。



話は三週間前に遡る。


真珠の事件の後、私たちはなんとなくもやもやを抱えたまま平穏な毎日を過ごしていた。

そんなとき、情報が入ってきたのだ。


「巨大な渦が…!」


渦。

伝えた彼が言ったのは、水の渦ではなく、「雲」の渦。

いざ、外へ出てみると、人々の目が不安の色で染められていた。そして空を見上げると。


「なんだ、あれは…」


巨大な雲のかたまりだが、確かに渦のようで、さらに何かを吸い込んでいくように…。


「至急、民を避難させろ!」


吸い込んでいく、というのは気のせいではなく、木々ーー「冷魔の森」と呼ばれるアスレリカの森が、壊れていく。吸い上げられたあとは、跡形もなく、むしろ何もなかったかのようにただ更地になるだけだ。


私は、展望台へ登った。

東にはスラム街。そして、それの北東を行くと、冷魔の森。渦は、スラム街へ向かって動いているそうで、南東へ進んでいく。皇都には来ない、と思われたが。


◇◇◇

ばたばたと城の者たちが動いているのが、馬鹿馬鹿しい。

人間の力ではあんなものーー到底消せないのに。


あれの正体を私は知っている。


だって、私が作りだしたのだもの。


一ヶ月前。

私はコーネリアに「訪問」という形で訪れた。もちろん大歓迎。


「ようこそおいでくださいました」


そこで、私は、セシリアの元婚約者、ジークフリート王太子を見つける。最近、彼は悪評が絶えない。それを、利用することにしたーー。


「あら、ジークフリート王太子ではありませんか。少しお話をしたいですわ」


◇◇◇

渦は停滞。

スラム街直前にして、進路を変えたのだと報告が上がった。


しかし、渦はずっと動かなかったーー。


「お聞きになりまして?」

「ええ…コーネリアのジークフリート王太子殿下がいらっしゃったそうね」


そう。

そして今、ジークフリートはコーネリアの城にやってきたのだ。


「何の用です?ーージークフリート王太子殿下」

「セシリア…!国に帰ろう」


……は?

浮気をした張本人が、「帰ろう」なんてよく言えたものだ。それに、私はコーネリアの皇太子妃となる身。気軽にここを離れられるわけがない。


相変わらずの王太子に呆れながら、私はとりあえず帰りなさいと促したが、泊めて欲しいと言われる。流石に一国の王族を蔑ろにはできないので城に泊めることにしたーー。


「渦はどうなったのだ」

「それが、停滞状態が続いているそうです」


アレクシス様は、どこか冴えない様子。


「何か、あったのですか?」

「…実は。信じられないことが発覚した…」

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