第31話 挽回の機会

私は、別邸から帰ってきた次の日、気づいたのだ。


ーー自分の部屋に、祝福の真珠が置いてあることを。

それも、引き出しに。


「皇妃がやったんだわ」


理解した。

そして、アレクシス様に相談した。すぐに影武者ーーリュカを貸してくれて、彼はすぐにクレア邸に戻してくれた。


あの女は私を嵌めようとしたのだ。

そして、それを使って私とアレクシス様に罪を追わせ、失脚させようとしたに違いない。


だけど、彼女の目論見は外れた。

リカが、訴えてくれた。

疑いはミランダにかけられたが、皇帝に庇われたーー。


「話したいことが、あるのです…」


怯えながらも彼女は全てを話してくれた。


自分はずっと皇妃付きの侍女だったこと。そして、皇妃に命じられ、私を監視していたこと。毒ガスの件も自分が手伝い、計画も全部教えられたこと。悪いとわかっていながらミカとまだ幼い弟のことで脅されていて逆らえなかったこと。そして、解雇されたこと。


「本当に申し訳ありませんでしたっ…ですが、すごく差し出がましいし、忌々しいですが…。お願いがあるのです」

「…なあに?」

「ここで、雇っていただけないでしょうか!」


正式に、私直属となるということだーー。

私は、人間には挽回の機会が与えられるべきだと思う。浮気した王太子とアメリアのことはもう知らないけれど、彼らにも挽回してほしいと思っている。そして、この侍女ーーリカも。


「いいでしょう。その代わり、不審な動きがあれば、すぐに解雇します」

「っ…!ありがとう、ございますっ!!」


いじめなんて、そんな趣味は全く持っていないし。

リカが今までの分も頑張ってくれたら、それでいいのだ。


「期待してるわ」


そう言うと、応えてみせますと元気に返ってきた。


◇◇◇

「ねえ…最近の王太子殿下がさ…」

「…ええ、聞いたわ…アメリア様も残念ねぇ…」


私の婚約者、ジークフリート王太子の悪評はもはや当たり前になってきている。

私が実子ではない、「隠し子」ということは、お父様が隠してくださっている。だけど、それを知っている王太子は日に日に悪行を積んでいるのだ。


久しぶりにお姉様に会ったとき、美しい、と思ってしまった。

ライバルなはずで、お父様に愛されない不憫な子供だと思っていたのに、まさかそれは真逆で私は愛されていなかった。


お姉様はすごく綺麗な礼儀作法を見せた。

美しいお辞儀をし、挨拶、話し方、姿勢、食べる姿まで。全てが完璧で、現実と向き合うことになった私は、王妃が絶賛する理由が分かる気がした。


「努力しない」、ただ婚約者を寝取ったも同然の私が、急に恥ずかしくなってーー。


「素晴らしいです、アメリア。驚くほど変わりましたね」


そう、変わったのだ。

お姉様のようになりたいと、そう思えるようになった。


だけど、それを、私の婚約者はーー。


「私生児のくせに、馬鹿馬鹿しいな。隠し子は床に這いつくばって雑草でも食ってろ笑」


こうやって、今までとは態度を急変させた。

それでも、私は未来の国母になるのだ。罪は消えないけれど、これから改善していきたい。

そう思い始めた矢先ーー。


「…大変です、国王陛下、王妃陛下、アメリア様!」


信じられない報告を、現実をーー目の当たりにすることになった。

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