第26話 目覚めて

「……セシリア。セシリア!」


ふいに目を開けると、そこには切羽詰まった顔をしたアレクシス様がいた。そして、すぐに安堵の表情に変わる。


「…アレクシス、様…私は、助かったのですか?」

「うん……危ないところだった」


検出された気体は「毒ガス」。献上品のあの宝石の中に、小さく細工された瓶が見つけられたらしく、そこから毒ガスが漏れていたそう。

ロードン伯爵は、そもそも「毒ガスを持ち歩いていた」というのと、蓋が見られなかったことから故意的だろうと「公爵令嬢であり主賓を毒殺しようとした」疑いで捕まっているらしい。


「…だけど」


それを説明したアレクシス様は、黙って考えている。

大体予想はつく。アレクシス様は、きっと、疑っているのだ、あの人を。でも証拠もない今、隙を見て冤罪をかけられる可能性が高いーー。


「…アレクシス様?」

「…ああ、すまない。考えことをしていた」


そういえば、とアレクシス様は思い出したように言った。


「君の父が来ているよ」


ーー父?アメリアを愛してやまない父が、愛してもいない娘の私のもとに何の用で?

アレクシス様は、「親子で積もる話もあるだろう」と退席した。そしてまもなく、父が入ってくる。


「…お父様、お久しぶりです」

「……っ!セシリア、無事だったのか…」


…え?なに、この態度の違いはーー私が「帝国皇太子の婚約者」の座に収まったから?


「お父様…どのようご用件でしょう、お聞かせください」


流石にここまで素っ気なくされると、父もすぐに諦めて帰っていくだろうーーしかし、当ては外れた。


「…そうだよな…セシリア、すまなかった!」


急に頭を下げたのだ。

思わず、昔から保っていた公爵のプライドはどこへやったのだと、ツッコみそうになるほど唐突で。


「…私は、セシリアに嫌われていると思っている。昔からそうだと思っていた」


父は話し始めた。


「私の妻ーー亡くなったお前の母が、残した言葉を知っているか?」


そんなもの、知るわけない。

だって、お母様のことを聞けば皆、使用人たちは黙って何も答えてくれなかったんだものーー。


「セシリアを愛するのは成人してからでお願い、と。そう言われたんだ」


ーーえ?成人してから、なんて、親からの愛情を一番に求めるのは、子供の頃なのに。それを無視して、お母様はーー。

いいえ、きっと、何か意味があるはず。


「お姉様ぁ!大丈夫ですかっ!」


アメリアが入ってくる。その後ろには、イライラした王太子ジークフリートが。


「ああ、アメリア。ちょうどいいーーお前も聞きなさい」


父は、そう言って話し始めたのだーー。






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