第14話 報告書

◇◇◇

「殿下。何やら最近楽しそうですね」

「ああ」


そう、楽しい。

最近会った「セシリア」という女は、絶対に平民ではない。あの仕草は付け焼き刃ではできないし、話し方、それに私が身分が高い者だとまで理解していた。

図書館では懸命に「平民らしい答え」を考えていたのが可愛らしく思えた。


「そうだ。「セシリア」という名の貴族はいるか?」

「…いえ。把握するところ、いなかったかと」


補佐官のマルクスが答える。

この国にいないのなら、ようは「訳あり」と言ったところだろうか。


「そういえば。うちの配下にあるコーネリア国の王太子が噂になっておりますよ」

「ほう?」

「最近婚約破棄をなさったようなんですが、そのあと荒れ放題だとか。滅びるのも時間の問題ですかね」


コーネリアは今こそ名君が王座についている。しかし、その上の世代は何度も帝国を危機にさらしており、次もそうであれば、財政状況は困難だろう。


「「セシリア」という女を調べて欲しい。わかっているのは、ホワイトピンクの髪色に緑の瞳。おそらく貴族令嬢だ」

「ええー。仕事が増えました」

「頑張れ」


増やしたのは誰だ、とぶつぶつ文句を言いながら仕事場に向かうマルクスだが、そんなでもきちんと仕事をこなし、私に仕えてくれている。


「あら、アレクシス。こんにちは」

「…こんにちは」


そっけなく返す。

私の母はいない。とうの昔にこの世を去り、新しい皇妃は私の暗殺を目論んでいる。

義母は嫌いだ。何を考えているのか分からないのだからーー。



「殿下。わかりましたよ!」


一ヶ月後、やっとマルクスが報告書を手にして入ってきた。

私はすでに何度も会っているのだが、頑なに口を開こうとしない。はぐらかされる。


「本名はセシリア・ラファエル。コーネリア国の公爵令嬢で、噂の王太子殿下に婚約破棄された令嬢だそうです!」


公爵令嬢。

なかなかの大物が来たので、自分でもびっくりした。それにしても、公爵令嬢がよく城下で「平民」として過ごせるなと感心してしまった。


図書館の受け答えも兼ねて、おそらく、贅沢三昧で暮らしてきた令嬢ではない。きちんと学がある。


「それにしても、殿下が女性を気にするなんて。珍しいですねー」

「黙れ。それより、仕事しなくていいのか?」

「っ…」


またぶつくさ文句をいいながら仕事に取り掛かる姿に苦笑する。本当に、申し訳ないな。


マルクスの言う通り、私は幼い頃から女が嫌いだった。

女はみんな、媚を売るものだと思っている。義母が来てからは特に、女性に興味が失せたーーはずなのだが。


「…面白くなりそうだ」


私はにっこりと笑った。





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