第13話 図書館

「なんか最近あの人、滞在時間が長くないですか?」


マーガレットが言う「あの人」とは、もちろん金髪碧眼の美青年で、この店の常連さんのこと。最近はやたらと長くここにいる気がする、というのは私も同感だ。

貴族だが、次男とかだろうか。暇なんだろうなぁ。


「お客様。何もご注文なさらないのでしたら退席なさっていただきたいのですが」


「わー辛口ー」と、マーガレットが裏で言う。そして、オーナーが気まずそうにしていた。まあ、貴族の方にこんなこと言うなんて、何されるか分からないものね。


だが、今回、彼は私ににっこり笑って言った。


「セシリア。明日、街にある図書館まで来て欲しいんだ」


ええ。だけど、断ることはできない。


「かしこまりました」

「それじゃあ、失礼するね」


何が嫌って、正体がバレるのが嫌なのよ。これ以上探りをいれられないかと警戒しているのだ。


街にある図書館。それは、一つしかない。

明日は休日だ。それを狙って、彼は私を誘ってきたのだろう。人が悪いことで。



「お待たせいたしました」

「こんにちは、セシリア。じゃあ、早速入ろうか」


にこにこと笑っているが、なぜかその笑顔に裏があるような気がする。


「本は好き?」

「あ、はい。まあ」


誤魔化したが、本当は大好きだ。

コーネリアにいる頃、よく王城に行っては王立図書館へ赴き、立て籠もって読んでいたくらいなのだから。


「じゃあ、これについての感想を聞かせて」


本当に、人が悪い。

差し出された本は、まさかの領地経営。そんなのが、平民にわかるわけないでしょう!


「…わかりかねます」

「そっかあ、残念」


そう、これでいいの。私は「平民」。


「じゃあ、一つ尋ねることがある」

「は、はい、なんでしょう」


ごくりと唾を呑む。もしかして、出生についてのこととかーー?


「もし、この国で戦争が起こったとする。そのとき、起こりうる問題点は?」


だから。

そんなのが平民にわかるわけないじゃん!でも、この人は私を試そうとしているのだ。

普通の平民ならなんて言うだろう。堤防、とか?いいえ、もっと頭の良い人はーー。


物質ぶっし、でしょうか」

「ほぉ」

「…アスレリカの財政状況は把握しておりませんが、人口を見る限りここは帝国、国庫金だけでは回りません。しかも、軍事費などを優先する必要があるでしょう。帝国民を全て救おうなど、幻夢に過ぎません」


よし、これが平民に近い回答のはず!!

だが、青年は意地悪だった。


「解決策は?」

「…そういうことが起こらぬよう、できるだけ条約を対等に、ですが損をしないように隣国と締結するのです。あまりに有利だと、逆に背かれる可能性が高いからです。そして戦争時、物資を輸入すること。さらにーーそうですわ、隣国レベッカ。ここなら金鉱を持っているでしょう、普段から貿易することで国庫金が潤うはずです」


はっ。

しまった、喋りすぎたーー!流石に、生意気だと思われたかしら?


「…すごいな、君は。レベッカのことまでーー」


あ、私、平民なんでした…。

レベッカのことを知っているなんて、おかしいわね。それに、レベッカの貴族だと思われた?


今日は本を何冊か借りて、お開きになった。






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