第5話 慰謝料

「申してみよ」

「はい。まず一つ目に、私への償いです。私は「傷物」、社交界でも腫れ物として扱われるでしょう。ですから、国外へ行こうと思うのです。そのために必要な資金として、ということでございます」

「…!そう、か…貴女のような素晴らしい人材はこの王国に必要だが…うちの愚息は、それだけのことをしたのだな。誠に申し訳ない」


国王は頭を下げるが、王太子はもう成人した立派な大人、ここまで親に尻拭いさせるのはよろしくない。国王自身は悪くないのだから、私は頭を上げてください、と言う。

寛大なひとだ、と国王陛下は感心してくださった。


「恐れながら、二つ目の理由を申しとうございます」

「許す」

「私は、父の多大な迷惑をかけました。未来の王太子妃として期待してくださった方々には父も含まれております。せめてもの親孝行をしたく、しかし方法が思いつきませんでしたが…。慰謝料を公爵家に役立てることで、孝行になると思ったのです」


これは、本当に「」だ。

父に孝行をしたいなど、本当はあまり思ったことなどない。説得に、この理由を使ったために国王にも同じ案を使った、それだけのこと。

公開したら同情してもらえる、そんな理由はやはり必須だ。


「…本当に、セシリア嬢は素晴らしい。逃げ道は裏で用意しようか」

「…いえ、お気遣いなく」


思いやりは、時に毒となる。

私はもう、ここに関わりたくないのだ。連絡が取れてしまうと、王太子が何をしてくるかわからないのだし。


「そうか。勝手なことを言った。それでーー慰謝料はどれくらい?」

「そうですわね…。二つの理由から、少なくとも普通の二倍は欲しいかと」

「ああ。分かった、ならば800ルーク用意しよう」


結構大金だ…。

800ルークということは、つまり…農地が買えるどころか爵位を持つ家庭が半年間裕福に暮らせる…。

満足した私は、最後にお礼を言うことにした。


「王妃殿下。私の幼い頃からずっと、妃としての立ち居振る舞い、教養をお教えくださりありがとうございました。残念な結果ですが、ぜひ生かしてみせますので」

「まあ。気にしないで、あなたは優秀な生徒だったわ。元気でね」


国王陛下と王妃様は、いつも優しい。

どうしてあんな王太子が生まれたのだろうと、疑問に思う。

王城を出る。9年間、ここに通い続けたこことはもうおさらばだ。さようなら、やさしいひとたちーー。私は、このご恩を一生忘れません。


そして、私は旅立つーー。



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