第3話 説得

それから、事の経緯をお父様に説明した。

お父様は、今回ばかりはアメリアを許さなかった。


ーーそう。今回ばかりは。


お父様は、アメリアをひどく可愛がった。

父にとっては、産後亡くなった、愛した妻が残した忘れ形見、それがアメリアだ。二番目ということもあって、比較的自由に育てられたきた妹は、しかし私のものをたくさん奪っていった。

筆記用具からドレス、家具、メイド、最終的に部屋も移動させられた。けれど、お父様は何も言わなかった。


だから今回も許してしまうのでは、とも思ったが、流石にそれは杞憂だったようだ。

これは、私を心配してのことじゃない、「家」の失態とその処罰を案じてだが…。


私は婚約破棄の書類を作る。

そして、それを父に提出した。


「セシリア…。お前は、この家がどうなってもいいのか?」

「…いいえ。ですから、アメリアを…」


ヒュンッ。


ペンが飛んできた。なんとか、横をかすっただけだった。


「アメリアに、王太子妃が務まると思うか?」

「いいえ」

「なら、お前しかいないだろう!」


父はやっぱり、今回のことで憤っているようだ。

それでもアメリアを手元に置いておきたいのかと、我が父ながら呆れた。


「私は、いわば「浮気された傷物」です。そんな私には醜聞が絶えないでしょう。ですから、ここで悲しみに暮れる令嬢として最後に…と婚約破棄を望むのです。世間は私に同情いたします」

「それが上手く行くと思うか?私にはとてもそうだとは思えない」

「お父様。この上手く行くと思われた婚姻さえ、上手くいかなかったのです。ですから、逆にこの計画が成功する可能性も十分にあるかと」


こういう、説得は上手い方だと思っている。

幼い頃から、一から丁寧に教育してくださった王妃様にはとても申し訳ないけれど、私は婚約破棄を望むのだ。


小さい頃に、自分の気持ちに蓋をした。

殿下は、私に振り向いてくれることなど、一度もなかったからーー。


そして浮気された。

よりにもよって、妹と。


「お父様。世間の目を気になさるのならば、娘に優しい方が同情を引きます。「アメリアには罰を与えた」とでも言っておけば、たとえ軽い刑でも安心でしょう。それとも、代わりに慰謝料を請求してこの家の発展に繋げることも可能かと」

「ふむ…。そうだな、お前に任せよう」


やった。


「お父様。ついでに、エスコートを」

「ああ。わかっている」


家のことを言っておけば、説得できる。

それを幼いながらに気づいたのだ。アメリアのように物をねだるときは、アメリアと一緒ではいけない。

「家」に利益があるように、頼み事をするのだ。



私はこうして、婚約破棄の許可を得たのだった。



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