アウタートラック
アフタードリーム:きみが見る夢の始まり
・体育館裏。
〇バレーボールの跳ねる音や、シャトルがガットに打たれる音。室内シューズのスキール音が響く。遠くから金属バットが軟球を打ち返す快音が聴こえる。
「ん、こんなとこにひとが来るなんて珍しい」
「悪いけど、今はわたしが使ってる。
用件次第だけど、ただ時間を潰すためだったら別の場所に行ってもらえるかな」
「ん? わたしは何してるかって?
……そうだね、まあ、おまじないみたいなものかな」
「初対面のきみになんで、具体的な内容まで話さなきゃいけないのさ」
「花占いでもしてるのかって? おもしろいね。
あいにく、これまでもこれからも、恋の予定はなくてね」
「……ああ、もしかしてきみ、告白の予定でもあったの?
古典的だねぇ。体育館裏なんて、じめっとしててシチュエーションとしてよくないと思うけど。
ま、そこは青春補正ってやつでどうにでもなるのか」
「違うの?
じゃあ、何さ。悪さをしようにも、いつ体育館の扉が開くのか、わからない。
他を当たったほうがいいよ」
「それも違う?
じゃあ何さ。……ん? 私が困ってそうに見えた?」
「(愛想笑い)おもしろいことを言うんだね。
そういうのは、間に合ってるんだけど……ああ、きみのおかげで今日は愉快に終われそうだ」
「お礼だ。おまじないの内容を教えてあげるよ」
「この、学校って居場所に、わたしの心が馴染めますようにって、そう願っているんだ」
「だから、きみができることなんかないよ。
わたしの、問題だからね」
「さあ、行った行った。
ひととかかわるのが疲れるから、こんな場所にいるんだよ。
きみがわたしに何かしてくれるなら、いなくなってくれるのがいちばんの助けだよ」
「きみは、きみの居場所に帰るといい」
「ああ……でも、そうだ。
せっかくだ。ちょっときみ、おもしろいし。名前、教えてくれないかな?」
「……ん。ありがと。
その
だから、ま、もし校内で会うことがあったら、気軽に先輩って呼んで」
「これも何かの縁だからね。
気が向いたら、わたしのほうからもきみに話しかけるよ」
「ん? 明日もここにいるかだって?
いたら何。また来る気?」
「いなかったら使う?
はぁ、何に使うのか知らないけど。そうだね、わたしより先に着いたら、自由にしたらいいよ。
わたしに所有権があるわけじゃないからね」
「ん、なんの権利もないけど、今はわたしの居場所。
それは、譲れないよ」
「納得してくれて助かるよ。
ん、じゃあね。また明日、ってやつだ」
〇体育館から聴こえてくる音が遠のいていく。
「——て」
「おーい、起きてー。
起きる時間だよ」
「ほら、ねぼすけ。起きた起きた」
「そんなぽやぽやして。
何、いい夢でも見たの?」
「忘れたぁ?
はぁ、まあいいけど」
「なんだか幸せそうな寝顔だったし。
きみがいい夢を見られていたなら、わたしは幸せだよ」
きみと見る夢のさなか~ほっと安らぐひとときは、きみと~ 綾埼空 @ayasakisky
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